「希少疾患」と向き合う患者たちの声…“病気も全部含めて個性” “育児も出産も諦めない” 願いは…『every.特集』
「希少疾患」は国内でも患者数が非常に少ない病気。医師や患者自身も気付きにくいという「HAE」で夫を失った松山さんは、同じ病気を抱える娘とともに患者の声を届けます。「CIDP」を患う池崎さんは、育児も出産も前向きに希少疾患と向き合っています。
大阪の街を歩く松山真樹子さん、みさきさん(中3)親子。真樹子さんは14年前、夫を亡くしました。患者数がまれな、「希少疾患」でした。この日、向かったのは、その希少疾患の患者会です。
松山 真樹子さん
「夫が33歳という若いうちに亡くなって。もっと早くわかっていればよかったとか、もっと医師の先生がわかってくれていればよかったとか。経験をシェアしたり」
実は、真樹子さんの夫が希少疾患を抱えていたとわかったのは、亡くなった後のことでした。夫は、おなかが突然痛くなったり、年に数回、手足が大きく腫れたりすることがあったといいます。そして33歳のときに喉の部分が腫れ、呼吸困難に陥りました。
希少疾患で夫を亡くした 松山 真樹子さん
「下が向けないくらいパンパンに腫れていた。道で倒れてしまってすぐに救急車を呼んで」
しかし、救急で対応した医師も原因がわからず、すぐには診断がつかなかったといいます。
真樹子さん
「(医師が)見たことがないくらい、喉の中がぶよぶよに腫れていて『なんだこれは?』と」
死後、わかったのが、「HAE 遺伝性血管性浮腫」という希少疾患。体の中の血管が突然腫れる病気で、夫の死因は喉の血管が腫れたことによる窒息でした。
HAEは医師や患者自身も気付きにくく、国内患者数は、推計約2500人と非常に珍しい病気。今のところ完全に治す治療法はなく、予防や対症療法が中心です。
「医者にも知られていない病気があるなんて…」
病名すらわからずに手遅れになってしまった夫への思いから、真樹子さんは、娘と一緒にHAEの患者会に参加。2023年から理事長を務めています。
HAEは、娘のみさきさんにも遺伝しており、成長するにつれ、顔やおなかが腫れる発作が起きるようになったと言います。
娘 みさきさん(中3)
「小さい頃はまだ発作が少なかった。中学校になると頻繁に、週5くらいで(おなかに)細かな刺激をされているような痛みが長時間続く」
いつ発作が起きるかわからず、学校生活にも支障が出てきたみさきさんでしたが、2023年から使い始めた予防薬が効き、発作は抑えられるようになりました。
しかしこの注射、自分で打つのはすごく痛いと言います。
みさきさん
「このタイミングで打つ、そしていま呼吸をする」
真樹子さん
「ママちょっと動かないで、と言って」
みさきさん
「少しの衝撃でも響く。注射を持っている手が動いて痛い」
患者数が少ないため、予防薬や治療法などがわかりづらく、患者同士で近況を語り合うことが心の支えになるといいます。
HAE患者
「予防投与していたんですけど効果がなくて。いま自己注射している」
HAE患者
「月に1回は(注射を)打っている。なんとか仕事を続けている」
みさきさん
「2週間に1回打ってすごく効いていて。打つ前は保健室に駆け込むことが多かったけど、そんな事もなくなってハッピーライフです」
まもなく高校受験が控えているみさきさん。患者会の合間にも勉強です。
「とりあえずここ覚えないと、陽イオン陰イオン」
――今、自分の病気をどう受け止めているのでしょうか?
