最先端の研究で「地球を救う」 ウシの“ゲップ博士”にベタバリ【バンキシャ!】
「環境にやさしく牛を飼う」をモットーに研究する教授には、ある異名がつけられていました。そして“地球を救う”その研究とは。最先端のウシの研究に、後呂キャスターがベタバリしました。(バンキシャ!)
◇
今月、後呂が訪れたのは…。
後呂
「うわー、広大な草原が広がっています。奥の方、ウシがたくさんいます。ウシとビル、ちょっと信じられない光景が広がっています…」
実はここ、札幌市の中心部にある北海道大学・札幌キャンパス。ここで学生たちがウシなどを育てながら、生態を学んでいる。特別な許可をもらい、普段は立ち入り禁止の農場へ。
すると──。
「後呂さーん!」
後呂
「あ、建物の前に誰か…いらっしゃいます。こんにちは!」
小林名誉教授
「こんにちは。遠くからありがとうございます」
北海道大学大学院・農学研究院の小林泰男名誉教授(67)。ウシ一筋44年、日本のウシ研究の第一人者だ。
後呂
「かっこいいサングラス!」
小林名誉教授
「ありがとうございます…。主役はウシなので、きょうは」
後呂
「先生は何の研究をされているんですか?」
小林名誉教授
「ウシの栄養学。どんなモノを食べさせればウシが健康で、安定的なミルクや肉をつくってくれるかという研究。もう一つ大事なのが、環境にやさしくウシを飼うというのがキーワード」
後呂
「環境にやさしく…飼う」
小林名誉教授
「じゃあ、ちょっと中へ」
後呂は、小林さんについて建物の中に入った。そこではたくさんの大きなウシが飼育されていた。
後呂
「うわー、立派なウシですね」
小林名誉教授
「全然怖くないので」
後呂は、ウシに触れるのは初めてだ。
後呂
「あー、つやつやの毛並みが温かい。気持ちいい」
小林名誉教授
「こんなにデカイけど、おとなしくてね」
ここでは研究用に40頭ほどのウシを飼育している。
小林名誉教授
「ちょっと、かるく手しぼり体験を」
後呂
「え! いいんですか?」
後呂はおそるおそるウシの乳に触れた。が、どうすればいいのか分からない。
小林名誉教授
「根元を握って、上から順番に(にぎる)」
後呂
「根元を押さえて……。わー、すごい! 勢いがすごいですね! わー、ありがとう、ありがとねえ!」
後呂は、思わずウシにお礼を言った。
後呂
「先生、牛は牛乳であったり、本当に人を支えてくれていますよね」
小林名誉教授
「そうですね。ただ最近は、結構、悪者扱いされてきているんです。それはね、ウシの消化システムの中で、かなりの量のゲップを出すんですね。そのゲップの中にメタンガスが含まれているんです。メタンガスは強力な温室効果ガスということで…」
地球温暖化を引き起こす主な要因が温室効果ガスだ。7月、世界の平均気温は観測史上最高を記録。異常な暑さが世界を襲った。
温室効果ガスの中で最も多いのが二酸化炭素、その次がメタンガスだ。国連によると、メタンガスの発生源として一番多いのが「消化管内発酵」。これは、主にウシなどが出す「ゲップ」のことだ。
そこで、小林名誉教授が進めているのが……。
小林名誉教授
「ゲップを減らす研究ですね」
後呂
「いうなれば、ゲップ博士?」
小林名誉教授
「そういうふうに呼ぶ人もいます」
後呂は思わず笑って続けた。
後呂
「でも、ウシがゲップしているところって、見たことありません」
小林名誉教授
「食事をして数時間がたつと、その時いっぱいゲップが出る」
これからウシたちの食事の時間だということで、後呂はさっそくエサやりのお手伝いをすることに。エサである草の束を両手いっぱいに抱えてウシたちに近づくと、後呂は思わず腰が引けた。
後呂
「すごい勢い! すごい勢い!」
ウシが勢いよく後呂の持つ草の束に食いついてくる。
後呂
「カメラも目に入らないって感じで食べてますね」
そして、およそ1時間半後。食べ終わったウシを観察すると──。
小林名誉教授
「いま、反すう行動、モグモグしている。このあと、モグモグがストップしたらゲップが出ますから」
後呂
「モグモグしてます……。あっ、止まりました!」
小林名誉教授
「来るよ、来るよ!」
後呂
「え? 今ですか!?」
小林名誉教授
「はい来た!」
後呂
「え! 今ですか? 何の音も…。全然、目で見てもわからない」
ウシのゲップに音はない。しかし、小林名誉教授によると、モグモグした直後、口を開けた瞬間に大量のゲップを出しているという。
そこで用意したのは、ガスを映すことができる特殊なカメラ。これでもう一度見てみると──。
後呂
「モグモグしていますね…」
小林名誉教授
「黄色い感じで…」
モニターには、ウシの口から気体状のものが出る様子が、黄色く表示されている。
小林名誉教授
「これがメタンガス」
後呂
「あっ、出てる出てる! ふわふわっとモヤのようなものが」
これこそがウシが出したメタンガスだ。そもそも、なぜウシはメタンガスを出すのか。ゲップのにおいに、ヒントが隠されているという。そこでゲップをかがせてもらうことに。小林名誉教授は、大きな袋をウシの口に近づけてゲップを採取した。
