難しい“魚の養殖”も次々成功 「海水魚」と「淡水魚」が共存できる“魔法の水”
日本テレビが「地球にいいこと、人にいいこと」を考える『Good For the Planetウィーク』略してグップラ。今回は「海の豊かさを守る」取り組みについて取材しました。
岡山市の大学にある水槽の中にいるのは、海で生息をする「海水魚」のカクレクマノミと、川や池などで生息する「淡水魚」の金魚です。この不思議な光景を実現しているのが“魔法の水”と呼ばれるもので、水産資源を守ることにつながると注目されています。
岡山市のスーパー「グランマート津高店」で人気なのは…
買い物客
「ウナギ好きなので楽しみにしている」
香ばしいタレとふっくらした身が食欲をそそる“日本のソウルフード”ウナギの蒲焼きです。実は、岡山の大学が開発した、画期的な“魔法の水”を使って養殖した、絶滅危惧種の「ニホンウナギ」なのです。
去年には、大手回転寿司チェーンのくら寿司で販売もされました。
岡山理科大学 山本俊政准教授
「今のSDGsにかなった養殖のやり方はコレだと思います」
地球に優しい、新たな養殖のスタイルを生んだ“魔法の水”とは─
◇
そのヒミツを探るべく「news every.」が訪ねたのは、海とは縁遠そうな岡山市の山の中。山奥にあったのは「岡山理科大学」の実験施設です。
岡山理科大学 山本俊政准教授
「海水なしでも(魚が)育つことを証明したい」
“魔法の水”を作り出した山本俊政准教授に案内してもらった先には…
岡山理科大学 山本俊政准教授
「これ金魚(淡水魚)です。それから、これはカクレクマノミ(海水魚)です」
淡水魚と海水魚が同じ水槽で共存する、本来あり得ない光景が広がっていました。不可能を可能にした“魔法の水”が難しいとされてきた魚の養殖を次々と成功させています。
岡山理科大学 山本俊政准教授
「こちらが世界初の陸上養殖ベニザケです」
ベニザケは成長時期によって川と海を行き来するなど、特殊な生態から養殖が難しいとされてきましたが“魔法の水”によって見事成功しました。
こうした希少な魚も、自然に生息する数を減らさず、私たちがおいしく食べることができる、まさに「海の豊かさを守る」ことにつながっているのです。
そのヒミツは…
山本准教授
「実はこの“白い粉”にヒミツがあります」
“白い粉”を水に混ぜるだけで“魔法の水”が完成。水道水でもOKだというのです。人体にも、もちろん害はないということなので、飲んでみると…
記者
「海水よりぜんぜん塩の味がしなくて、すごく薄いです」
その正体は…
山本准教授
「魚にとって必要最低限の成分を、この中に入れています。それはナトリウム・カリウム・ カルシウム」
実は海水魚も淡水魚も生きるために水から得ている栄養素は同じで、ナトリウム・カリウム・カルシウムなど。その3つを入れたうえで、もっとも重要なのが、「塩分濃度」です。
淡水魚・海水魚どちらも、体内の塩分濃度は1%ほど。山本さんは、魚の体内と同じ塩分濃度の水を作れば、どちらも生きられるのでは、とひらめきました。
山本准教授
「ただ単純に薄めるのではなくて、任意にモル比(濃度)を変えてやる。ここに難しさがあり、時間がかかった。砂漠の中の金の粒を拾うようなもの」
こうして作り上げられた“魔法の水”には、2つの大きな特徴があります。
1年間淡水で育ったベニザケと、“魔法の水”で育ったベニザケを比較すると、“魔法の水”で育ったベニザケの方が、3倍以上大きくなっていました。通常、出荷まで4年ほどかかるベニザケを約1年半で出荷できる大きさまで育てることができるのです。
その理由は、全体の3割とも言われる塩分調整に使うエネルギーが体の成長に回されるからだとみられています。
こうした技術が、漁獲量が減少するなどしている、日本の水産資源を守ることにつながると期待されているのです。
2つめの特徴が…
──どのくらい(水を)交換していないですか?
山本准教授
「2年です。風呂水だったら恐ろしいものがありますね」
“魔法の水”をきれいにしているのは「バクテリア」です。海水と比べて最低限の成分しか入っていないので、バクテリアが働きやすい環境になっているのです。
2年前に入れた水も、きれいなままです。こうした水を替える必要がないという、その特徴から、海のない内陸の国「モンゴル」での海水魚の養殖にも成功。肉食がメインのモンゴルに、“魚を食べる”という選択肢が増えました。
岡山理科大学 山本俊政准教授
「モンゴルの大草原で、すしを食べたら涙が出ました。本当に感動します」
“砂漠の国”での養殖も成功させた“魔法の水”。常識破りの研究から目が離せません。