【何が…】斎藤知事をめぐるパワハラ疑惑、公益通報、不信任、SNS選挙と再選…激動の兵庫県政の裏側 「公選法違反」「百条委員会」「情報流出疑惑」2025年も続く余波
兵庫県の元幹部職員による“パワハラ”や“物品受領”などの疑惑の告発から約9か月―。斎藤元彦知事にとって、兵庫県にとって、2024年はまさに激動の1年となった。
全会一致による不信任決議の可決を受け、出直し選挙に出馬し、SNSでの盛り上がりに後押しされ再選を果たしたもの、PR会社社長の投稿をめぐり、公職選挙法違反の疑惑が噴出。さらには、2025年2月には百条委員会、3月には弁護士で構成される第三者委員会の調査結果が公表される予定だ。
いまだ収束の気配が見えない一連の問題はいつ決着するのかー。2024年の騒動の舞台裏と2025年の展望を紐解く。
■現役県議が激白「調査結果を待つなんて言えなかった」 風向きを変えた斎藤知事の発言とは―
元幹部職員の告発文書をめぐり、疑惑を調査する百条委員会は当初、年内に報告書をまとめる方針を示していた。しかし、証人尋問が続いていた9月19日、斎藤知事への不信任案が全会一致で可決された。百条委員会の調査が道半ばにも関わらず、なぜ斎藤知事に“NO”を突きつける決断がなされたのか―。
兵庫県議の一人は、読売テレビの取材にこう答えた。
「当時、県庁には『議会は仕事しろ』『なぜ知事を続けさせているんだ』という抗議の電話が一日に何百件も殺到していた。多くの県民が知事の辞職を求めていて、一刻も早く不信任案を出さざるを得ない状況だった。調査結果を待つなんて言えなかった」
また、別の県議のもとには、県職員から「(1月17日に)阪神淡路大震災から30年を迎えるのにあたり、天皇皇后両陛下が兵庫県を訪れるのに、疑惑を抱えた知事では会わせられない」という意見が届いていたという。
それでも、県議らの中では「議会自ら設置した百条委員会の調査結果を待つべきだ」という意見が根強かったという。そんな中、不信任案の提出に風向きが大きく変わったのは、9月6日の百条委員会での斎藤知事の発言だったという。
百条委の委員
「道義的責任を感じているか?」
斎藤知事
「道義的責任が何かわからないのでコメントできない」
県議の一人はこの発言を振り返り、「あの発言は全国で大きくニュースになり、県のトップたる知事の責任感のなさに、不信任案“反対派”も賛成せざるを得なくなった」と振り返る。
結果、県議会ではこの発言から2週間あまりで不信任案が提出され、全会一致で可決された。
■“全会一致”不信任のはずが…選挙戦で斎藤知事を支援「葛藤はあったが…知事の政策にも共感」
県議員の全員が斎藤知事に“NO”を突きつけたにもかかわらず、その2か月足らず後に実施された知事選で、一部議員は選挙期間中、応援に駆けつけ斎藤知事を支援した。
「(不信任決議への賛成に)もちろん葛藤はあったが、会派として決めたことなので、逆らうことはできなかった。自分自身は知事がパワハラをしたとは考えておらず、知事の政策にも共感できた」
斎藤知事を支援した「維新」会派の県議は、取材に対しこのように語った。維新県議団は、日本維新の会に所属していた清水貴之参院議員(当時)に出馬要請し、支援を決めていたため、斎藤氏を応援するのは“造反”ともいえる行動だ。
維新県議団の幹部は、「みんなで清水氏を支援しようと決めていたのだから、彼も支援するべきだった」とため息を漏らした一方で、「清水氏への支援は党議拘束をかけていなかったので、県議団で処分とはならない。また、彼らに今後も推薦を出すかどうかは党本部の問題なので分からない」と語った。
■公益通報をめぐり専門家「独裁者が反対者を粛清するかのような構図」 斎藤知事は違法性を否定
出直し選挙で再選を果たした斎藤知事は、「県民の負託に応える」と繰り返すが、その道が順風なものとは言い難い。その一つが、今も続く「百条委員会」の調査で、とりわけ『公益通報』をめぐる対応の是非は、大きな焦点だ。
斎藤知事側は3月に告発文書が報道機関などに送付されて以降、作成者の特定や内容の根拠などを調査した上で、文書の“誹謗中傷性”が高いと判断。「幹部や一部職員を誹謗中傷する文書を作成・配布し、県政への信用を著しく損なわせた」「勤務時間中に公用PCを使用して業務と関係ない私的な文書を多数作成した」などとして、元幹部職員に対し、停職3か月の懲戒処分を出した。元幹部職員は7月に死亡し、自殺とみられている。
