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【解説】石破新総裁“誕生のウラ側”…5回目の挑戦制す 勝敗のポイントは

2024年9月27日 19:54
【解説】石破新総裁“誕生のウラ側”…5回目の挑戦制す 勝敗のポイントは

自民党の総裁選は27日午後、決選投票が行われ、5回目の挑戦の石破茂氏が勝利し、新たな総裁に選ばれました。総裁選の舞台裏では一体、何が起きていたのでしょうか。総裁選の取材を続けてきた政治部官邸キャップ・平本典昭記者が、以下の3つの疑問をポイントに解説します。

1. 勝敗を分けた「3つの数字」
2. 投票の舞台裏で…意外な動き
3. 石破新総裁…直面する課題

■勝敗を分けた「3つの数字」

──まず、勝敗を分けた「3つの数字」とは何の数字でしょうか?

1つ目の数字は、決選投票で勝利の決め手となった、石破さんが獲得した議員票の数「189」です。決選投票では、党員票より議員票の比重が高いため、決選でどこまで石破さん、高市さんが議員票を積み増すかが注目されましたが、本当に読みづらい展開でした。

1回目での石破さんの議員票獲得は46票。決選では189票で、143票増えました。一方、高市さんは1回目での議員票獲得は72票、決選では173票で、101票増えました。石破さんは決選で高市さんより40票以上も議員票を積み増したことが、勝利につながったと言えます。

──石破さんが決選で票を伸ばした理由はどう分析していますか?

これは詳細な分析が必要です。しかし、これまでの取材で2つのことが言えると思います。1つは、今も党内に影響力を持つキングメーカーを狙う岸田首相の支持があったことが1つの要因だとみられます。

岸田首相は周辺に「高市さんだけは応援できない」と話していました。こうした中、これまでの取材で、岸田首相が旧岸田派の議員に対して、石破さんに投票するよう指示を出していたことがわかりました。決選投票で、旧岸田派の固まった支持がプラスに働いたと言えます。もう1つは次の衆議院選挙を見据えて議員心理が働いたとみられます。

──選挙を見据えると、高市さんには不安があったということでしょうか?

総裁選の討論などを通して、高市さんには2つの不安の声があがっていました。1つ目はいわゆる裏金議員へのスタンスです。高市さんは陣営に裏金議員が多かったことに加え、選挙での公認問題などで党内から「裏金議員に甘い」という声があがっていました。こうしたことから、ある自民党幹部は「裏金問題に甘い高市さんでは、衆院選はボロ負けになる」と指摘していました。

2つ目は、高市さんが打ち出した保守色への警戒感です。高市氏の「総理になっても靖国神社に行く」といった主張などに対して、党内からは「過激すぎる」という声もあがりました。立憲民主党の新しい代表が、保守的なスタンスな野田佳彦さんになったことで、「穏健な保守層が立憲に奪われる」と不安視する声も自民党内には出ていたんです。こうした仮に首相となった時の高市さんに対する不安感が、石破さんへの投票につながったのでは、とみています。

──2つ目の注目の数字は何でしょうか?

これは決選に進めなかった小泉陣営の議員票の数字「75」です。というのも、党内では小泉さんが決選投票に進み、石破さんとの戦いになれば「小泉さんが優位」という見方がありました。小泉陣営からは「1回戦を勝ち抜けば決選は勝てる」という声が多く出ていました。そこで劣勢と言われた党員票の分を挽回すべく、ここ数日、相当激しく他陣営から議員票の引き剥がしを行っていました。陣営内からは「議員票は90近く行く」と言う声もあったのですが、蓋を開けてみたら議員票は「75」にとどまり、そこまで伸びなかったことが決選に進めなかった要因です。

決選では国会議員票の重み増しが大事になります。その議員票でかなわないとみられていた小泉氏が、1回戦で敗退したことが、石破新総裁誕生につながったと言えます。

──では、平本さんが注目した気になる3つ目の数字とは?

3つ目は、会場で開票のときに、どよめきが起きた数字がありました。1回戦で高市さんが獲得した党員票「109」です。1回戦では石破さんが党員票では1位になるとみられていたので、高市さんがトップになったのは驚きでした。

ただ、日本テレビの独自の党員調査でも、高市さんが党員票を約110票獲得すると分析していました。さらに、選挙期間中、高市さんが上昇傾向を示していたため、最後はトップになった、とみています。党内から「高市さんが党員票をここまで獲得するとは思わなかった」と驚きの声があがっていました。

■投票の舞台裏で…意外な動き

──そして2つ目。舞台裏では意外な動きがあったのでしょうか?

注目したのは、今回の総裁選から設けられた新たな「10分間」の攻防です。決選投票の前に1人5分ずつ、合計10分の演説の時間が設けられました。これまではなかったものです。多くの議員が、この時間に派閥のトップなどから「決選ではこの人に投票を」という指示がくるのでは?と話していた。あるグループでは具体的な戦略も立てていました。

「2段階メール作戦」といわれていて、ある党内のグループでは、トップが同期のリーダーにまず1段階目でメールを送り、そのリーダーが同期の議員にメールを回すというルールを事前につくっていました。会場で取材していた記者に聞いたところ「投票中、演説中に携帯を気にしていてチェックしていた議員がいた」ということです。石破さんが勝利した背景には、こうした派閥単位でまとまった票の動きがあったのではないかと、今さらなる取材を続けています。

■石破新総裁…直面する課題

──そして3つ目、石破新総裁はどのような課題に直面することになるのでしょうか。

これは2つあります。1つ目は人事です。石破新総裁は、党の要である幹事長、内閣の要である官房長官など、チーム石破の人事に着手しなくてはいけません。岸田首相は総裁選を通して「ドリームチーム」をつくってほしいと注文をつけていました。まず、総裁選に出馬した8人の処遇をどうするのか。中でも注目は決選で戦った高市さん、そして3位の小泉さんの処遇です。党内からは「石破総理であれば幹事長には小泉さんが最適だ」という声は早くも出ています。「脱派閥」がテーマとなる総裁選でしたが、人事で派閥の呪縛から脱却できるか試金石となります。

2つ目は「解散の時期」です。石破候補は総裁選の期間中、「早い時期に解散を行う」方針を示していました。今、想定されている解散・総選挙の日程は最短で10月27日です。

自民党内には、この総裁選の直後に解散総選挙を行うべきとの声があります。一方で、今週同じくトップがかわった立憲の野田代表は、新しい総裁は予算委員会などを開き、野党側との議論の時間を確保すべきだと主張しています。石破新総裁がいつ解散し、総選挙に臨むのか、判断が迫られています。

──今回、過去最長となる15日間の総裁選をずっと取材してきて、何を感じましたか?

今回は異例ずくめの総裁選でした。脱派閥がテーマとなる総裁選で、確かに派閥の締め付けがなくなり9人が立候補するなど、新たな面もありました。ただ、派閥の問題点は「カネ」と「人事」です。総裁選の終盤戦では、派閥の重鎮への要請を行う動きが表面化しました。例えば、そこで投票を依頼するかわりに人事などを約束するようなことが果たしてなかったのか。石破新総裁は勝利を収めましたが、本当に脱派閥を実現し、自民党が生まれ変わった姿をみせられるかは、ここからが本当の戦いといえます。

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