「自由が完全崩壊した」民主活動家・周庭さんは… 香港で「国家安全条例」施行
香港では23日、スパイ活動などを取り締まる「国家安全条例」が施行されました。言論統制の強化が懸念される香港について、カナダで亡命生活を送る香港の民主活動家・周庭さんは、「自由が完全崩壊した」と語りました。
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今月22日、私たちは、カナダにいる周庭さんを訪ねました。
末岡寛雄記者 NNNトロント
「よろしくお願いします」
香港の民主活動家 周庭さん
「よろしくお願いします」
香港の民主活動家・周庭さんは去年、留学先のカナダで、事実上の亡命を表明しました。
香港の民主活動家 周庭さん
「雪が、わりと好きですね。雪を見ると、“あ、私はもう香港にいないんだ”という実感もわいてきて…」
故郷で見ることのない雪景色が、皮肉にも安心感を与えてくれると話します。
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2020年、「無許可のデモを扇動した」などの罪で、周庭さんは実刑判決を受けました。2021年6月の出所後、警察に“カナダに留学したい”と伝えると、過去の政治的活動を否定する“懺悔(ざんげ)書”のほか、中国大陸に連れて行かれ、警察への「感謝の手紙」を書かされたといいます。
さらに、警察の“スパイ”になるよう、もちかけられたといいます。
香港の民主活動家 周庭さん
「(海外の)香港人の活動家の情報を『私たち(警察)に提供しませんか?』という誘いもあって」
周庭さんは、これを拒否。事実上の亡命を表明したあと、香港警察は、周庭さんを指名手配しました。
香港の民主活動家 周庭さん
「自由は保証されているというのは、香港の良さのひとつだと思いますけど、いま、この良さが完全崩壊」
香港では2019年の大規模デモをきっかけに、反政府的な動きを取り締まる「香港国家安全維持法」が2020年に施行されました。
さらに、23日に施行されたのがこの法律を補完する「国家安全条例」です。スパイ行為などが禁じられていますが、犯罪の定義が広く、さらなる統制強化が懸念されています。
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日本人にとって身近な旅行先だった香港ですが、その実態にも変化が起きています。去年、香港を訪れた日本人は約35万人で、大規模デモ前の2018年の4分の1ほどです。現地の旅行業者によると、「社会情勢の変化による印象悪化」が背景のひとつとみられています。
香港で美容師として働く細川さんは、社会の変化を肌で感じていました。
香港で7年前から働く 細川信義さん(香港、23日)
「人が減っていっているという感じはしますね。離れていっているのかなと。マーケット自体が小さくなってきているというのはあります」
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急速に自由が失われる香港で続いているのが、「脱出」の動きです。
渡辺容代記者 NNN香港(24日)
「こちらは、国外への移住を考えている人を対象とした博覧会なんですが、あっせん業者のセミナーには多くの人が集まっています。」
「国際移民博覧会」の主催者によると、「国家安全条例」が可決された先週から、入場登録者数が急増したといいます。
参加者
「いま、政治的な話題を議論することは、敏感な問題です。住む場所を変えるしかありません」
参加者
「子どもをいまの(愛国)教育のもとで成長させたくありません。自由な成長を促す環境がないですから」
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故郷から離れて生きる道を選んだ、周庭さん。国家安全条例で、香港への思いはさらに複雑になったといいます。
周庭さん
「(以前は)『香港人だから、香港が好きだ』とよく言ってたんですが、いまは『香港が好き』とは言えなくなりました。(自分の考えを)自由に言えることが、本当の自由の意味じゃないかなと思います」
先月、3年ぶりにYouTubeへ動画を投稿した周庭さん。香港では難しかった「人生を楽しむこと」も、大切にしています。
周庭さん
「12年間ずっと政治(活動)をやってきて…政治以外のものにも挑戦してみたいなという気持ちはありますね」
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中国による統治が徹底され、言論の萎縮が加速する香港――
かつての自由は、もう戻ってこないのでしょうか。