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出自を知る権利は?国が"匿名出産"保障するフランスの取り組み『母と子の幸せの行方は フランスからの報告』①

2023年11月24日 12:42
出自を知る権利は?国が"匿名出産"保障するフランスの取り組み『母と子の幸せの行方は フランスからの報告』①
母と子の命を守ろうと始まった「内密出産」と「匿名出産」。3回にわたり「母と子の幸せの行方は フランスからの報告」と題して、昔から匿名での出産が行われてきたフランスの現状から日本の課題を考えます。

取材の背景にあるのが、レイプなどによる望まない妊娠や、女性が親との関係が悪く相談できる相手がいないケースなど、困難を抱えた女性が自分で子どもを育てることができない現実です。熊本市の慈恵病院が、そうした女性の受け皿として「内密出産」という仕組みを独自に導入し、模索を続けています。
そこで慈恵病院が参考にしたいと今回訪問したのがフランスです。母と子、双方の権利をどのように守っているのか、現地で取材しました。
人口約6800万人。長い歴史と自由を重んじる国、フランス。10月、パリを訪れていたのは、慈恵病院理事長の蓮田健さんと、妻で新生児相談室長の真琴さんです。

2007年、親が育てられない子どもを匿名でも受け入れる「こうのとりのゆりかご」、いわゆる赤ちゃんポストを開設した慈恵病院。目的は、望まない妊娠などに思い悩んで出産した女性が、赤ちゃんを遺棄したり殺害したりする事態を防ぐことでした。

日本で唯一の取り組みでしたが、大きな課題に直面します。それは、預け入れられた赤ちゃんの多くが医療設備のない自宅などで危険な“孤立出産”によって生まれているということ。

■慈恵病院 蓮田健理事長
「赤ちゃんだけではなく、お母さんという意味では、自宅出産、孤立出産を防ぐという意味で内密出産は意味があると思う」

母子の安全を守るため匿名での出産を受け入れる

次に慈恵病院が導入したのが、女性の秘密を守りつつ病院で出産する「内密出産」です。モデルとなったのは、2014年に法制化されたドイツの制度。女性が相談機関にのみ身元を明かし、病院では「匿名」で出産できる仕組みです。

慈恵病院は、出産とともに相談機関としての役割も自ら担うことを決断。2021年12月に1例目の内密出産を受け入れて以降、今年8月までに14例の実施を公表しています。(2021年12月~2023年8月)

そうした中で、去年9月に国がガイドラインを制定。内密出産を望む女性に医療機関がどう対応すべきか示しましたが、同時に「法整備の必要はない」との考えも強調しました。

今、国内で内密出産を受け入れているのは慈恵病院のみ。いち民間病院として今後どう運用すべきなのか。そのヒントを求めて蓮田さんが訪ねたのがフランスでした。

話を聞いたのは、2002年に設立された国の諮問委員会、CNAOPです。フランスでは18世紀頃から、教会や修道院で赤ちゃんポストのように匿名で子ども預かる仕組みがあったといいます。ところが。

■CNAO P ユーゲット・モース代表
「赤ちゃんポストがかなり昔になくなっているのは、法律が母親の秘密を守るからです」

赤ちゃんポストのない社会

現在、フランスに赤ちゃんポストはありません。代わりに1993年に法律に明記されたのが、「秘密のもとでの出産」です。病院の相談室長にだけ身元を明かす慈恵病院の内密出産とは異なり、女性が身元を明かさず病院で出産する、いわゆる「匿名出産」を国が保障しているのです。

▼女性が匿名出産を希望した場合、全ての産科病院が受け入れ、県ごとに配置されたCNAOPの担当者へ連絡します。
▼担当者は女性の国籍や年齢、匿名を希望する事情などを聞き取りますが、中には本名など身元の特定につながる情報を残す女性もいます。
▼出産後、女性には匿名を撤回できる2か月の猶予期間が与えられ、赤ちゃんはその後原則、養子縁組されます。