「嫌なのはそうですけど、治療すれば何とかなる。ひとつ自分の個性として、全部含めて自分です」
母の真樹子さんは、海外の患者会で情報交換をしたり、日本の医師の学会に患者の声を届けたりしています。願いは、HAE患者を取り巻く環境がよくなること。
真樹子さん
「より多くの医師の先生、学校の先生とか保健の先生に、この病気をもっと知ってもらって、きちんと治療・対応をする事ができるようになるといいなと思います」
希少疾患であることを若いうちから知り、病気と共に前向きに歩んでいる人がいます。池崎悠さんは、「CIDP」という末梢神経に炎症が起き、手足に力が入りにくくなる病気を患っています。
患者は全国で推計5000人ほど。池崎さんは、手や腕の力が入りにくくなると言います。発症したのは中学生の時。以来ずっと、この病気と向き合っています。
希少疾患CIDP患者 池崎 悠さん
「例えばマグカップや箸とか、ちょっとした物をすごく持ちづらくなる。すごく疲れやすさもあって。例えば半日外出したら半日寝込んでしまう。ちょっと説明しづらい疲れやすさが出たりします」
手に力が入りにくい池崎さんのために、市の支援によるホームヘルパーが週に2回、掃除や食事の支度をしてくれます。
池崎さん
「ピーマンをおかかと炒めてもらっていいですか?」
ホームヘルパー
「わかりました」
池崎さんは、野菜をしっかりおさえて切る、フライパンを持ってゆするなど、握力を使う調理が難しいのだそう。
また、2歳の長男をお風呂に入れたり、着替えさせたりするサポートは、訪問看護師の手を借ります。
訪問看護師
「はいよっこらせ」
実は池崎さん、まもなく2人目の出産を控えています。
池崎さん
「ヘルパーさんが生活環境を整えてくれ、病気を持っていても(出産を)諦めることはないんだなと強く感じました」
「きょうだいがいて育つの、楽しいかなって、2人目に挑戦している」
現在は月に1回、病院に通い、症状を抑えるための治療を続けています。一つの目安は握力。
主治医
「最近ずっと2桁だもんね。大丈夫そうかな」
症状は落ち着いていて、免疫を安定させるための点滴を受けました。
脳神経内科 三澤 園子 医師
「妊娠中、育児中ということもあり、ご主人ご家族の協力であったり、ヘルパーさん方の支援が欠かせない」
病状は安定しているものの、妊娠中のため、疲労感が激しくなることが多いという池崎さん。この日は、ヘルパーさんに息子を預けて、少し横になることにしました。
池崎さん
「何かあったら呼んでください」
2歳の長男はいま、甘えたい年頃。お母さんの休憩中はヘルパーさんに。
「息子を長時間抱っこするって難しい。息子の全力の愛に全部応えられないのがしんどい。精いっぱいの言葉がけでなんとかカバーできないか…。ちょっとつらいところ」
用意してもらった食事を温めて晩ご飯。
夫
「ただいま」
この日は夫が早く帰ってきて、家族3人で食卓を囲みました。
池崎さん
「何食べたいの?お肉?」
病気を抱える妻の出産に、夫は…
夫
「どんな元気な人でもたまに体調悪い時があって、そういう時、気を使うし、それがちょっと人より多いか少ないかぐらい。普通にやっていけるなって」
それから1か月。赤ちゃんが無事に誕生しました。
池崎さん
「女の子です。病気もあっていろいろ大変な中、何より無事に生まれてくれてよかった」
赤ちゃんを支えるのは、夫婦一緒に。2人は「適切な治療やサポートがあれば必ず病気を乗り越えられる」と話します。
■早期診断につながる新サービスも
鈴江奈々アナウンサー
「無事に赤ちゃんが生まれてきてくれて良かったですね。希少疾患に気づくことができれば、周りにサポートを求めることもできる。病を一つの個性と捉えて前向きに歩める社会に近づいていけるといいなと思いました」
「一方で、自分の不調の原因にたどりつくことはすごく難しいですし、希少疾患となると、なおさらなのではと思います」
森 圭介アナウンサー
「こうした患者数が少ない希少疾患や難病は専門医も少なく、希少疾患と分かるまでに病院を何軒も回らなくてはいけない。分かっても薬がないなど早期に適切な治療が受けられないおそれがある。そこで2024年、京都大学と日本IBMが共同で、AI技術を用いたRDファインダーというサイトを公開しました」
「WEB上に頭痛・発熱・めまいなど症状を入れ、さらに、『こんな症状も出ていませんか?』のところに当てはまる細かい症状にチェックを入れていく。そうすると、候補となる希少疾患や難病の病名や相談できる医療機関が表示されます」
「早期に医師の診断につながるように支援しようというもの。一般の人でも無料で使えるので、気になる症状がある人は検索してみてください」
(2024年12月12日『news every.』特集より)