歯の矯正治療 途中で院長が“雲隠れ”
都内のある矯正歯科クリニックで、「だまされた」などと被害を訴える人が続出していました。高額な代金を前払いさせ、治療の途中で、突然、院長がいなくなったというのです。いったいどこにいるのか、院長の行方を追いました。
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東京・六本木。私たちは、被害を訴えるひとりの女性に会うことができました。
案内してもらったのは、当時通っていたという「矯正歯科クリニック」。
スタッフ
「今は看板とかもなく」
女性
「そうですね、何も残ってないですね」
女性は1年にわたって歯の矯正治療を続けていましたが、突然クリニックが閉まってしまい、どうすればよいか、わからなくなったというのです。
被害を訴える女性
「今の感情は憎しみしかないです。時間とお金を返してほしい」
事の始まりはおよそ3年前。女性はネット上でそのクリニックを見つけたといいます。
被害を訴える女性
「いつか矯正しようと思っていて、“76万円で治療ができます”と。2年くらいでできるという判断だったので」
クリニックの動画では、白を基調とした院内で、最先端の設備があることをうたっていました。
院長は、「A」という60代の男性。
2年ほど矯正器具での治療をすれば、歯並びが良くなると説明を受けた女性は、代金75万6000円を7回払いで契約しました。
ところが、治療が始まってすぐ…
被害を訴える女性
「やわらかい魚とか食べても(器具が)外れていました。ワイヤが飛び出しちゃって、飛び出たままだと口にあたって痛かったので、外れたので、すぐに直してくださいと電話したのですけど、受け付けてもらえなくて」
なんとか予約をとり、直してもらっても、また外れてしまう。それは5回以上あったといいます。
被害を訴える女性
「(歯並びが)なかなかきれいにならないなと。時間がかかっても仕方ないのかなと思ってました」
そして、およそ1年が過ぎたころ、女性がクリニックに向かうと…
被害を訴える女性
「突然いなくなって、すごくびっくりしました。電話もメールも何もなくて、治療どうなっちゃうのかと」
クリニックが突然の閉院。治療を続けることができなくなってしまったというのです。
どうしようもなく、女性は別のクリニックで器具を外しました。この1件で、新たに矯正治療を始める気持ちにはいまだ、なれずにいるといいます
その後、女性はSNSで被害を訴えました。すると、次々に情報が寄せられたのです。「院長Aにだまされた」と訴える人は20人以上に上りました。
そこには、院長の矯正治療に対する不信感も…
そこで、院長Aが装着した矯正器具を東京歯科大学の教授にみてもらいました。
東京歯科大学・歯科矯正学講座 西井康教授
「このブラケット(土台)は一般的ではないです。歯につけるためのブラケット自体の大きさですね。大きさ自体が小さい。(歯との)接着面積が少ないので、外れやすいという欠点があります」
一般的なものと比べると、歯に設置する器具が小さいため、外れやすいと指摘。
また、他の矯正歯科クリニックに聞くと、その器具は部分的に使用することはあっても、全体に使うことは考えられず、院長「A」の行う矯正治療では、効果の期待値が低いと多くの歯科医師が話しました。
さらに私たちは消えた院長「A」を追跡取材。クリニックと兼業していた「A」の会社を訪ねました。
しかし、そこも、もぬけの殻。姿を消していました。
取材を進めると、院長「A」は、六本木のクリニック以前にも、別の場所で突然、いなくなっていた事実が判明。
港区青山では、患者だけでなく、ビルのオーナーも被害を訴えました。
ビルのオーナー
「待ってくれ、待ってくれって。そのうちに家賃も払わなくなって」
院長「A」は、4か月分の家賃など、およそ250万円を滞納。その後、設備を残したまま、夜逃げをするように行方をくらましていたのです。
では、院長「A」は、今どこにいるのか?
調べを続けると、院長「A」のSNSを発見。多くの写真が投稿されている中に、手掛かりとなる1枚がありました。
院長「A」は姿を消した直後、沖縄・石垣島に新たなクリニックを開いていたのです。
現地の取材スタッフが石垣島のクリニックに向かいました。院長はいるのでしょうか?
しかし、院内には物が散乱。郵便物もたまったまま。そして、ドアには、通っていた患者が貼った「連絡が欲しい」という訴えがありました。
院長「A」は、石垣島でも歯科治療代を前払いさせ、途中でいなくなっていたのです。
通院していた女性は…
通院していた女性
「まさか歯医者で詐欺みたいなことをされるとは」
2020年12月、欠けた前歯などを治すために治療の代金およそ10万円を先に支払い通院。
しかし、3月末にクリニックが突然閉院し、院長「A」とは音信不通に。治療途中だったため、歯には土台だけがついたままになっていました。
私たちは、院長「A」に電話やメールで取材を申し込みました。しかし、今も一切返事が来ていません。
被害を訴えるおよそ20人は、院長「A」について情報交換を行い、集団訴訟を視野に動いています。