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外交官車両も悪用か…北朝鮮「核・ミサイル開発」の裏で“金”密輸拡大 金鉱山では水銀汚染も広がる

2023年10月31日 12:54
外交官車両も悪用か…北朝鮮「核・ミサイル開発」の裏で“金”密輸拡大 金鉱山では水銀汚染も広がる
中国・丹東の「中朝友誼橋」 対岸が北朝鮮・新義州

核・ミサイル開発を加速させる北朝鮮が、その開発資金を調達するため、金(ゴールド)の密輸を急拡大させていることが消息筋への取材で分かった。その手法は「瀬取り」のほか、外交官車両を悪用したケースも。一方、鉱山では多くの住民が労働を強いられ、水銀汚染が深刻化しているという。

■国連“北がサイバー攻撃で暗号資産を奪取”

10月27日、北朝鮮の制裁違反について調査する国連安全保障理事会の専門家パネルは中間報告書を公表。北朝鮮が去年1年間にサイバー攻撃で盗み取った暗号資産は推計17億ドル相当(約2500億円)にのぼったと指摘した。前の年の3倍以上にあたり、過去最高額となる。

背景にあるのは、北朝鮮が加速させる核・ミサイル開発だ。大規模なサイバー犯罪を通じ、開発資金を集めているとされる。9月には金正恩総書記が「核戦力の強化は戦略的判断だ」と強調。軍事偵察衛星の3回目の発射を予告するなど、軍拡路線をいっそう鮮明にしている。

一方で、北朝鮮経済は苦境が続く。2016年には国連安保理制裁を受け、外貨稼ぎの主力だった鉱物資源の輸出が禁止された。これに加え、新型コロナウイルスに伴う“国境封鎖”が長期化。貧困問題が深刻化し、餓死者も出ているとの情報が絶えない。

■国連制裁かいくぐり“金”密輸が倍増

こうした中、北朝鮮が今年に入り、国内で採掘・精錬した金(ゴールド)の密輸を急拡大させていることが消息筋への取材で分かった。輸出先の大半は中国。国連安保理の制裁をかいくぐり、水面下で外貨を調達しているという。

中国政府はというと、2016年の制裁決議以降、北朝鮮からの金の輸入を全面的に禁じている。実際、中国当局が密輸を摘発するケースも多く、北朝鮮産の金の輸出は激減していた。

ところが、今年から中国向けの輸出量が急増。ある中朝関係筋によると、今年1~9月で約1500キログラム(約150億円相当)と、すでに2016年の年間輸出量の2倍にのぼる。新たな資金源の獲得を急ぐ北朝鮮が、中国の密輸業者とともに警察関係者を“買収”するなどし、取引を増やしているのだという。

■外交官車両を悪用か 国家ぐるみの密輸ルート

これまで密輸は主に、洋上で船から船に積み荷を移し替える「瀬取り」で行われてきた。ところが最近、新たな密輸ルートが浮上している。それは、いわゆる外交特権で税関検査を免れる「外交官車両」を利用するというものだ。

消息筋によると、今年7~8月頃、新義州(北朝鮮)と遼寧省丹東(中国)を行き来する北朝鮮の外交官車両が、複数回にわたり金の運搬を行った。金は中国側にある北朝鮮領事館で秘密裏に保管されたあと、中国の業者に売却したとみられる。

北朝鮮では、国防省や朝鮮労働党の軍需工業部などが相当量の金を保有しており、軍事関連費を調達するため、各方面に金の売却ルートを開拓するよう指示している。いわば国家ぐるみで密輸を推し進めており、外交官が“密売人”として関与している疑いがあるのだ。

■外貨獲得の裏で…鉱山労働と深刻な水銀汚染

こうして稼いだ外貨の多くは、やはり核・ミサイル開発にあてられる。北朝鮮では、制裁や国境封鎖の影響で食糧難が深刻な状況になっているが、飢餓に苦しむ住民は置き去りのままだ。

さらに金の密輸拡大で状況は悪化している。消息筋によると、北朝鮮の鉱山では住民らが強制的に動員され、採掘・精錬作業にあたる。現場は、北部の雲山鉱山(平安北道)や大峰鉱山(両江道)、南部のホルドン鉱山(黄海北道)など各地に存在する。

しかし設備が古いため、鉱山では崩落事故が相次ぐ。さらに、精錬に使う水銀などによって環境汚染や健康被害が多発し、鉱山で働いた女性の妊娠・出産に悪影響が出るケースも。北朝鮮の人権状況はますます深刻なものになっている。

金正恩総書記は9月にロシアを訪問してプーチン大統領と会談し、軍事協力について協議したとみられる。今後、ロシア側から技術支援を得られれば、核・ミサイル開発をさらにエスカレートさせる可能性がある。