どう変わる?相続制度…自宅は、介護者には
遺産の相続制度について見直しを進めてきた法制審議会の部会は、残された配偶者を優遇し、自宅に住み続けられる『居住権』の新設を盛り込んだ民法改正の要綱案をまとめた。相続制度について、40年ぶりの大幅な見直しとなる。
◆これまでの制度は?
自宅の相続に関わる制度変更で、多くの人に影響が出る話だ。そもそも遺産がどのように分けられるのかを、夫と妻、子ども1人の家庭で説明する。
現在の法律では、例えば夫が亡くなった場合、夫の遺産は妻と子どもで半分ずつ相続することになる。ただ、遺産といってもあまり預貯金などがなく、主だった財産が自宅だけだった場合、家は物理的に2つに分けることができないので、例えば2000万円の家なら、売却して現金にして妻と子どもで1000万円ずつ分けることになる。
ところが、妻は家に住み続けたい。一方の子どもは自分の子どもの教育費や住宅ローンがあったりして現金が欲しいという場合があり、もめることもある。
◆『居住権』と『所有権』
家を売ってしまうと妻は住む家がなくなってしまう。高齢になってから退去を迫られると厳しいので、こうした事態を防ぐために、これまでの所有権とは別に、妻が引き続き住み続けることができる『居住権』を新たに設けることになった。
家は2つに分けることはできない。だが、今までは、『所有権』という考え方しかなかったところに、新たに『居住権』という権利ができ、家の権利を『居住権』と『所有権』の2つに分ける、ということだ。
家の『所有権』は子が相続し、妻は『居住権』を得ることで、場合によっては妻は死ぬまで家に住み続けることができる。こうなると妻は安心だ。
これだけではない。もし結婚して20年以上の夫婦で、夫が「家は妻に相続する」と遺言するなどしていた場合には、この家を遺産分割の対象にしない、ということも盛り込まれている。これだと妻は家に住み続けられるだけでなく、家とは別に預貯金など1000万円の財産が分割の対象になっていたら、その財産の半分をもらえることになるので、妻にとっては老後の生活をより安定させることができるわけだ。
今回は子よりも妻の権利を優遇させていこうという話で、子どもにとっては少し不公平ではないか、と感じる人もいるかもしれないが、高齢社会で長生きするようになり、夫に先立たれた後の人生も長くなってくる。その中で、生活資金を確保するということに配慮してのこうした改正案なのだ。妻の老後を心配している場合は、遺言することなどが大切だ。
◆遺言の制度も変わる
その遺言についても、制度が変わる。これまでは、遺言書が見当たらず、亡くなってしばらくたってから見つかり、親族でもめる、といったケースも多かったそうだ。今回の案では、遺言書を全国各地にある法務局に保管できる制度を新たに作ることも盛り込まれている。これなら、残された家族もすぐに確認できるはずだ。
◆介護に貢献した親族の権利も
また、遺産相続を巡っては、介護に関しての制度変更も言われている。これまでの制度では、介護に尽くしたけれども相続する権利がなくて一銭ももらえず、不公平だという声もあった。今回の改正案では、こうした介護に貢献した親族も新たに金銭を請求できる制度を設けようという内容も盛り込まれた。
40年ぶりの改正で、高齢化社会で家族のあり方が変わりゆくなかで法律が追いついていない面をあらためて感じる。弱い立場に置かれた人への救済が進む制度改正に期待したい。