フランスでは現在、年間平均400件ほどの匿名出産が行われているといいます。今回の訪問で、蓮田さんには特に知りたいことがありました。

内密出産を運用する中で突きつけられているのが、子どもが生みの親を知る権利、いわゆる「出自を知る権利」です。

原則、特別養子縁組が選択される内密出産の子どもたち。成長して実の母親の身元情報などを知りたがった場合、日本のガイドラインではいつ、どのように開示するかを医療機関と自治体の判断に委ねています。

■慈恵病院 蓮田健理事長
「日本の社会として出自を知る権利をどう対応するのか…」

慈恵病院は、今年7月から熊本市と情報開示について一定の指針を定めるための議論を進めています。

一方、匿名出産の法整備を進めてきたフランス。2002年から、法律では母親に関する情報をCNAOPで一括管理。子どもは18歳で成人すると情報開示を求めることができます。ただ、身元の特定につながる情報の開示には、母親の同意が必要です。子どもの求めに母親が応じた時のみ知ることができる仕組みです。

CNAOP設立時の事務局長を務めた、元最高裁判事のブシコさん。匿名出産が子どもの出自を知る権利を妨げるとして争われた裁判で、2003年に欧州人権裁判所が「違法性はない」とする判決を出したことを説明しました。

■元最高裁判事 ブシコさん
「原則は、女性が子どもを育てないという選択ができること。子どもの出自を知る権利には絶対性がないということです」

大事なのは、法律が女性の選択を尊重し、それが子どもを守ることと相対するものではないという考え方だといいます。

日本では安全な出産と引き換えに失われることが懸念されている、子どもの出自を知る権利。2つの両立を図ることはできるのでしょうか。

■慈恵病院 蓮田健理事長
「フランスでは赤ちゃんの命と健康は、出自を知る権利より重いという考えでいいですか?」
■CNAOP アンヌ=ソフィー・モニエ事務局長
「そうです。ですが、法律ではどの権利が上という規程はしていません。最優先は母と子が健康でいること。それが守られた上で、子どもが出自にアクセスしたい場合はそれをサポートします」

母と子どもの両方を守る取り組み、日本での模索は始まったばかりです。

■慈恵病院 蓮田健理事長
「日本が今まで短い期間ですけどたどってきた道を、すでにフランスではたどられていた。色々な議論をしながらここまでたどり着かれたんだろうなと。日本でも社会の方々に関心を持ってもらわないといけない」

フランスの歴史と同じ道をたどる

(畑中香保里キャスター)
ここからは取材した藤木紫苑記者とお伝えします。
国が匿名での出産を法律で認め、母親に関する情報の管理まではっきり示していることが印象的でした。的な国の環境整備によって年間平均400件もの匿名出産につながっているんですね。藤木さんは取材を通してどう受け止めましたか?

(藤木紫苑記者)
慈恵病院が進めてきた取り組みが、まさにフランスがたどってきた歴史と同じ道だと感じました。まずは赤ちゃんの命を救うこと。次に、孤立出産などを防ぐため匿名での出産を受け入れました。そして「人権」に対する考え方が深まるにつれて、子どもの「出自を知る」権利も尊重する法律の整備をしてきたということです。現在は、女性と子どもの権利の両立をはかっている段階です。

(畑中香保里キャスター)
フランスの法整備に関わった方は、匿名出産では「出自を知る権利には絶対性がない」と話していましたが…。

(藤木紫苑記者)
フランスでは、国の機関が母親から聞き取りをする際に身分証の提出を求めていません。つまり母親が本当のことを話すのかどうかは本人の意志に任されています。慈恵病院の内密出産では、病院には身元を明かしていますが、フランスでは完全に匿名となる可能性もあるんです。

(畑中香保里キャスター)
「母と子の幸せの行方は フランスからの報告」。2回目は、フランスの匿名出産で生まれや子どもやその育ての親の思いを聞きました。子どもの知りたい思いに寄り添う制度の具体策は?

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