詳報「これは殺人」遺族の悲痛と男のずさん 札幌・小4死亡事故 初公判で見えた“体調管理”
札幌市豊平区で2024年5月、小学4年生の男の子が赤信号を無視したワゴン車にはねられ死亡した事故で、過失運転致死の罪に問われている被告の男(64)の初公判が札幌地裁で開かれました。
「私自身は記憶にありませんけど、警察の聴取で現場検証をしてますし、証拠を検討した結果間違いないと思います」
過失運転致死の罪に問われている花田光夫被告(64)です。
9日に開かれた1回目の裁判で、起訴内容を認めました。
起訴状によりますと、持病を抱えていた花田被告は5月16日、服薬後に食事をとらず、意識障害に陥る可能性があることを認識していながらワゴン車を運転。
意識障害に陥って、横断歩道を渡っていた小学4年生の西田倖さんをはねて死亡させたとされています。
この事故が起きた5月16日。それはまさに登校時間帯でした。
札幌市豊平区月寒東の交差点で、近くの小学校に通う西田倖さんが青信号で横断歩道を渡っていたところ、花田被告が運転するワゴン車が赤信号を無視して交差点に進入し、倖さんをはねたのです。
倖さんは腹部を強く打ち、搬送先の病院で死亡しました。
(倖さんの母親)「いつもバタバタせかして、早く行きなさいって言って行かせることが多いんですけど、この日は結構いつもどおりの時間で普通に準備をして、玄関で『気をつけて行って来てね』って、ちゃんと見送ることができたから、それはよかったかなと思っている」
西田倖さんの両親です。
当時、身に着けていたランドセルは事故の衝撃の大きさを物語っていました。
(倖さんの父親)「(ベルトが)切れてしまっている」
「ランドセルも結構傷ついているので、本人の体を守ってくれていたのかなと思うんですけど、顔も傷ついていたし、衝撃はひどかったんだなと改めて思った」
青信号で渡っていたのに、命を奪われた息子。
見通しの良い道路でなぜ花田被告は、赤信号で止まらなかったのか。
これまでの取材で、花田被告が事故の前、相次いで別の事故を起こしていたことがわかっています。
検察によりますと花田被告は、今回の事故を起こす約250メートル手前で、車止めのポールを倒す物損事故を起こしていました。
この時点ですでに意識障害を起こしていたとみられていて、花田被告は、そのまま止まることなく走行を続け、赤信号で交差点に進入し倖さんをはねたとされています。
さらに花田被告は事故の前日にも、通勤途中に一時停止をしていた車に追突する事故を起こしていました。
明るくやんちゃな性格で、家族だけでなく多くの友達からも愛されていたという倖さん。
同級生が倖さんに書いた手紙には「笑わせてくれてありがとう」「ずっと忘れない」とあたたかいメッセージがつづられています。
(倖さん母親)「私たちも知らないことが書いてあったりして、楽しかったって、みんないっぱい書いてくれて嬉しかった」
遺影は、亡くなる約2週間前に撮った写真です。
おしゃれに興味を持ち始めていた倖さんが、髪を切った後に「仕上がりを確認したい」と言って撮影しました。
(倖さんの父親)「何か月か前から『髪型を変えたい』って本人が言って」
(倖さんの母親)「急に伸ばしたいって言いだして、これ(遺影の写真)も本当は切りに行きたくないけど、前髪伸びたから切った方がいいよって言って、少し整えてもらった感じ。満足げでした」
事故から約2か月が経ちますが、倖さんの遺骨はまだ家の中心に置かれています。
家族で話して、しばらく手元においておくことを選びました。
(倖さんの父親)「僕らも寂しいし、お骨を離してしまうのが、本人も寂しがるんじゃないかなと思うので、49日を過ぎましたけど、パパとママとお兄ちゃんたちはそばにいるよって伝えてあげたい、もう少し一緒にいようと思います」
「なぜ被告人がこのような行動を取ったのか、事実を明らかにしていく、その思いがすべてです」
9日に開かれた裁判の冒頭陳述で検察は、花田被告は以前から通院間隔が不規則だったなど、体調管理のずさんさを指摘しました。
◇検察の冒頭陳述
▼花田被告は10年ほど前から「糖尿病」を患い、内服薬やインスリンで血糖値を抑える必要があった
▼5週に1度、通院・治療をしなければいけなかったが通院は不定期で、血糖値の測定もしていなかった
▼医師からは、意識障害を引き起こす危険性があるため、インスリン注射後は食事するように伝えられていた
▼糖尿病が悪化して入院した際に、看護師からも低血糖に関する指導を受けていた
▼事故当日、起床後に体調が悪化していると感じ、インスリンを注射
▼その後、食事をせずに、出勤するため運転を開始
▼走行中、中枢神経障害を起こし、認知能力や判断能力が低下した状態で対向車線にはみ出す・ガードポールに衝突するなど暴走
▼赤信号で、スピードを落とすことなく交差点に侵入し、倖さんをはねる
▼事故前日にほかの車に追突した際、事故報告書で、花田被告は「具合が悪くて前をよく見ていなかった」と話した
また、検察によりますと、花田被告は半年ほど病院に来ないことがあり、病状が悪化して入院することがこれまでに3度あったことや、2023年10月以降、通院していなかったということです。
一方、弁護側の被告人質問で花田被告は以下のように答えました。
◇弁護側の被告人質問
▼(決められた期間を守らずに通院しなかったのはなぜ?)仕事を休みたくなかった。(会社に)入ったばかりで迷惑をかけたくなかった。
▼(事故当日は食事したか?)食事はとっていない。朝食を食べる習慣がなかった。
▼(前日の事故はなぜ起きた?)同じ感じだった。食事はとっていない。(体調は)ようやく起きて仕事に出かける感じ。体は重い感じで、のどは乾きます。体を起こすのも、ものすごく大変
▼私自身の愚かな行動でどんなことをしても、謝っても謝り切れない。私自身も悔しい。
倖さんの父親は「被害者参加制度」を使って裁判に参加し、花田被告に直接、質問しました。
◇倖さんの父親から花田被告への質問
▼(自身はどんな性格か?)優柔不断
▼(なぜ通院の期間を守らなかった?)最初は言われた通りに薬を飲むが、調子が良くなると行かなかった。誰も周りに注意する人がいなかった。
▼(勤務先から今まで私たちに謝罪がないのはなぜか)わからない
▼(謝罪の手紙を送りたいと言われたのが6月25日だった。なぜ1か月も経ったのか)すみません。わかりません。
さらに倖さんの父親は意見陳述で「花田という自身を律することすらできない自己中心的な行動をとる64歳の悪人による、無差別的な殺人だったと思っている。法律で与えられる最大の刑罰を与えていただきたい」と述べました。
最後に裁判官から「何か言いたいことは」と問われた花田被告は、「ご遺族の方、どうもすみません。頭を下げることしかできない。すみませんでした。すみませんでした。すみませんでした。これ以上言葉がでない」と、傍聴席や倖さんの父親に向かって頭を下げました。
検察は、身勝手で事故の結果も重大であるとして、禁錮4年を求刑。
一方、弁護側は「過失を認めて謝罪している」などとし、執行猶予付きの判決を求めました。
(倖さんの父親)「きょうの被告人の言動、態度から見ても、執行猶予を与えてしまうのは非常に危険だなと思っているので、矯正施設の中でしっかりと自分に向き合って、その中で更生していただくことが本人にとって1番の選択肢ではないかと考えています」
倖さんの父親は裁判後、改めて花田被告に重い刑罰を科してほしいと話しました。
裁判は即日結審し、判決は8月2日に言い渡されます。