「サケ鍋」が「豚汁」に…深刻化する秋サケの不漁 漁獲量は10年前と比べて3% 背景には…
旬の“秋サケ”が店頭に並び始めましたが、値段が少し高いなと思っている人も多いのではないでしょうか。
2024年は記録的な不漁が予測されていて、すでに影響が広がっています。
なぜ、秋サケは獲れないのでしょうか。
サケまつりなのに「豚汁」 名物に異変
威勢のいい掛け声とともに運ばれてきたのは、サーモンなどがたっぷりのった「鮭の遡上丼」。
総重量は1.2キロ!
こちらの男性2人はぺろりと平らげていました。
(記者)「サケは好きですか?」
(千歳から来た人)「もう大好きです!サケが旬ということで食べたくて」
(東京から来た人)「脂がのっていて本当においしいなって言いながら、みんなで食べています」
北海道千歳市の道の駅・サーモンパークで開かれた秋サケのイベント。
旬のイクラ丼が次々と売れていましたが、2024年はある異変が…
(山﨑記者)「会場には、さまざまな出店が立ち並んでいます。こちらでは名物のサケ鍋が提供されるはずなのですが…豚汁の紙が貼られています」
獲れたての秋サケをふんだんに使ったイベントの名物「サケ鍋」。
しかしこの日、鍋に入れていたのは…
なんと「豚肉」です。
(記者)「豚肉で作られているんですね?」
(スタッフ)「そう、サケが獲れなくて。サケまつりなのにね」
イベント2日目から急遽、豚汁に変更しました。
その理由は、秋サケの不漁です。
半分以下しか確保できず、訪れた人もちょっとがっかりです。
(豚汁を購入した人)「サケ鍋を食べられるかなと思ったんですけど、残念です」
(豚汁を購入した人)「(サケ鍋)目当てに来たんですけど、豚汁もおいしいです」
ことしの秋サケ 平成以降で最も少ない予測
イベント会場のそばを流れる千歳川。
毎年9月ごろに遡上するサケを水車で捕獲していますが…
サケの姿がほとんど見当たりません。
近くの水族館を訪ねてみるとー
(千歳水族館 菊池基弘館長)「千歳川の中をそのまま見られる窓になっている。9月のサケはどんどん減っていて、かなり例年に比べると少ない状況」
これは5年前に撮影された千歳川の様子です。
窓を埋め尽くすほど大量のサケがいましたがー
2024年はウグイなどに混じってわずか数匹。
水車での捕獲数も過去2番目に少ないということです。
(千歳水族館 菊池基弘館長)「サケが好む水温は大体14℃以下と言われているんですが、いまの千歳川の水温でようやく20℃を切ったか切らないかぐらい。水温の高い状態が続くのは、サケの遡上を制限する要因になっているかもしれない」
これは北海道にやって来る秋サケの推移です。
2005年の5000万匹をピークに減少傾向となり、2024年は平成以降で最も少ない1700万匹と予測されています。
温暖化による海水温の上昇などが要因とみられています。
秋サケ漁が始まるも…獲れたのは11匹
9月から秋サケ漁が始まった日高のえりも町です。
沖に仕掛けた定置網を引き揚げると…
かかっていたのは、ほとんどがブリ。
中にはクロマグロもー
(えりも鮭定置網部会 佐藤勝 部会長)「200キロクラスのマグロもいるよ、でももう獲れない。(漁獲枠の)上限いっちゃったから。だから毎日海に投げている」
この日、獲れたサケはわずか11匹。
えりも漁協の漁獲量は、ことし9月20日時点で約39トン、10年前の同じ時期と比べて3%と極端に落ち込んでいます。
(えりも鮭定置網部会 佐藤勝 部会長)「最低の漁だって予想は出ているけど、いまの段階では多分それ以下だな。これから期待するしかない」
サケの不漁は、地元の加工場にも影響を及ぼしています。
(マルデン 傳法貴司社長)「サケのラインなんだけど、いまサケがないもんだから、ライン動いていない。(ことし)まだ一回も動いていない」
この時期はフル操業が続いているはずですが、機械はまったく動いていません。
代わりに従業員が加工していたのは…
ここでも、ブリです。
(マルデン 傳法貴司社長)「ブリは5~6年前からだね。ブリが獲れるようになったらサケが獲れなくなった。サケを主体に考えていたけど、獲れないからいろいろな魚を加工して工場を稼働させていきたい」
道民の食卓にも影響 スーパーは前年比3割高
私たちの食卓にも影響がー
こちらのスーパーでは、秋サケが100グラム270円。
3切れ入って800円と、2023年に比べ3割ほど高くなっています。
特売品の筋子も、通常の日は2023年より2~3割ほど高いといいます。
客も目をとめますが、なかなか手が伸びません。
(購入しなかった人)「ちょっと高めかな~、やっぱり家族分買うとなるとかかるなって感じ」
こちらの男性は悩んだ末に…
(購入した人)「はらこ飯作ってみるわ」
サケの切り身と筋子を買い物かごに入れました。
(購入した人)「ことし初めて買った。セットで買わないと」
スーパーでは消費者のサケ離れを懸念し、骨を抜いたり小さな切り身にして価格を抑えたり、工夫して販売しています。
(北海市場屯田店 斉藤亮彦店長)「シーズンを通しての平均的には昨年よりは1~2割は高くなると思うんですけど、10月に入るともう少し水温が下がってサケの量も増えると思いますので、値段ももう少し落ち着くのかなと」
サケはなぜ減ったのか。
「海水温」だけではない不漁の要因
北海道大学の帰山雅秀名誉教授はある要因を指摘します。
(北海道大学 帰山雅秀名誉教授)「一番サケの回帰に影響を及ぼしているのは、ベーリング海でのサケ同士の競争。摂餌競争に負けていると言っても過言ではない」
日本の川で生まれたサケは、海に出たあと北太平洋やベーリング海を回遊して成長します。
ベーリング海では2010年以降、温暖化で海水温が上昇し、カラフトマスが増加。
サケはエサをとる競争に負けて、減少しているとみられています。
さらに、夏場のオホーツク海における海水温の上昇も影響していると分かりました。
水色がサケの生息に適した水温のエリアですが…
(北海道大学 帰山雅秀名誉教授)「2020年代以降は端的にエリアが狭くなっている。オホーツク海全体で今まで幼魚の生活エリアとして利用できたのが、北の沿岸に限定されるようになってきた。温暖化の影響がかなり深刻なところまできたのかなと感じています」
深刻化する秋サケの不漁。
道によりますと、一部の地域で水揚げ量が回復しつつあります。
しかし、全体の漁獲量は2023年の4割ほどにとどまっていて、その影響はしばらく続きそうです。