介護施設に設置 「バスの来ないバス停」とは? 富山市
富山市にある介護施設に設置されたバスの停留所。しかし、いくら待ってもバスは来ません。なぜ設置されているのか、その狙いや効果を吉田記者が取材しました。
バス停でたたずむ、にこやかなお年寄り。バスを待っているのでしょうか。
吉田颯人記者
「私のそばにあるこちらのバス停。看板には、時刻表などが書かれていますが…実際にバスが来ることはありません。認知症の人が行方不明になるのを防ぐ、カギになっています」
バス停があるのは、富山市の介護施設、みどり苑です。認知症の高齢者あわせて40人あまりが利用しています。施設は4月、屋内にこのバスの来ないバス停を設置しました。取り付けたのは架空の時刻表です。バス停を設置した理由について 施設は、自宅に帰ろうとする人への対応と説明します。
みどり苑 瀬川麻由美看護師長
「夕方になると、黄昏症候群みたいな感じで、家に帰って夕食作らなきゃいけないとか、そういった思いを持つ方もいるので。実際には帰れないけど、このバス停で待っていると、家に帰れるかもしれないという思いをお助けできるように…」
この施設では以前、認知症の利用者が相次いで施設を抜け出し、徘徊したことがあったといいます。
みどり苑 瀬川麻由美看護師長
「ちょっとの隙をかいくぐられまして、出ていってしまった方、離棟された方がいて、みんなで探したという経緯がありました」
バスの来ないバス停の設置はドイツで始まった取り組みです。帰宅願望をもつ認知症の人への対応に悩む、全国各地の施設で導入が進んでいます。
愛知県・グループホームもみじ/きのみ 伊藤和紘さん
「自分の思いを果たせるというツールとして、バス停とバスというのが、心のケアのポイントにもなっていまして。ただそこにあるだけで、利用者の心の安心感というものを少なからず提供できているのかなと思う」
認知症は、直前の短い間の記憶に障害をきたす症状があり、自分の居場所や外出の目的がわからなくなることがあるとされています。
認知症に詳しい医師は、バスの来ないバス停の取り組みについて、「短期記憶障害に着目して気持ちを落ち着かせるための理にかなった対策」だと話します。
富山赤十字病院 殿谷康博医師
「バス停に来ますと、どこかにある自分の家に連れて行ってくれるんじゃないかな、そういう自分の本来いるべきどこかの家とバス停っていうのが、なんか繋がってますよね。非常に切迫した、帰りたいという気持ちがそこでちょっと、居てもいいという気持ちになることができる。そうなると気持ちがほぐれて、最終的にはまた施設の方に戻る。”バス停にしばらくいても良いな”から、”施設の方にいても良いな”ってことに繋がってくるといいますかね、そういった1つの象徴的な意味があるんじゃないかなと思います」
施設では、帰宅願望のある人がバス停を利用することもあり、効果が出ているのではないかと話します。
みどり苑 瀬川麻由美看護師長
「本当に少しでも安心して、安全に過ごしていただけるように、日々お手伝いしています」
認知症の人に安心して毎日を過ごしてほしい。バスの来ないバス停は、利用者の気持ちに寄り添う、心の停留所です。