オワハラ批判されるけれど…全員内定キャンセルも学生、人事、双方大変 どこかおかしい就活
この男性が足を運んでいたのは、中小企業330社と大学100校の就職支援担当者らのための情報交換会だ。(4月25日に東京・港区で東京商工会議所が主催)。
参加した企業の採用担当者らに話を聞くと、「学生優位の売り手市場」の厳しい採用活動の実感が伝わってきた。
(千葉・商社)「学生向けリモート説明会に8人申し込んできても、連絡もなく半分は不参加ということもある。学生の超売り手市場で、大手企業がこれまで手を出さなかった範囲の学生まで手を出してきていると感じている」。
(埼玉・機械メーカー)「全体的に内々定を出す時期が早まっていると感じる。うちも去年は内々定を出したのは6月だったが、今年は4月の最終週にもう最終選考を行う」。
今後も人口減少が続き、特にデジタルに強い若い人材が必要となる見通しの中で、企業の人材確保への焦りは募っている。良い学生を他社に採られる前に確保したいと思うのは、企業の人事担当者として当然のことだ。
だが、内々定を出しても、その後、学生がより条件の良い企業から内々定をもらい、自社をキャンセルしてくれば、また採用活動のやり直しとなる。
「うちに本当に来てくれるよね?」と確認したくもなるだろう。
しかし、4月16日、政府から経済界にこのような通達が出された。
「学生の弱みに付け込んだ、学生の職業選択の自由を妨げる行為(いわゆる「オワハラ」)が確認されています。オワハラは、憲法で保障された職業選択の自由を侵害するおそれがある許されない行為です」
内閣官房、文部科学省、厚生労働省、経済産業省の局長級幹部ら連名で、経団連会長と日本商工会議所会頭に出されたものだ。
具体例としてあげられたのはこのような行為だ。
・ 自社の内定、内々定と引き換えに、他社への就職活動を取りやめるよう強要・ 内定、内々定と引き換えに、大学等からの推薦状の提出を求める・ 他社の就活が物理的にできないよう、(自社の)研修等への参加を求める・ 内定承諾書等の早期提出を強要する・ 内定、内々定辞退を申し出たにもかかわらず、引き留めるために、何度も話し合いを求める・ 内定、内々定期間中に行われた業務性が強い研修について、引き留めを目的として、内定、内々定を辞退した場合において研修費用の返還を求める。あるいは、事前にその誓約書を要求する
オワハラは上記の例に限らないとしていて、「企業の対応が学生にオワハラと受け止められれば、その企業にとって、法違反に問われるおそれがあるほか、社会的信用の失墜や企業イメージの低下につながることも懸念される」と警告している。
確かに、学生側から見れば、A社から内定を得ても、その後、より希望に合ったB社からも内定が得られれば、A社をキャンセルする、それは人生の選択において責められないだろう。むしろ日本では、多くの学生が中学受験や大学受験などでそのような手法でチャレンジし、「がんばって」きただろう。
一方で、企業にとっての打撃は大きい。特に中小企業では採用人数も限られ、採用担当者も人事だけでなく、広く総務の仕事なども兼任している場合が多い状況で、労力をかけて内定を出した学生から辞退されるのは負担が大きい。こうした状況にじっと耐えるしかないのだろうか?
こうした変化は、ミスマッチの解消や年齢にとらわれない能力の発揮など、企業の生産性を向上させ、産業界にもプラスの効果をもたらしてきているだろう。
しかし、いまだ見直されないのが新卒採用スケジュールだ。
問題点を確認したい。
まず政府は、「学業の妨げにならないように」との理由で、下記のような日程ルールを敷いている。
・会社説明会解禁日 大学3年の3月1日・面接解禁日大学4年の6月1日・内定解禁日大学4年の10月1日
しかし、これを見るだけでも、まだ大学4年次まるまる1年残っている時期より前から企業の説明会が始まり、スケジュール上は内定解禁日まで7か月間もある。さらに、実際には、このルールを守っていたら人材獲得競争に乗り遅れるため、多くの企業がもっと前から始めている。
こうした長期間の採用活動が、「オワハラ」を生んでいる一つの原因だ。
政府は、“日本の持続的な発展のためには、若者の人材育成が不可欠”で、“学生が学業等に専念し、安心して就職活動に取り組める環境をつくることが重要”、“(企業は)足並みを揃えた取り組みを”と呼びかけながら、このような日程ルールにしているのはおかしいのではないか?
■今の就活日程によって懸念されること
日本の学生は、大学で勉強しなくて良いのか?
労働人口が足りない日本。今後、海外の人材に一層頼っていくことになる=外国人と競争することになる。大学でしっかり勉強して来た外国人と、互角に戦えるのだろうか?
かつての「大学新卒入社」は、企業が一から新入社員を育成するのが当たり前だった。日本では、大学で学んだことと就職後の業務内容は一致しないことも多く、入社後に社内の人たちとうまくやれることは大事だが、大学で何を学んだかは、仕事上大事ではないことが多かった。
しかし、日本型雇用慣行も変化しつつあり、経験者採用も増え、もっといえば、AI(人工知能)に多くの業務が取って代わられる中で、就職する前に自身の能力を高めておく必要があるのではないだろうか?
そう考えれば、現行の、3月1日から翌年卒業する学生向けの採用活動がスタートすることを政府が決めていること自体、おかしくはないだろうか?「学生の勉学より自社の採用」を産業界が優先して、採用活動の早期化を放置している状況も「日本の人材育成」にとって負の影響を与えるのではないか?それとも、大学が、産業界に評価されるような学びを学生に与えられていないということだろうか。
経団連は4月、「人材力を含む国力向上」の観点から、就職・採用活動のあり方について、これまで産学で対話を行ってきたとして、検討状況を発表した。
大学側からは、「就職活動の早期化が進むことにより、学生はキャリアについて考える時間を十分に確保できないまま就職活動を始めることになるうえ、企業も採用活動において学生が懸命に学んだことをきちんと評価しないことになることから、ミスマッチが生じている」との意見が出されたという。これに対し、企業側からは「一部の学生は早期化を受容しつつある現状を踏まえると、この流れを大きく変えることは難しいのではないか」との認識が大勢を占めたとしている。経団連は、「まだ結論には至らず、今年度末に方向性を示したい」としている。
企業にとって重要なのは人材。国にとって重要なのは人材。
経団連には、「大企業と優秀な学生にとっては良いが、その他多くの企業や学生は取り残されてしまう、あるいは、この「オワハラ」を生むような、不合理な採用活動はそのままになってしまう」とならないよう、国力をあげる採用活動を提案してほしい。
そして政府は、日本で学生の努力が報われる適切な就職、採用の環境整備をする必要がある。