小林名誉教授
「少しは取れたと思います」
後呂
「ウシのゲップがこの中に…」
後呂が、おそるおそるにおいをかぐ。
後呂
「うっ…」
そう声を発すると、後呂は体を震わせ、表情を強烈にゆがませた。その様子を見て小林さんは思わず笑ってしまった。
後呂
「結構…、しっかりした、かおりですね。メタン自体のにおいなんですか?」
小林名誉教授
「メタンは無臭です。メタン以外の発酵産物の有機酸」
ウシには胃袋が4つあり、食べた草は、まず最も大きい『第一の胃』に運ばれる。ここにいるのが7000種類以上の微生物たち。その一部が草を分解し、発酵する過程でメタンガスが発生する。それが発酵産物のにおいとともに放たれているのだ。
後呂
「一日どれくらいの量のメタンを出すんですか?」
小林名誉教授
「だいたい400リットルくらい」(*乳牛1頭あたり)
後呂
「でも、草を食べて消化する動物はたくさんいると思うんですけど…」
小林名誉教授
「ヤギ・ヒツジがいるんですけどボディーサイズが全然違う。ウシは数も多いんですよね。世界で約15億頭いるので、ゲップのメタンガスを出しているのはほとんどがウシ」
そのため欧米などでは、ウシの飼育に厳しい目も向けられているが、ウシのミルクや肉は、貴重なタンパク源でもある。
小林名誉教授
「いま牛が悪者扱いされている。ウシに対して申し訳ない。やはり人間の力でメタンガスを減らす」
では、どのように減らすのか。小林さんは、ペレット状の飼料を見せてくれた。
後呂
「これは?」
小林名誉教授
「メタン抑制飼料」
後呂
「これを食べるとメタンガスが減る?」
小林名誉教授
「そう」
小林名誉教授と出光興産とが共同で開発した、メタンガスを抑えることができるエサだ。原料はなんだろうか。後呂がエサのにおいをかいでみる。
後呂
「香ばしい…。なんか抹茶のお菓子みたいな。え、なんだろ」
原料は、身近で意外なあるものだった。
小林名誉教授
「これです」
しかし、そう言って見せてくれた原料にはなじみがない。
後呂
「え? なんだ、これ?」
小林名誉教授
「これ、殻をとると中からナッツが現れる」
実はこれ、カシューナッツ。エサには中身ではなく「殻」を使用している。
小林名誉教授
「この殻に抗菌作用がある成分が含まれている。それをエサに配合して牛に食べさせると、メタンができないような微生物叢(びせいぶつそう)になる」
カシューナッツの殻で、どのくらい抑制できるのか。メタンガスの発生実験をさせてもらった。用意したのは、微生物たっぷりのウシの胃液。後呂は、またにおいをかいでみることにした。鼻を近づけそっとにおいをかぐ…と、思わず反射的にのけぞって顔をしかめる後呂。
後呂
「すごい…。さっきのゲップを100倍に濃縮したような感じの…」
2本の試験管に入っているのはウシのエサとなる干し草だ。片方には、カシューナッツの殻のオイルも入っている。この両方に、同じ量のウシの胃液を入れる。
後呂
「胃液を入れます」
そう言って後呂は、同じ量になるように、ピペットを使って慎重にウシの胃液を入れた。
後呂
「はい、しっかり入りました」
これを、ウシの胃の中の環境を再現した装置に入れて、24時間ねかせる。すると、カシューナッツの殻のオイルが入っていない方は泡がたくさんできていた。この泡が発生したメタンなどのガスだ。一方、オイルが入っている方には、大きな変化は見られない。
小林名誉教授
「こっち(ガスが発生した方)はエサが全部上に浮いています。ガスができないとエサは浮き上がらない」
よく見ると試験管の底に沈んでいた干し草が、一番上まで浮き上がっている。
後呂
「底にあったエサが全部上に来るくらい、ガスが持ち上げた」
小林名誉教授
「そうそう」
後呂
「カシューナッツの殻のオイルが入っている方は、まだ下にエサがたまっている」
小林名誉教授
「押し上げるだけの(メタン)ガスが出ていないってことです」
殻からとったオイルには、強力な抗菌作用のある成分が含まれていて、これがメタンを発生させる一部の微生物を弱体化し、その働きを抑えているという。
小林名誉教授は、15年間の研究で100種類以上の素材をテスト。その結果、最もメタンガスを削減できたのが、カシューナッツの殻だったという。
後呂
「発見した時って、どんな気持ちでした?」
小林名誉教授
「最初は信じられなくて、何回か繰り返したんですけど、メタンが出ないんで、これは本物だと」
後呂
「どれくらいメタンガスを削減できるんでしょう?」
小林名誉教授
「最大で4割。平均したら3割くらい」
後呂
「かなりの量ですね」
この飼料はすでに商品化され、現在、北海道の約1割の畜産農家が使用しているという。
後呂
「人とウシ。小林先生はどんな関係性を思い描いていらっしゃいますか?」
小林名誉教授
「科学の力でメタンガスを抑えてやって、これによって環境にやさしい畜産物を一般の消費者に届けるシステムをつくっていく。これまでずっと長らく続いてきた人とウシとの関係を、今後も続けていけたらいいなと思います」
(8月20日放送『真相報道バンキシャ!』より)