雨の西新宿で食料配布 過去最多177人
■雨の昼下がり、西新宿に177人の列
東京新宿、駅西口を出て地下通路を都庁方面に歩いていくと、都議会議会棟を過ぎた高架下にピロティスペースがあります。16日土曜日、あいにくの雨にもかかわらず、午後1時を過ぎたころから、どこからともなく人々が集まりはじめました。毎週、土曜日に行われているボランティア団体による無料の食料配布を待つ人々です。
「前の人と間隔を十分空けて並んでください」
マスク姿で腕には腕章をしたスタッフが、コロナの感染予防のために広く間隔を取るようにと声をかけながら、集まった人たちを順番に整列させていきます。食料の配布までは、まだ30分ほどあるにもかかわらず、すでに70人ほどが列を作っていました。
顔見知りなのか話し込む男性たち、大きな荷物を抱えて疲れた表情を見せる人、わずかですが若い人の姿も見受けられました。
そんな列の中に、夫婦で支援を受けに来たという人がいました。聞けば居酒屋を営んでいるといいます。
「店のオーナーが自粛するというので店を開けられない・・・、先週、ここ通ったら食料の支援をしていると聞いたので、今週は並びました」
食料の配布を受けるのは、初めてだそうで、自粛要請が延長されているので、まだ、店を再開するめどは、立っていないといいます。
また、革靴に細身のスラックスといういでたちの若者も。手にしたスマホに目を落としたまま列に並んでいました。今風の若者は、列の中では少し異質見えました。
「今日が、初めてです」
静岡・伊東の温泉旅館で、客室係のアルバイトとして働いていたAさん(30)。
「旅館なんで、コロナの影響がもろに出ちゃって、・・・『しばらく出てこなくてもいいよ』って言われちゃって、休業手当も出ないし、やめるしかなかったです」
それが、3月半ばのこと。Aさんは、もともと東京の出身ですが、施設などで育ったため東京に戻っても身よりはなく、いまは、都の自立支援プログラム「TOKYOチャレンジネット」の支援を受け、その宿泊施設で寝起きをしています。
配られた食料を見せてもらうと、中身は、おにぎりのお弁当、食パン、ミニトマトやバナナなど、日持ちのするものだけでなく野菜や果物などもありました。食料品のほかにもマスクや簡単な衛生用品などコロナの感染予防のための日用品も配られていました。
「野菜とかあるのはうれしいです。こんな状況なので、助かりますね」とAさん。
今は、スーパーマーケットの警備のアルバイトにつくことができて、わずかながら収入の見通しもできたといいます。ただ、一定条件が整うとチャレンジネットの宿泊施設は出なければならず、これから先は、まだ不安だといいます。
食料の配布は、20分ほどで終わり、受けとった人は、三々五々その場を離れていきましたが、Aさんは、生活支援の資料なども受け取り、ボランティアスタッフと何やら会話しながら、しばらくとどまっていました。
■自粛解除へ関心が高まるが、生活困窮者は今後も増え続ける
この日、食料を配布した人数は、177人。これは、この食料配布を始めて以来、過去最高の人数だといいます。現場を取り仕切っていた自立サポートセンターもやいの大西連さんは
「今日は、雨だったので、もし晴れていたら足りなくなっていたかもしれません」
この日用意した食料の数は180パックで、ギリギリ全員に配ることができたのだといいます。
この食料配布は、2014年7月から、もやいと新宿ごはんプラスが共同で行っているもので、食料の支援を受ける人は、新型コロナの感染拡大以前は、大体コンスタントに70人前後だったといいます。しかし、4月以降は一気に120人にまで増えて、5月の第1週が145人、第2週が140人と2週続けて140人を超えました。
「コロナの影響とはいえ、177人はびっくりしましたね。小学生の感想みたいで申し訳ないですけど」大西さんも驚きを隠しません。
食料の配布の後、希望者は、医師、看護師などによる医療相談や、弁護士による生活相談を受け付けることができます。丸椅子だけの即席の相談スペースで、ボランティアスタッフが相談者の額に体温計を当てて健康状態について聞き取りをしたり、生活上の相談に乗ったりしていました。生活保護受給を希望する男性の相談には、時間をかけて窓口での対応の仕方などについてアドバイスをしていました。
この日の相談数は27件で、そのうち生活保護などについての相談は11件あったといいます。
内容は、「野宿を始めて、数週間たってしまった・・・」とか、「ネットカフェが営業自粛になってから、わずかな貯金でしのいできたけど、いよいよ手持ちのお金が底をついてしまう」というようなもの。
相談の件数自体は、常に20件から30件くらいで、大きく増えたということではないが、やはりコロナの影響を感じるといいます。
「ここに相談に来る人は、仕事もないし、手持ちのお金もないという方が多いので、主に生活保護の申請になる方が多い。野宿の人も多く、住所地があれば、また、仕事だけでもあれば、緊急融資や住宅支援など支援のバリエーションもあるんですが…」と大西さんは言います。
世間では自粛解除がもっぱらの関心事になりつつありますが、景気への影響は深刻で、むしろこれから、解雇や雇い止めなどで生活に困窮するひとが、さらに増えていくのではないかと大西さんは心配しています。
毎週土曜日に行われている食料配布と相談会、次の土曜日に向けて、今度は200人分の食料を用意する予定です。