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皇室とベルギー王室 100年にわたる友情

2022年1月22日 15:36
皇室とベルギー王室 100年にわたる友情

ひとつの瞬間から知られざる皇室の実像に迫る「皇室 a Moment」。今回は、昭和・平成・令和の3代、100年にわたるベルギー王室との交流から生まれた“特別な友情”について日本テレビ客員解説員の井上茂男さんと共にスポットを当てます。

――こちらは平成の時の「即位の礼」の時の写真ですね

「饗宴の儀」のメインテーブルです。上皇ご夫妻の向かって左側に座っているのが、ベルギーのボードワン国王とファビオラ王妃です。国王は在位が最も長く上座に着きましたが、にこやかな表情から特別な間柄であることがわかります。実はヨーロッパの王室は、「即位式」や「戴冠式」に元首は出席しないという慣例がありました。しかし、ベルギーのボードワン国王夫妻は平成の即位の礼に出席しました。ベルギー国王の出席表明を受け、デンマーク女王、スウェーデン国王など君主の出席が広がりました。

そして、令和の即位の礼で天皇皇后両陛下が出迎えられたのはベルギーの今のフィリップ国王夫妻です。国王はボードワン国王の弟の長男、甥です。ヨーロッパの王室からは、ベルギーのほか、オランダ、スペイン、スウェーデン、ルクセンブルクから国王、大公が出席しています。私たちは当たり前のように受け止めていますが、ベルギー王室と日本の皇室の交流、先々代のボードワン国王の心配りがあってのことでした。

ベルギーは1830年、オランダから分離独立した立憲君主国です。王位継承は長く男子に限られ、女子は除外されていました。1991年に憲法が男女平等に向けて改正されて、現在のフィリップ国王の次は長女のエリザベート王女が女王に就くことが決まっています。王女は愛子さまと同い年です。

――日本の皇室との交流はいつごろから始まったのでしょうか?

1921(大正10)年、皇太子時代の19歳の昭和天皇がヨーロッパを旅行した時の訪問から始まります。この時、昭和天皇はベルギーに5日間滞在しました。

友好関係が深まったのは、皇太子時代の上皇さまが、1953(昭和28)年にイギリスのエリザベス女王の戴冠式に出席するために訪欧し、ヨーロッパ各国を訪問された時です。この時、19歳だった上皇さまはベルギーにも6日間滞在されました。その時、上皇さまを家族のように迎えたのが、即位したばかりの3歳年上のボードワン国王でした。この写真は上皇さまが当時撮影されたものです。その表情からも近しさが伝わってきます。この時から“生涯の友”としての交流が始まりました。

――上皇さまの父、昭和天皇は天皇としてもベルギーを訪問していますよね

1971(昭和46)年秋、昭和天皇は香淳皇后と共に天皇の初の外国訪問としてヨーロッパを回ります。この時、最初に訪ねた公式訪問国がベルギーです。訪欧の前年、ボードワン国王の弟のアルベール王子、後のアルベール2世国王が、大阪万博で来日します。この時、外務大臣の晩餐会で故・高松宮妃が「皇后さまは一度も外国を訪問されたことがない」と話すと王子は驚き、「兄に話してなんとかいらっしゃれるようにする」と約束しました。やがてボードワン国王から「御訪問を希望する」という親書が届きます。実際、ベルギー王室は昭和天皇の初めての外国訪問に向けて動いてくれたんですね。

国王夫妻も日本をたびたび訪れ、国王の来日は7回に上ります。昭和天皇の訪問から3年後、ボードワン国王夫妻が日本を訪れます。この時は、赤坂の迎賓館が外国の賓客を招く施設として改装されて最初のお客様でした。そして国王とファビオラ妃は、来日するたびに赤坂の東宮御所も訪ねて皇太子時代の上皇ご一家と家族ぐるみで交流をしていきます。時には上皇ご一家と稲刈りや芋掘りを楽しんだこともありました。

また、上皇ご夫妻も、スペイン訪問の帰りや、イギリス・チャールズ皇太子とダイアナ元妃の結婚式に参列した折など、たびたびベルギーに立ち寄り交流を重ねられました。

1984年(昭和59年)アフリカ訪問の際のお立ち寄りでは、当時、イギリス留学中だった天皇陛下もボードワン国王のはからいで合流されました。

――陛下がベルギー国王と共にご両親を出迎えられるという珍しい場面ですね

この時、国王夫妻は、隣国のオランダ女王夫妻を夕食会に密かに招き、先の大戦で難しい関係にあった日本とオランダとの間を取り持とうとしたんです。友好親善だけでなく、日本のことをおもんぱかってくれた人でした。

――ベルギー国王夫妻との間には特別な関係があったんですね

特別な友情と言ってもいいかもしれません。それがうかがえるのがボードワン国王の葬儀の時です。ボードワン国王は1993(平成5)年に62歳で亡くなりました。この時、天皇皇后時代の上皇ご夫妻はベルギーを訪問されました。海外の王室の葬儀に天皇皇后が出席するのは初めてのことでした。上皇ご夫妻は、王宮から大聖堂までの葬列の最前列の中央を約1時間歩かれました。葬儀の前日、遺体とのお別れの時、できれば15分早くお越し願いたいという連絡が王室からあり、それは各国の元首に先立ってゆっくりとお別れをしていただきたいというファビオラ妃の思いだったそうです。

さらに、2014(平成26)年、ファビオラ妃が亡くなった時は、上皇后さまが1人で訪れ国葬に参加されています。お一人で海外に渡り、葬儀に出席されたのは初めてのことでした。

――上皇后さまが、ご結婚後お一人で国外に出られたのは2回だけですね。

それだけボードワン国王夫妻は特別な存在だったと思います。今の天皇皇后両陛下も日本国内で行われたボードワン国王の追悼ミサに参列されています。これも特別なことです。

ヨーロッパとの窓を天皇陛下に開けてくれたのもベルギー王室でした。陛下は高校2年の夏、ベルギーとスペインを旅行されています。ボードワン国王夫妻が来日したときの話がもとになって実現した陛下の一人旅です。留学中何度もベルギーを訪れ、同い年の今のフィリップ国王も含め、家族ぐるみで交流を深められていきました。

1999年(平成11年)には、当時皇太子だったフィリップ国王が、ベルギー王室史上初めて、外国からではなくベルギー人から皇太子妃を迎えます。マチルド王妃です。天皇陛下は皇后雅子さまと結婚式に参列されました。翌年、今度は新婚の国王夫妻が来日し、両陛下が葛西臨海水族園に案内されるなど、皇太子同士の交流は、ご夫妻での交流へと広がっていったんですね。

また皇太子妃時代のマチルド王妃は、2012年に東日本大震災の被災地、宮城県東松島市の仮設住宅などを訪ねて被災地の人たちと交流したことでも、話題となりました。

ベルギー王室との親しさは、昭和、平成、令和の3代、100年にわたる交流があればこそだと思います。ボードワン国王が亡くなった時の上皇さまの歌からその思いの一端がわかります。

故ボードゥワン国王御葬儀参列
「四十年をむつみ過ごししベルギーの君まさずして宮訪ねけり」(上皇さま・1993年)

何とも言えない寂しさを抱えて葬儀に参列されたことがうかがえる歌です。こうした心がかよった交流の上に、今日の日ベルギー友好関係があることを忘れないでいたいと思います。

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