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「行政処分で何とかなるのでは」思惑が一転、刑事事件に――捜査の内幕【SMBC日興相場操縦事件】

2022年4月14日 12:00
「行政処分で何とかなるのでは」思惑が一転、刑事事件に――捜査の内幕【SMBC日興相場操縦事件】
家宅捜索が行われたSMBC日興本社(先月、東京・千代田区)

「行政処分で何とかなるのでは」
社内に当初あった希望的観測は打ち砕かれ、法人や元副社長らの刑事責任追及へと発展したSMBC日興相場操縦事件。事件化に半信半疑の検察幹部もいた中、立件に向けた検討はどのように進められたのか――。

■“Xデーは金曜の夜”夜通しの家宅捜索

株式市場が閉まり、証券会社にとって静かな週末を迎えるはずだった金曜日の夜、このタイミングを「Xデー」と捉えた東京地検特捜部と証券取引等監視委員会は、「SMBC日興証券」本社(東京・千代田区)などの強制捜査に着手。家宅捜索は明け方まで続いた。

当初、逮捕されたのは元専務執行役員ら4人だったが、その後、佐藤俊弘元副社長も逮捕され、最終的に合わせて元幹部ら6人と法人としての同社も起訴される事態となった。起訴内容はいずれも、特定の株価を維持するため、不正な株取引を行ったとする相場操縦の罪。

「日本だけでなく、世界的に見ても異例」大手証券会社が刑事責任を追及される事態に発展したことに、監視委の幹部は驚きを隠さない。

通常、違法な相場操縦行為に対して監視委は、「行政処分の勧告」か「刑事告発」のどちらかの対応をとることになる。刑事告発は悪質さが際立つ事案について、検察に対し刑事責任を追及するよう求めるもので、行政処分よりもダメージは大きい。

ただ、その分ハードルも高く、2020年度、監視委が相場操縦行為に対し行政処分すべきと判断したのは6件だったのに対し、刑事告発は1件にとどまる。そのせいか、関係者によると、去年6月に監視委による強制調査が入った当初、SMBC日興の一部には「行政処分で何とかなるのではないか」との楽観的な見方もあった。

一方、強制調査以降、関係者の聴取や証拠固めを進めた監視委。組織ぐるみの犯行で、副社長まで関わっている極めて悪質な事案として、刑事責任を追及すべきと判断し、先月、特捜部との合同捜査に乗り出すことになった。

では、共に事件について検討を進めていた検察の考えはどうだったのか――
監視委の刑事告発を受け、個人や法人を起訴し、有罪判決に向け立証責任を負う検察は、無罪判決をおそれ、時に事件化にシビアな姿勢を示すこともある。実際、過去には刑事告発をめぐり、監視委と検察が激しく対立したこともあり、常に一枚岩というわけではない。

実は、今回も刑事責任の追及に積極的な監視委に対し、検察内部には当初、冷ややかな意見もあったという。ある検察幹部は、「大手証券会社がそんなに堂々と不正をやるとは信じられなかった」「実は証券業界の中で大なり小なり行われていることについて、たまたまSMBC日興の行為だけが取り上げられただけで、監視委が先走っているのではないかという意見もあった」と振り返る。

■検察の認識に変化「刑事事件として立件する以外はあり得なかった」

しかし、捜査を進めるうちに、検察の認識は変わっていく。

今回問題とされた取引について、捜査の公平性の観点から同業他社について「大なり小なり」同様の行為が行われていないか調べたところ、SMBC日興の固有の問題であることが判明。

「同業他社が驚くような不正が、SMBC日興ではコンプライアンス無視で行われていた」(検察幹部)また、ある検察関係者は「大手証券会社だけあって、違法な取引に使った資金も過去の相場操縦事件とは桁違いの金額。市場をゆがめた度合いも桁違いで、類を見ない悪質さだった」とし、「刑事事件として立件する以外はあり得なかった」と話した。

"市場の門番"と呼ばれる大手証券会社が、市場で不正行為を行ったとされ、刑事責任を追及される形となった今回の事件。

前出の検察幹部は、事件の背景について、外部からヘッドハンティングのような形で入社した元専務執行役員のヒル・トレボー・アロン被告らの存在に触れ「副社長だった佐藤被告のほうが、ヒル被告らよりも社内の立場は上だったが、給与の額は佐藤被告のほうが低かった」と明かし、上司と部下のいびつな関係から「不正に対して口出しすることができなかったのでは」と推測した。

これまで多くの企業犯罪の捜査に携わってきた別の検察幹部も、「SMBC日興は経営上、自社の弱い部門を外部から即戦力を獲得することで強くしてきたが、その結果、彼らをコントロールできなくなってしまった」と分析。また、「他社が自主規制をするようなことがSMBC日興では禁止されていなかった」と、根底にはガバナンスの欠如があったと指摘した。

SMBC日興は今月13日、法人としての追起訴などを受け「内部管理態勢上の不備があったことは否定できず、法人としての責任は免れないものと認識しており、事態を重く受け止め、深く反省しております」とコメント。

一方、佐藤被告やヒル被告など起訴された元役員らの大部分は、起訴内容を否認。佐藤被告とヒル被告はそれぞれ、「取引について報告は受けたが違法性の認識はなかった」、「通常の業務の範囲内だ」と供述しているとされる。

一連の捜査は終結したとみられ、今後の舞台は法廷に移るが、裁判では、被告側と検察側が激しく対立する展開が予想される。

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