悪質“カスハラ”客を拒否できる? 「改正旅館業法」が施行 “サービス”と“ハラスメント”…線引きは?【#みんなのギモン】
14日の#みんなのギモンは「悪質“カスハラ”客、拒否できる?」がテーマです。次の2つのポイントを中心に、詳しく解説します。
●何が“カスハラ”?
●実際に拒否できる?
■カスタマーハラスメントと「旅館業法の改正」…接客現場の受け止めは?
栃木県の日光にある旅館では、13日からフロントに“旅館業法の改正について”のチラシを置くことにしたといいます。
――現場として、率直にどう受け止めていますか?
旅籠なごみ 神尾和彦社長
「今回の旅館業法の改正につきまして、私どもは大歓迎です」
こう話す理由は、宿泊客に理不尽な要求をされた経験でした。
旅籠なごみ 神尾和彦社長
「『何で伊勢エビが出ないんだ』ということで、非常にトラブルを起こした件がございます。どこにも、私どもはHPにも掲示しておりません、伊勢エビをメイン料理として出すことは。最後の決めゼリフが、『口コミに書くぞ』だったんですね」
地元・日光の食材をウリにしている旅館ですが、(その時の客は)夕食のメインが伊勢エビではなく栃木県産のブランド豚だったことに怒り、伊勢エビを出すよう繰り返し要求してきたといいます。
このほかにも、旅館の口コミに従業員を名指しして苦情を書かれ、その従業員が退職してしまう事態もあったということです。
言われてもなかなか理解しがたい、どうしようもできない要求が繰り返されたということなんです。
そこで、今回の1つめのポイント「何が“カスハラ”?」についてみていきます。
『改正旅館業法』では、どんなケースで宿泊を拒否できるようになったのでしょうか。
その具体例には、次のようなケースがあります。(※厚労省HPより)
◆過剰なサービス要求(宿泊料の不当な割引・部屋のアップグレードなど)
◆土下座などによる謝罪を要求
◆泥酔して長時間の介抱を要求
◆長時間もしくは叱責し、不当な要求を行う
◆上下左右の部屋に、宿泊客を入れないよう要求
◆特定の従業員だけに応対させることや、特定の従業員を出勤させないことを要求
こうした行為を繰り返し求められた場合、旅館やホテル側が宿泊を拒否できるようになったということです。従業員の方たちも安心して働けるようになることが期待されます。
こうしたカスタマーハラスメントを受けている施設というのは多くあります。
全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会がホテルや旅館に行った調査によると、宿泊客によって「従業員を長時間にわたって拘束したり、威圧的な言動でクレームが繰り返し行われた」という施設は41.0%、「宿泊料の不当な割引など、過剰なサービスを行うよう繰り返し求められた」という施設は23.5%もありました。
こうした要求に対応していると、ほかのお客さんに必要なサービスが提供できないとして、法律が改正されたというわけです。
一方で、宿泊拒否の対象にならないケースには、どんな場合があるのか。
まずは、障害がある人が施設側に「合理的な配慮」を求める場合などがあります。
○フロントなどで筆談でのコミュニケーション
○車椅子利用者が、ベッドに移動する際に介助を求めることなど
○盲導犬の同伴
このほか、施設側の故意または過失によって損害を被ってしまい、何かしらの対応を求めるということもあり、こうしたことなどは従来どおり、宿泊拒否の理由には当然あたりません。(※厚労省HPより)
これらは、すべての客が同じように気持ちよく宿泊するために絶対に必要なサービスだと思われます。一方で、どこまでがサービスで、どこからが“カスハラ”なのか、感じ方は人それぞれということもあり、個人の認識のすり合わせや、その線引きには難しいところもあります。
カスタマーハラスメントに詳しい、東洋大学・社会学部長の桐生正幸教授に話を聞きました。
桐生教授によると、要求の内容というよりは、態度や言い方の問題なので、例えば「タオル1枚持ってきて」というのも、“高圧的な態度”だとカスハラになることもある、ということです。
「カスタマーハラスメント」とは、定義が明確になっていないからこそ難しい問題で、「相手がハラスメントに感じたら、ハラスメントになる」というわけです。
消費者は、疑問に思ったことは主張してよいが、ただ、態度や言い方が高圧的にならないようにする。そして、お互いに気持ちよく過ごすためには「ありがとう」の気持ちをもつことが大事だと桐生教授は話していました。
“お金を払ってるから当たり前だ”という態度ではなくて、まずは「ありがとう」と思うことを心がけたいですよね。
■実際に拒否できるか「線引き」が難しい場合も…旅館も葛藤?
続いては2つめのポイント、施設側は「実際に拒否できる?」についてみていきます。
法律が改正され、ガイドラインもできましたが、実際、現場では、「宿泊拒否」はできるのか。
旅籠なごみ 神尾和彦社長
「お客様の宿泊を拒否した時点で、交通の手段も帰る方法もなくなります。ほかの宿泊施設を探すことも困難になります。本当に宿泊拒否をできるのか、と不安があります」
この“カスハラ”が生まれた背景について、桐生教授は「近年、お客を確保するために“サービス合戦”が始まり、過度な“おもてなし”が広がっていき、一部のお客さんが甘えていったのが “カスハラ”を生んだ」といいます。
ただ、「今後は、このサービス合戦は終わりにして、宿泊する側も過度なサービスを期待しない。施設そのものの良さを評価する価値観にシフトしなければならない」と指摘していました。
私たちが遠方への旅行を楽しめるのも、宿泊施設で働いている方々がいてこそ、です。宿泊施設でも人手不足に悩まされているなか、過剰な期待や要求をすることが、宿泊施設をさらに追い込む事態にもなりかねません。
せっかく旅行に出かけるのであれば、お互い気持ちよく新年を迎えられるよう、「節度」をもって過ごすことを心掛けたいものです。
(2023年12月14日午後4時半ごろ放送 news every. 「#みんなのギモン」より)
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