国内唯一の工場…それは“カップアイスの木のヘラ” 全焼から復活!新たな挑戦へ 北海道津別町
キツネの顔が描かれたアイスクリーム用のスプーンやシマエナガのコーヒーマドラー。
いずれも北海道産のシラカバで作られています。
火災に遭いながらも復活した、国内唯一の工場にカメラが密着しました。
昔懐かしいお菓子がところ狭しと並ぶ駄菓子屋。
子どもたちが手に取ったのは、ヨーグルト風味の駄菓子です。
(子ども)「ちょっと酸っぱい」
(子ども)「めっちゃおいしい」
(記者)「木のヘラはどうですか?」
(子ども)「使いやすい、自然の味がする」
きょうの主役は駄菓子、ではなく小さな木のヘラです。
木と水に恵まれたオホーツクの津別町。
シラカバの木が広がります。
森の中にある「相富木材加工」。
木のヘラはここで作られています。
従業員はわずか5人。
年間4000本を超えるシラカバを加工しています。
経営するのは5代目の土田京一さんです。
(相富木材加工 土田京一さん)「(製品は)口に入れるものが多いので、(シラカバは)色が白いのと無味・無臭なので食材をすくうときとかも嫌なにおいとかもしない。加工しやすいと思います。ちょうどいい硬さ。硬すぎると剥きづらい。柔すぎても、もさついて剥きづらいので、硬さとしてもちょうどいいです」
アイスクリームやキャンデー。
木のヘラを製造する国内唯一の工場です。
まだ暗い冬の朝、工場の1日が始まります。
(相富木材加工 土田豊さん)「1番は火事を起こさないこと。そのあとは順調に時間通りに温度を上げていくこと。柔らかくしないと加工できない。やわらかくするために茹でている」
釜に薪をくべるのは弟の豊さん。
中に入っているのは、シラカバの木、
100℃近い熱湯で茹でます。
煮込んで柔らかくなったシラカバ。
冷めないうちに加工を始めます。
まずは皮を荒削り、さらにかんなで滑らかにします。
工場の中は外と同じ氷点下の寒さ。
わずか2ミリほどの薄い板に加工してプレス機へ。
金型で抜き取るとようやくヘラの形になります。
品質を左右するのは表面の滑らかさ。
絶えず刃を研ぎながら作業を続けます。
(相富木材加工 土田京一さん)「安心安全が担保されないとだめなので、結構気を使いますよね」
高い安全性が求められるのには理由があります。
札幌市内の診療所です。
口や喉をみる器具に木のヘラが使われています。
(わたなべ小児科・アレルギー科クリニック 渡辺徹院長)「外で診察をしたり隔離室で診察するときに使わせてもらっている。使い捨てで後始末が要らない。感染防止という意味合いを考えるとかなりメリットがある。非常に表面が滑らかじゃないと、傷をつけたりしたら大変なことになる。だから製造する側も神経を使って作っていると思う」
周囲を山に囲まれ、木のマチとして知られる津別町。
古くから林業が盛んなマチです。
相富木材加工は1944年に創業。
アイス用のヘラを看板商品に売り上げを伸ばしてきました。
しかし、やがて低価格の中国製品に押され、事業の縮小を余儀なくされました。
さらに7年前、木を煮る釜から火が出て火災が発生。
風が強かったことも災いし、工場は全焼しました。
(相富木材加工 土田京一さん)「みんな火事のときの爪あとなんですよね。本当に全部燃えたので、日本で唯一の会社なので、日本でここにしかない機械ばかりなので、これは直らないだろうと」
それでも6000万円の借金をして再建を決意。
国産にこだわる得意先の後押しもあり、8か月かけて建物や機械を修理しました。
(相富木材加工 土田京一さん)「海外のものはうちは無理だと言ってくれる会社もあったので、そう簡単に『はい、やめます』とはならないぞと」
生き残りをかけて新たな製品も開発中です。
(相富木材加工 土田京一さん)「どうだい、印字不良とかないかい。曲がって印字されたり。大丈夫そうだね」
レーザーを使ってアザラシやシマエナガを描いたコーヒーマドラーです。
(相富木材加工 土田京一さん)「使い捨てだから、処理に衛生面でいいのと、やっぱりぬくもりですかね。冷たさがないから、やわらかさ、あったかさ、そこじゃないですかね。これが相富木材の製品だって手にもって知ってもらいたい」
火災を乗り越え再出発した小さな工場。
安心安全な木のぬくもりを届けます。