『詐欺師として働いていただきます』闇バイトは特殊詐欺の実行役…追い込まれる若者描いた小説 <宮城>
いま社会問題となっている『闇バイト』を題材にした小説がある。
「スウィンダラー」=詐欺で金をだまし取る人、という意味で、執筆したのは
仙台を拠点に活動する作家・根本聡一郎さんだ。
最近、仙台でも『闇バイト』が関係する事件があった中、その手口や若者の心理について聞いた。
宮城県警は、仙台市内のマンションを拠点に『特殊詐欺』を行った疑いで、先週20代~40代の男女29人のグループを逮捕した。
メンバーの一部は、求人広告を通じて「メールオペレーター」として集められたいわゆる『闇バイト』だった。
『闇バイト』は、「高額報酬」や「即日現金払い」などをうたい、SNSやメールなどで広まっている。
学生
「家で働ける一日1万円からみたいな、変なDMが飛んでくるときがある。誰でもできる簡単な仕事みたいな文言から始まって、詳しい内容は書かれていなくて、興味ある方はこちらみたいなリンクが貼られている」
学生
「自分に得があるような楽な簡単なバイトみたいな感じで送られてくることが多い。インスタとかでもフォローしてないのに、メッセージが来るとかもある」
福島県いわき市出身で、東北大学を卒業後、仙台を拠点として活動する作家の根本聡一郎さん。
社会問題をテーマとした小説の執筆のほか、謎解きゲームの制作やテレビドラマの脚本なども手がけている。
今年6月に出版した「スウィンダラーハウス」では『特殊詐欺』と『闇バイト』を描いた。
作家・根本聡一郎さん
「今回意識したのは、物語を読む中で自然と『特殊詐欺』の構造が理解できるという話にできればと思い、受け子から掛け子から出し子まで全部の人たちが現れてどういう役割を担うのか、物語の中で流れとしてわかるように書いた」
物語では、『闇バイト』などで集められた男女が、密室の中で『特殊詐欺』を行う。
「スウィンダラーハウス」の一部)
今年で22歳です。闇バイトは今日が初めてじゃありません。1回やってタイパがよかったからまた応募してます…
若者たちは、与えられたマニュアルをもとに、高齢者の自宅へ電話することにー。
「スウィンダラーハウス」の一部)
弁護士役)弁護士のアオキと申します。息子さんですが、実は取引先の女性社員とトラブルを起こしてしまいまして…
息子役)母さん、オレだけど…取引先の女の子妊娠させちゃって
根本さんは、『特殊詐欺』に関する書籍や犯罪に関わった人の裁判を傍聴した経験などをもとに、執筆にあたった。
小説の中では、被害者からキャッシュカードを受け取る「受け子」や電話をかける「かけ子」、メンバーを集める「リクルーター」の手口など『特殊詐欺』グループの構造が描かれている。
作家・根本聡一郎さん
「(犯罪組織は)高齢者はこんなにお金を持っているんだと。若者はこんなにお金がないんだと。だから高齢者から若者が少しぐらい金を取ったって何も問題がないと。むしろ再分配なんだみたいなことを、本当に理屈として使っている。実際に捕まった人もそういう話を受けて、確かにその通りだと思ってやった。悪くないと思ってやっている人もでてきている」
小説では、軽い気持ちで始めても、抜け出すことが難しい恐ろしさを描いている。
「スウィンダラーハウス」の一部)
バイト)自分はもう案件受けられないので、連絡はいただかなくて…
リクルーター)初めの面接の際、私に運転免許証を提出されたことは覚えていますか?あなたの個人情報は保存してあります。あなたの氏名、住所、顔写真は我々が完璧に把握しています。たとえばこの免許証の画像をSNSにさらして詐欺事件の犯人とお伝えすることも可能です
作家・根本聡一郎さん
「一度(特殊詐欺の)仕事をさせられたあとに、今度は強盗行ってきて。たたき(強盗)いってきてとなる。強盗で人を傷つけてしまう、死に至らせてしまう。実際にありましたけど、そうなると強盗殺人です。
強盗殺人は、無期懲役か死刑しかないんですよ。もう(刑務所から)出てこられない、それくらい重い犯罪になる可能性があるという認識を、たくさんの人が持つ必要がある」
10月に神奈川県横浜市で発生した強盗殺人事件で逮捕された実行犯役の男は、『闇バイト』で集められたとみられている。
若者がターゲットにされる『闇バイト』。
根本さんは、若者が『闇バイト』に手を染めてしまう背景に「若者の貧困」があるとみている。
作家・根本聡一郎さん
「大学生については、もともと奨学金を借りていて、奨学金を返済しないといけない。生活費も自分で稼がないといけない時に、コロナ禍がきてしまった。カードローンを限界まで借りる。それが100万とか200万まで膨れ上がってしまう。それをなんとか就職するまでに返済しなければいけない、というところで闇バイトに手を出す方がいる」
警察は、SNSなどでの『闇バイト』の勧誘にひっかからないよう、若者へ注意を呼び掛けている。
作家・根本聡一郎さん
「知り合いレベルでちょっと怪しい話を聞いたとか、そういう時にしっかり通報できる環境作り、そもそも参加しない環境作りを、(通報した人への)懸賞金とか、いま『闇バイト』をやっている人を保護しますという取り組みとか、環境を整備していく必要がある」
闇バイトで集められた若者が特殊詐欺、やがてエスカレートして強盗の実行役となる犯罪が全国で相次いでいる。仙台では特殊詐欺グループが摘発され、警察では犯罪組織の実態解明が進められている。特殊詐欺の根絶とともに、金に困り追い込まれた若者の選択肢として「闇バイト」が入ることのないよう、若い世代のセーフティーネット見直しにも目を向ける必要がある。