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「私は誰から生まれたの?」匿名出産で生まれた子の思いとは『母と子の幸せの行方は フランスからの報告』②

2023年11月25日 13:16
「私は誰から生まれたの?」匿名出産で生まれた子の思いとは『母と子の幸せの行方は フランスからの報告』②
シリーズ「母と子の幸せの行方は フランスからの報告」。昔から匿名での出産が行われてきたフランスの現状を見つめます。

2回目のテーマは、子どもが生みの親を知る、いわゆる「出自を知る権利」です。

熊本市の慈恵病院が取り組むのが、女性が病院の相談室長にだけ身元を明かす「内密出産」。これに対して、病院で身元を明かさず出産するのが、フランスが法律で保障している「匿名出産」です。

取り組みへのヒントを得ようと、10月フランスを訪れた慈恵病院に同行取材。匿名出産で生まれた実の親を知らない子どもや養ての親たちの声から、制度の在り方を考えます。

パリ郊外に暮らすセリーヌさん(仮名)。匿名出産で生まれた子どもを育てています。息子のルイさんは現在10代後半。幼い頃から養子であることを伝えてきました。

■匿名出産の子どもを育てる養親 セリーヌさん(60代・仮名)
「彼は小さい時から自分の出自に関する質問をしていました。彼はパズルのピースを集めるように情報を集めて、色々と想像をして、自分のアイデンティティーをつくろうとしていきました」

1993年に「秘密のもとでの出産」を法律に明記したフランス。
すべての産科病院で匿名を希望する女性の出産を受け入れるよう規定していて、子どもに伝える情報は国に任命された専門スタッフが女性から聞き取ります。こうして聞き取った「出自」に関する情報は国が管理。子どもは18歳になると開示を求めることができますが、それ以前に養親や心理士など専門スタッフの立会いで情報を見ることもできます。

「なんで僕を育てられなかったんだと思う?」「兄弟はいるのかな?」

息子のルイさんは幼少期に養子であることを伝られていたため、14歳になる頃に出自に関する「書類を見たい」と望んだといいます。しかし…。

■匿名出産の子どもを育てる養親 セリーヌさん(60代・仮名)
「実の母親について彼に伝えられる要素は、ほんの少ししかなかった。空白の中から彼のアイデンティティーをつくることの大変さに、私たち家族は激しく直面しました。『なぜ僕は見捨てられたのか、なぜ僕は実の親を知らないのか』…」

自分のルーツがわからないという「空白」を埋めることができず、思春期には「また見捨てられるのではないか」と暴力的な行動もあったと明かしてくれました。

「見捨てられた…」匿名出産で生まれた女性 出自の情報を閲覧し気持ちに変化は

匿名出産で生まれたモリーン・ブランシャールさん。

■匿名出産で生まれたモリーン・ブランシャールさん
「思春期が誰にとっても難しい時期であるのに加えて、私は常に怒っていました。不公平な気持ちがとても強かった。それは『見捨てられた』という気持ちがあったからです」

モリーンさんは、結婚や出産を機に自らの半生を本にまとめした。そこには怒りや不安から大麻に依存したり、同じく養子だったいとこの自殺を 目の当たりにした経験などがつづられています。

■匿名出産で生まれたモリーン・ブランシャールさん
「怒りを感じたり、落ち着いたりしていましたが、自分が母になってやっぱり理解できないこともある。でも良い悪いなど裁く気持ちはありません」

16歳と24歳の時に閲覧した出自についての情報。その中には母親の写真も残されていました。

■匿名出産で生まれたモリーン・ブランシャールさん
「私はずっと小さい時からお母さんはきっと小柄で色が黒くて髪はきっとくるくるなんだろうと思っていたけど、実際の母は背が高い白人女性ということを知って、単純なことなのにがっかりしてしまいました」

■慈恵病院 蓮田健理事長
「書類のコピーを見てがっかりしたというのは、見ない方が良かったと?」
■匿名出産で生まれたモリーン・ブランシャールさん
「いずれにせよ、私は書類を見ようとしたでしょう。書類の一つの手紙に書いてあったどうして捨てられたかの理由を読んだ時に、『赤ちゃんが家族と共に幸せになってほしいから』という思いやりのあるメッセージが書いてありました。それで自分の母を探したい気持ちが少し和らぎました。私にとっては、匿名出産があってよかったと思います。私にとっては役に立ったし、それが母の解決方法にもなったんじゃないかなと思うからです」

匿名出産で生まれた子が求めるものは

フランスの養子縁組機関、la famille adoptive Francais、通称 FAF。第二次世界大戦後に設立され、75年以上の歴史があります。
多くの母と子どもを結んできた代表のドゥレットルさん。子どもたちが求めている情報には同じ傾向があると話します。

■クリスティーン・ドゥレットル代表
「なぜ実母は私を望まなかったのか、状況はどんなものだったのか。彼らが求めるのは名前や住所ではないです。母に愛されていたのか、愛されていなかったのか、私は愛されるのか、愛されないのか、自尊心につながる部分です」

フランスの匿名出産制度では、国の機関・CNAOPが母親から情報を聞き取ります。そこで得た情報は、名前や生年月日など母親が特定できる情報と、目の色、背の高さ、人種など特定できない情報の2種類に分けて保管されます。子どもは何度でも開示を求めることができ、母親も時間の経過とともに残したい情報を追加することができるようになりました。

しかし、身元の特定につながる情報が開示されるのは、子どもの求めに母が同意したときのみ。だからこそ、母には同意なしでも子どもに開示される「手紙」を残すよう促しているといいます。

■クリスティーン・ドゥレットル代表
「決して匿名出産は愛情の行動だと言えない。なぜなら見捨てられたことには変わりがないから。しかし自尊心は、子どもが将来アイデンティティーを作っていくのにとても大事なことです」

匿名出産した当時17歳の母が残した手紙
「自分は望まれなかったと考えて、私が与えた命を無駄にしないで下さい。それは違います。夢に見たような人生を送って下さい。そうしたら私の希望はかなったことになります。小さい赤ちゃん、幸せでいてね。たくさんキスしています。あなたのことを想って」

シリーズ「母と子の幸せの行方は フランスからの報告」。3回目は、匿名出産を選んだ女性の心のケアを行うフランスの支援制度についてお伝えします。

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