【解説】「圧倒的な男性社会」警察組織 女性“管理職"わずか2.5%の現場どう変える? 幹部研修に密着
女性幹部率の低さなどから「ため息が出るほどの男社会だ」と県の公安委員から指摘されることもあった警察組織。少しずつ変わろうとする組織と、幹部になろうとする女性警察官への取材で見えた“変わったこと”について社会部千葉担当・安食記者が解説します。
日々、私たちの暮らしを守るために活躍する警察官。交番勤務、白バイ隊員、刑事など様々な職務があります。千葉県で働く警察官はおよそ10850人。そのうち女性はおよそ1340人で全体の12.2%ほどにあたります。警察には階級があり、試験や面接を経て昇任。巡査から巡査部長、警部補、そして警部になると一般企業でいう管理職に登用されたことになります。管理職のうち女性が占める割合はおよそ2.5%です。女性の人数自体は12.2%ほどだったので、人数の割に幹部になった方が少ないということが分かります。
労働政策研究・研修機構が今年3月に公表したデータでは、2022年時点の日本企業の女性幹部率の平均は12.9%でした。他の国と比べるとアメリカは41.0%、タイは36.9%と日本は国際的に低い水準とされています。千葉県警の女性幹部率は、日本企業の平均と比べても5分の1ほどです。去年、女性幹部率が1.6%だった別の県警について、その県の公安委員を務める民間人の女性が「ため息がでるほどの男性社会だ」「ロールモデルが非常に少ない」などと指摘する出来事もありました。
警察の女性幹部率が低い理由として2点が挙げられます。ひとつめは、幹部候補になるまでの実務年数を積んだ女性警察官の数が少ないことです。女性警察官の採用人数は、13年前の2011年頃に増やす方針が定められました。それ以前は、採用人数自体がかなり少なかったといいます。ふたつめは、幹部になると当直勤務の責任者、いわゆる泊まり勤務の責任者を任されることです。時間的な制約も多く、責任も重くなるため、仕事と家庭の両立で不安を抱える女性が多かったといいます。
警察もこのような状況を変えていこうとしています。まず、人数の面では、女性警察官の採用予定人数は年々増加していて、来年度は過去最多の採用人数を予定しているということです。泊まり勤務の負担については、いつかは担当する必要があるものの、昇任した警察官の育児や介護などのライフステージに合わせて幹部としての経験が積めるように泊まり勤務がない部署への配置を検討するなどしているということです。また、女性の社会進出を後押しするため、男性の育休取得率も上げていく方針で、現在は取得率50%以上が目標だということです。
■少しずつ増える女性幹部 組織に起きている“ある変化”
ライフステージに合わせた配置などにより、少しずつですが、女性幹部率は増えてきているといいます。6年前は886人いた幹部のうち女性はわずか8人で0.9%ほどでした。去年では22人に増え2.5%になったということです。これから幹部になろうとする女性警察官の研修に密着取材すると、ここ数年で、人数や働き方のほかにも“ある変化”が起きているといいます。
千葉県警・千葉東警察署。
林警部
「いずれにしても聞いてみないと分からない」
下岡刑事課長
「まあ明日、明日やりましょう」
殺人事件などを担当する刑事課には、2人の女性警察官の姿がありました。警察官として24年間勤務してきた林美紀警部は、昇任試験に合格。30人ほどの部下を束ねる“女性刑事課長”の下岡久美子警部のもとで、幹部になるための研修を受けています。
林警部
「警察って、絶対数でまだまだ数だけ見れば、男社会っていう部分があると思うんですけど、(女性が刑事課長として)前面に立って」
女性が刑事課長を務めることは、今まであまりなかったといいます。この日は、捜査を続けてきた事件の大詰め。去年の夏頃、千葉市では深夜に玄関のドアがひもで縛られる不可解な事件が連続発生していました。部下たちは、男の逮捕のため早朝から現場へ。
捜査員
「着きましたんで、これから着手します」
報告を待つ2人のもとに電話が。
下岡刑事課長
「55分に着手(逮捕)。いた。もう自供した。なんて言ってた?自供したそうです」
林警部
「よかったです。着手55分」
下岡刑事課長
「いたずら目的でやっちゃいましたと」
林警部も、現場からの報告を受けます。
林警部
「防犯カメラの写真を、いま見ているんですけど、ヘルメットは頭にライトがついたヘルメット」
映像と現場から押収されたヘルメットの特徴が一致。男は住居侵入の疑いで逮捕されました。
林警部は、ここ数年で、警察組織が変わってきたといいます。
林警部
「昔は、女性警察官の任せられるポジションって、非常に限られていたと思います。刑事課長もそうですけど、(今は)本当に昔は考えられなかった仕事に、普通に女性がついてやっている」
VTRで紹介した林警部は、昔の県警について「荒れた現場を女性に任せるっていうのは“漠然とした不安”が組織や男性幹部の中にあったと思う」と話していました。
警察官として充実した仕事をしたいと志して採用された当時は警察官になったはずなのに「拳銃つけて大丈夫か」「本当に怪我しないでね、気をつけてね」と年代の近い男性警察官より、丁重に扱われてたと感じていたといいます。そのような意識が少しずつ変わっていき、警察官としてリーダーとして当たり前に期待される“誰にでもチャンスがある職場”に変わってきているということです。
女性幹部率の低さから“男性社会”と指摘されることもあった警察組織ですが、人数の偏りや、ライフステージに合った働き方ができるよう制度面を整えることで、働いている人たちの意識も変化してきているようです。