【特集】現代の名工が引退 越前打刃物の技術を次世代に 刃渡り1メートル超のマグロ包丁 若手の職人が奮闘
刃渡り1メートル超のマグロ切り包丁を手がける越前打刃物の「現代の名工」が引退を決意しました。手仕事で極めた、かけがえのない技術を受け継ごうと、若手の職人が奮闘しています。
越前打刃物職人で、現代の名工にも認定されている清水正治さん(83)。
中学卒業から家業の鍛冶職人の道に入り、およそ70年。清水さんが作り出す刃渡り1メートル以上のマグロ包丁は、地金に刃先となる鋼を接合する伝統技法の「沸かし付け」で極めた集大成です。
■清水正治さん
「職人はきりがない。頂点がない。勉強しても足りない。こんな長いものをやろうと思ったら、根性入れてやらなできん。これは並じゃできんのやぞ。いい加減じゃできん」
清水さんのマグロ包丁は、全国の魚河岸に愛用されています。
■マグロ専門の仲卸業者
「長包丁って、硬すぎても柔らかすぎてもだめ。程よいしなり、反発力みたいな。使い勝手はものすごくいい。ここまで包丁を作れる職人はなかなかいない」
マグロ包丁の鍛冶職人は全国でもわずか数人。しかし、清水さんはこのほど引退を決意しました。
■清水正治さん
「きょうは痛いわ。(手術はどれだけかかった?)4時間ちょとかかった」
「(そんなかかった?)ちょっと油断した」
きっかけは作業中の事故による大けが。人生で初めて入院しました。
■清水正治さん
「衰えているんや、やっぱり。これはあかん。やめたほうがいいかなと。またけがしてしまう。今度はこれではすまん、今度したら」
大量生産や価格競争の危機にさらされながらも、付加価値の高い製品にシフトして、産地の生き残りを図ってきた越前打刃物。その原動力は長年受け継がれてきた技術です。
■弟子を指導する清水正治さん
「けがしたから仕事辞める。あとはお前が引き継いでやらなあかんぞ」
「はい」
越前市内の包丁製造メーカーに勤務する北村拓己さん(36)です。
■北村拓己さん
「真っ赤に熱した鉄を自由自在に、形を包丁にしていく。そこに魅力を感じている」
1人前には最低でも5年。独立には十数年かかるとされる打刃物の世界。
■指導風景
北村さん「赤めていると反ってくるもんですか?」
清水さん「反る、反る。早めに赤めてしまう。もたもたしていると冷めてしまう」
北村さんは5年ほど前から、清水さんのもとで技術を磨いてきました。
■指導風景
清水さん「今度は全部ひとりで、火づくりから仕上げから焼き入れから、みんなさせる」
北村さん「はい」
清水さん「ずっと見ているからわかる」
北村さんは今回、初めて全ての工程を任されました。
■清水正治さん
「刃が厚い。もうちょと薄くしないと。よく赤めて(熱くして)」
鉄を800度になるまで熱し、機械で3倍の長さに打ち延ばして、形を整えます。
■北村拓己さん
「燃えてしまわないかというのと、結構柔らかくなって伸びすぎて難しいというのがある」
強度を高める焼き入れは、包丁作りの重要な工程。清水さんのボルテージも最高潮に達します。
■清水正治さん
「おい、北村!まっすぐ挟まな。まっすぐ挟めって」
800度に達したら、急激に冷やします。この熱処理で芯の地金がしなり、鋼の刃の切れ味が鋭くなります。
■指導風景
清水さん「ここらがへこんでるやろ」
北村さん「はい」
清水さん「もっと叩け。もっときつく叩け。2つか3つではあかん。もうちょっと叩かな」
刃渡り47センチのマグロ包丁は、熟練の技や心構えを受け継いだ初めての1本です。
■北村拓己さん
「やり始めたばかりなのでこれからです。最初の一歩みたいなもの。これからいいマグロ切りを作っていきたい」
■清水正治さん
「気持ちいい。きょうはうれしい。ちゃんとできたんやで。よくまめに動くでいいんや。すぐ覚える。良かった」
750年続く産地で、師匠から弟子へ。かけがえのない伝統の技が少しずつ受け継がれています。