【回顧2024】引き取り手なく…全国で急増する無縁遺体
団塊世代が後期高齢者となる2025年問題が間近に迫る中、遺族が引き取りを拒否するケースや、遺族がいるのに勝手に火葬されるなど、「無縁遺骨」の前段階としての「無縁遺体」の問題が徐々に顕在化してきました。あなたは、人生の最期、どうありたいですかー
■身寄りなく葬儀を待ち続ける遺体
今年7月、名古屋市内の斎場では、身寄りのない女性の葬儀が行われていました。参列者は、いませんでした。
(「セレモニー白壁」後藤雅夫社長)
「お父さんお母さんが先に亡くなられて、兄弟なしの天涯孤独の方だった」
斎場の奥にある安置所では、10体の遺体が葬儀を待っていました。
(後藤社長)
「こういうふうに三段、空いているのは一個だけですね」
(Q:真ん中の方は5月から?)
「5月からですね。行政の連絡待ちですね。親族と連絡を取っている最中じゃないですか。この方はね、今月いっぱいまでの返事を待っているみたいですから、今月中に返事がもうなかったら、来月、強制的に(葬儀を)やりますね」
年々増え続ける「無縁遺体」を、後藤社長は10年以上にわたり、見送りつづけています。
■「無縁遺体」に対する明確なルールはなし…苦悩する自治体
こうした「無縁遺体」の火葬や埋葬などにかかる費用は自治体が負担します。しかし、対応についての明確なルールはなく、自治体に委ねられている現実があります。
『ウェークアップ』は、実態を把握するために、政令市や中核市、東京23区にアンケートを実施。59の自治体から回答があり、「無縁遺体」を取り扱った件数は2022年度で約1万3千件と、過去5年間で1.3倍に増えていました。
「無縁遺体」が生じる理由として多く挙げられたのは、
▼「ほぼ絶縁状態・高齢・経済的な理由で兄弟や子から引き取りを断られる」
▼「火葬や遺骨の引き取りは拒否しながら、遺留金の相続を求める」
といった、引き取りをめぐる遺族側とのトラブルでした。
■「どうしてそんなことが起こりえるのか」親族がいながらも“勝手に”火葬されるケースも…
そうした中、親族がいるにもかかわらず、「無縁遺体」として取り違えられるケースも起きています。
(友人を亡くした堀和生さん)
「そんなことがありえるのかと。家族が全然知らないうちに相談もなくですね。どうしてそんなことが起こり得るのかと。ありえんだろう」
歴史学者だった今西一さんは北海道の大学を定年退職し、京都市内で一人暮らしをしていましたが、2022年1月に急性心筋梗塞を発症。救急車で搬送され、息を引き取りました。
大学時代に知り合って以降、50年来の友人だったという堀さんは、今西さんと連絡が取れないことに違和感を覚え、今西さんの弟夫婦に報告。共に警察や病院などを訪ね歩き、3か月後になって、亡くなっていたことを知りました。
堀さんが憤るのは、行政による親族調査の仕組みです。
今西さんの遺体を引き受けた京都市は、国のガイドラインに従い、京都市内に限定して戸籍調査を実施。しかし、弟を含む親族の戸籍情報は京都市外にあったためたどりつかずに、今西さんを「無縁遺体」として火葬しました。
(友人を亡くした堀和生さん)
「葬送という手続きが行われていないために、ものすごい混乱が起こるんですね。心も含めてですね。やっぱり弟さん夫婦もおっしゃってましたけれど、お見送りをしたかった、と」
「無縁遺体」をめぐる問題を受け京都市も対策を講じました。親族調査などに係るマニュアルを市独自に作成し、調査対象を全国に広げたうえで、兄弟のみならず、甥や姪にまでさかのぼって調べることを明記しました。ただ、判断をあまり先延ばしにできない現状は、他にもあります。
(京都市の担当者)
「保管場所っていうのも、一方で一つの問題ではあるかとは思います。保管いただいている時間が長ければ長いほど経費というのがかさんでくる」
また、この担当者の部署の名称は、「地域力推進室」。「無縁遺体」を専門に取り扱う部署ではありません。
(京都市担当者)
「『総務』という部署ですので、労務の関係や選挙もありますし、あと、いろいろな地域のイベントごとの仕事もやっておりますので…」
統一的なルールがない中で、自治体は日々対応に追われています。
■「十分に生きた証を最後に示すーそれが死」人生最後にどうありたい?
2025年には団塊世代のすべてが後期高齢者となる中、顕在化してきた「無縁遺体」の問題。事前に自分や家族の最後について考える「終活」が広がっています。
8月末に東京都内で開かれた、日本最大級の終活イベントには、2日間で1万3千人が訪れました。
(来場した70代の女性)
「今のところ全然そんなこと(終活を)考えてないんですけど、でもこういうところに来ると、やっぱりちょっと考えてから生活していった方がいいかなという気はします」
来場者の中に、自分たちの入るお墓の商談をする夫婦の姿がありました。
(来場した夫婦)
「管理費って年間ですよね。私の口座から下ろすにしても、もし死んでしまったら…」
(ブース担当者)
「その心配はありますよね。今日お申し込みされますか?」
(来場した夫婦)
「その予定でいます」
この夫婦が納骨する場所として選んだのは、千葉県にある”古墳型”の共同墓地です。
(来場した夫婦)
「子どもが千葉に住んでいるので、ちょっと興味がわきまして」
(Q:息子さんにはどう説明する?)
「ちょっとびっくりするかもしれないですけど、賛成してくれると思います」
さらに、来場者の注目を集めたのが、今年で70歳になる石田純一さんの「生前葬」でした。
(石田純一さん)
「ある程度元気なうちに動けるうちにお会いできて、いろんなお礼や人生楽しかったね、いろんな思い出があるねっていう話ができることが生前葬のよさなのかなと思います。一人一人が全員が自分に歴史があるわけで、生きてきた証しがあるわけで、十分存分に生きたという証し、それを最後に示す僕は大きなチャレンジだと、それが死だと思っております。」
■<取材後記>2050年 5世帯に1世帯が65歳以上の単独世帯に
厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が11月に公表した調査によると、2050年には大都市圏を中心とした全国3分の2の都道府県で、5世帯に1世帯が65歳以上の「単独世帯」になるといいます。さらに全年齢では44.3%の世帯が「単独世帯」になるという予測がなされています。こうした現状を鑑みれば、実態把握とルール作りが喫緊の課題であるのは言うまでもありません。
無縁遺体の葬儀を10年以上行っている後藤社長は、その理由について次のように語っていました。
(「セレモニー白壁」後藤雅夫社長)
「人間、生きているときはいろんなことがある。だけど死んじゃったらね、みんな平等だと思うんですよ。亡くなった時点でね。だから、最後はきちっと、できることだけして、送ってあげようと」
望んで「無縁」となった人や、そうでない人、そしてまだ縁がある人のいずれの立場においても、自らの死について日ごろから考える機会を持ち、周囲も含めて納得する最期を迎えるきっかけとなってほしいと思います。