【解説】所在不明のプリゴジン氏…45時間ぶりSNS投稿 プーチン氏は“怒り心頭”? 見え隠れする「イヤミ」
ロシア国内での反乱後に所在がわからなくなっているロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者プリゴジン氏が、45時間ぶりにメッセージを公開しました。
●45時間ぶりの「主張」
●プーチン氏の怒り…今後は
以上のポイントを中心に詳しく解説します。
プリゴジン氏は26日、45時間ぶりにSNSに音声メッセージを公開しました。
ワグネル・プリゴジン氏 26日公開の音声
「私たちが戻る決断したのには2つの大きな要因がありました。第1の要因は、ロシアの血を流したくなかったことだ。 2番目の要因は、私たちが抗議活動を示すために行ったのであって、この国の政府を転覆させるために行ったわけではない」
民間軍事会社のワグネルは、これまでウクライナ侵攻でロシア軍に協力し戦闘に加わってきました。つまりロシアのプーチン政権を支える存在でした。しかし最近は、国防省が自分たちの指揮下に入るよう迫り、ワグネルはこれを拒否。対立が深まっていました。
そこでプリゴジン氏は反乱を起こしました。南部のロシア軍の拠点などを占拠し、その後モスクワに向けて進行。最終的に撤収という形になりました。
プリゴジン氏の目的は何だったのでしょうか。プリゴジン氏のメッセージの内容を、まとめてみました。
まず「(ワグネルが)7月1日に消滅することになっていた」と言っています。この“消滅”というのは、国防省と契約を結んでロシア軍の指揮下に入ることで、ワグネルが政府に“のみ込まれてしまう”という意味にとらえることができます。
そして「誰もその契約に同意しなかった」としています。その理由として「戦闘能力の喪失につながる」として、ロシア軍とは戦闘の方針をめぐって対立していることがうかがえます。
そして、反乱の目的は「抗議の意思を示すため」で、「政府を転覆させるために行ったわけではない」としています。真意は分かりませんが、メッセージの中では、ワグネルを解体させないために行った“抗議行動”だと主張しています。
プリゴジン氏はモスクワへの進行に際して、国防省やロシア軍を非難するコメントを相次いでSNSに投稿しています。
例えば、モスクワへの進行を開始する前の23日には「(ロシア軍は)ワグネルを壊滅させるためにあらゆることをしている」などと言って、ロシア軍が自らの部隊を攻撃していると訴えました。そして「軍の指導者の悪事を止めなければ」と、ロシア軍への反乱を宣言しました。
そして24日、ロシア南部にある空港と軍事施設を掌握したと投稿。さらに「参謀総長と国防相がここに来ないならモスクワに向かう」と投稿しました。その後、モスクワに向けて進行しましたが一夜明けて、一転して撤収を表明しました。この表明もSNSの投稿で行いました。
「モスクワまで200キロの距離に迫ったが、一滴の血も流していない。ただ、流血の可能性が出てきたため部隊を引き返す」と述べていました。
プリゴジン氏の居場所については、分かっていません。プリゴジン氏のビジネスジェット機がベラルーシの軍用飛行場に到着したという情報もあります。ただ、姿は捉えられていませんし、所在について公式な発表はありません。
気になるのは、今後プリゴジン氏がどうなるかです。ロシア政治が専門の慶応大学・廣瀬陽子教授に話をうかがいました。
今回、プリゴジン氏のメッセージで「ベラルーシのルカシェンコ大統領が、法的な管轄の下でワグネルが活動をするための解決策を見つけることを提案した」という発言がありました。これは、仲介に入ったルカシェンコ大統領の提案で、「ワグネルが“合法的”に活動することが認められる可能性が見えてきた」と廣瀬教授は指摘します。
ワグネルはロシアでは“非合法”の民間軍事会社です。そして、非合法だからこそロシア軍の指揮下に入れられそうになったわけです。ロシア政府にのみ込まれるのではなく、ルカシェンコ大統領の下でワグネルとして存続する道が示されたのならば、自分たちの命を守りつつ権益をアップさせたいというプリゴジン氏にとっては“うれしい提案のはず”だと指摘しています。
そして廣瀬教授は、もうひとつ注目ポイントをあげていました。
プリゴジン氏がメッセージの最後に「1日でモスクワの200キロ手前まで到達した」と念押ししたことです。
廣瀬教授は「こんなに簡単に進行されていて、ロシア軍がいかにダメか“イヤミ”としてした発言。『やっぱりワグネルがいないとロシア軍はダメじゃないか』と言いたかったのでは」と分析しています。
こうした発言にプーチン大統領は“怒り心頭”だとみられます。プリゴジン氏のメッセージが投稿された約5時間後の26日午後10時すぎ、プーチン大統領の演説が行われました。
ロシア・プーチン大統領
「武力反乱は、どのような場合でも鎮圧されていただろう。反乱の首謀者たちは、これを理解していなかったはずがない。反乱の首謀者たちは、祖国を、国民を裏切り、犯罪に引きずり込んだ人々をも裏切った」
最終的にはワグネルが「流血」という選択をしなかったことは「正しい判断だ」とも述べ、兵士らに対しては感謝を表しました。その一方でプリゴジン氏を名指しこそしなかったものの、厳しく非難している内容でした。
プーチン大統領は今後、ワグネルをどのようにしたいと思っているのでしょうか。
廣瀬教授によると、「本来はロシア国内の混乱なのに、ルカシェンコ大統領に仲介されて進行を止められたこと」「ルカシェンコ大統領が“ワグネル存続の道”を示したこと」が、プーチン大統領のプライドを激しく傷つけているとみられます。
さらに、「モスクワまで200キロの距離まで簡単に北上できた」とまるでバカにしているようで、相当怒っているとみられます。
この一連の行動や発言は、「プーチン大統領としては、これまでの人生に泥を塗られたも同然で、許せない部分があるのではないか。プーチン大統領のこれまでを考えても、プリゴジン氏をこのままにしておくとは思えない」と指摘しています。
ワグネルは、これまでプーチン大統領が勲章を授与するなど、功績をたたえていた、助けられていた存在です。それを逆に“反逆者”とののしることで懸念されるのは、「言うことが一転する大統領の姿が、国民の不安感を高めてしまう」ことです。そのため、廣瀬教授は、“この先どのようにするのかわからない”とも指摘しています。
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ロシア国内で起きたワグネルの反乱は一旦、収束した形になります。ただ、今後プリゴジン氏やロシア国内の状況がどうなるのかだけでなく、ロシアを取り巻く国際情勢、ウクライナ侵攻に与える影響などを注視する必要がありそうです。
(2023年6月27日午後4時半ごろ放送 news every. 「知りたいッ!」より)