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大学生「ファクトチェック」に取り組む理由

2021年10月24日 12:20
大学生「ファクトチェック」に取り組む理由

大量の情報に、誰でも簡単にアクセスできるようになったデジタル時代。「情報の真偽をどう確かめるか」という疑問を持った大学生たちが、その情報の真実性や正確性を検証する「ファクトチェック」に挑戦しています。その理由と思いを聞きました。

■「ジャーナリスト」のタマゴ?! Waseggの由来

大学生が自ら発信するさまざまなWebマガジンのなかで、メディアや記者の「プロ」から注目されている「ジャーナリストの卵」たちの取り組みがあります。「Waseda」と「Egg」をつなげた、「Wasegg」(ワセッグ)は、早稲田大学政治経済学部のジャーナリズム・メディア演習(瀬川ゼミ)の大学生が発信するWebマガジンです。

「ファクトチェック」とは、社会に広がっている情報・ニュースが事実に基づいているかどうかを調べ、そのプロセスを記事化して、正確な情報を人々と共有する営みです。一言でいえば、言説・情報の「真偽検証」となります。

2018年に始まった「Wasegg」に、現在20人の学生が集まって、「いつかはそれぞれ、タマゴの殻を破って羽ばたいていこう!」という思いで、政治家の発言などをはじめ、いろいろな言説をファクトチェックしています。

いま、衆院選候補者の発言に特化し、自民党担当チームや野党担当チームなどに分かれて、新聞やテレビなどで取り上げられた候補者の発言を検証して、ファクトチェック記事をWaseggのサイトに載せるチャレンジを行っています。

■「政治家がウソをいう訳がない」と思っていた大学生は…

早稲田大学3年の中村太一さんはかつて、テレビで流れる政治家の発言について、「偉い政治家がウソをいう訳がない」と考えていたといいます。

しかし、政治家の発言の真偽を検証するために、必要な事実関係の調査・取材を行い、例えば、省庁のHPなどの公開情報と丹念に比較していくと、「勘違いや誤情報に基づく発言が決して少なくないことに気がつき、驚いた」と話します。

「露骨なウソというより“全て”とか“いつも”とかの言葉を使って、本来なら一部にすぎないものが、いつの間にか全体の話とすり替わり、あれ?ということがあります」

「例えば『全て復旧した』という政治家の発言を調べると、実は『全て』復旧していなかったことが判明し、政治家個人の勘違いや調査不足による発言が少なくないといい、その言葉を鵜呑みにして情報を受け入れることをせずに、よい意味で『疑り深く』なったと思います」と自身の感想を述べました。

■手間暇をかけて…「ファクトチェック」を続ける理由

Waseggのリーダー的存在である4年生の鳥尾祐太さんは、衆院選に関連する「ファクトチェック」の意義について、「間違った情報に基づいて投票をする人が損をしないようにしたい」と話します。「好き嫌いではなく、政治家の発言が正しいのかそうでないのか。その前提となる情報が間違っていれば、大変なことになります」

一方、Waseggの活動を通じて、正しい情報を伝えることの難しさも痛感したという鳥尾さん。以前、「山手線の車内案内から、中国語・韓国語の表示がなくなった」という誤情報が、SNS上に拡散されました。鳥尾さんは、JRなどに確認し、そのような事実がなかったことを確認。ファクトチェック記事を書き、Waseggのサイトに公開しました。しかし…。

「誤情報が9000件近く拡散されたのに対し、私が書いた正しい情報は300件ほどしか広がりませんでした」「無力感を感じ、心が折れそうになりました」と振り返る鳥尾さん。

「ファクトチェックをやめてしまえば、誤情報がひたすら拡散し続けます。そこで負ける訳にはいかないので、手間暇をかけても正しい情報を発信し続けることが大切だと思います」と語りました。

■情報溢れるデジタル時代 ファクトチェックの先にあるのは「リテラシーを高める」こと

学生たちを指導する早稲田大学の瀬川至朗教授は、「ファクトチェックを行う際は、オリジナルな情報を記載した資料(1次資料)にあたることが最も重要。時間がかかっても愚直にやっていかなければいけない。これがジャーナリズムの基本でもあるし、メディア・リテラシーを高めることにつながる」と説明します。

情報が溢れるデジタル時代。ジャーナリストの卵たちが作るWaseggは、Webマガジンの発信を通じて、社会全体に「ファクトチェック」の重要さを認知してもらい、メディア・リテラシーの向上につながることを目指しています。

*Wasegg(ワセッグ) https://wasegg.com/about

写真:早稲田大学瀬川ゼミの「ファクトチェック」