この一連の対応について検証するため、百条委員会ではこれまで公益通報制度の専門家として弁護士や大学教授らを招致していて、9月6日の委員会では上智大学の奥山俊宏教授は「公益通報者保護法に違反する」と指摘し、「独裁者が反対者を粛清するかのような陰惨 な構図を描いてしまった」と断罪した。
12月25日に開かれた百条委員会でも、3人目となる専門家として結城大輔弁護士が招致され、元幹部職員を公益通報制度の保護対象とするべきだったかどうかについて、「(公益通報制度では)“通報者の不利益になるような取り扱いはしない”というのが前提。今回の県の対応は、告発者に不利益な扱いをしたということになるのではないか」として、県の対応などに疑問を呈した。
一方、同じ日に行われた“最後の証人尋問”で、斎藤知事は告発文書には『真実相当性』がなく、内部調査の段階で法的見解はもっていなかったとしたものの、結果として、公益通報者保護法が定める保護要件を満たしていないという認識を示し、尋問終了後、「法的にも適切だったと認識している」と改めて違法性を否定した。
百条委員会は今後、調査の“結論”を出す作業に入り、1月27日に報告書の確認が行われ、早ければ2月にも報告書をまとめる予定だ。さらに、百条委員会とは別に、外部の有識者を交えた「第三者委員会」の調査も続いている。
■2025年も続く余波…知事選でのSNS運用めぐり公職選挙法違反の刑事告発受理 警察・検察が捜査へ
斎藤知事をめぐる問題は他にもまだある。
11月に行われた知事選では、斎藤陣営が兵庫県内のPR会社に対して「ポスター制作費」などの名目で支払われた約70万円の支払いについて、公職選挙法に抵触する可能性が指摘されている。
きっかけはPR会社代表の女性が選挙後にネット上で公開したブログ。その中で代表は、斎藤陣営のキャッチコピーなどを提案し、SNS上で拡散させたことを成果として報告。「私が監修者として運用戦略立案、アカウントの立ち上げなど責任をもって行い、信頼できる少数精鋭のチームで協力しながら運用してきました」などと記載していたが、総務省は選挙運動を行った人物に、対価として報酬を支払った場合、買収罪が適用される可能性を指摘している。
斎藤知事の代理人弁護士は、「SNSの運用を依頼したり、広報全般を任せたりしたというのは事実ではない」と説明。街頭演説の撮影やアップロードを行っていたことについては「PR会社の活動としてでなく、個人がボランティアで行ったもの」との考えを示し、知事本人も投稿について「発信したことは後で知った」「事前に聞いていなかったので、若干のとまどいがある」などと語り、「公職選挙法違反にはあたらない」と違法性の認識を否定している。
これに対し、神戸学院大学の上脇博之教授と郷原信郎弁護士は、PR会社への支払いはSNSでの選挙運動を行ってもらう報酬であり、公職選挙法で禁止されている「買収」にあたるとして、斎藤知事とPR会社の代表を刑事告発した。
郷原弁護士は「SNS戦略を業としている会社が9月に業務の提案をしていることは認めている。この提案を断り、ボランティアでやるというのは疑問」と指摘。上脇教授は「投稿を見て、どう考えても選挙に主体的、裁量のある形でSNS戦略を行ったのは明らか。こんなことを許してしまったら全国に横行してしまう。強制捜査を含めて刑事事件として立件してほしい」と語っている。
PR会社の代表は、これまで取材に応じることはなく、捜査関係者によると、兵庫県警と神戸地検が12月16日付で告発状を受理したという。今後、知事本人や関係者から当時の状況や認識についての聴取などが行われる可能性があり、もし捜査機関が強制捜査に踏み切ることになれば、斎藤県政への影響は避けられない。
■死亡した元幹部職員の私的情報が流出した疑いも…年明けに第三者委員会設置へ
残されている問題は、斎藤知事に関してのものだけではない。
県人事課の調査では、知事を告発した元幹部職員の回収された公用パソコンには、告発とは無関係の私的な情報が含まれていたとみられている。この内容について、元幹部職員は死亡前、「プライバシーに配慮してほしい」などと百条委員会に訴えていた。この私的な情報について、知事の側近で、元県民局長の内部調査を所管していた前総務部長が情報を外部に漏らした疑いが浮上している。
10月に行われた証人尋問で、前総務部長は私的な情報が記載された紙を個人的に所持していたことは認めたものの、外部に流出したことについては「証言が手がかりになって、守秘義務違反の嫌疑を受ける可能性があるので、証言は控えさせていただきたい」と答弁を拒否した。
一方で、百条委員会の聞き取りに対し、複数の県議が「前総務部長から見せられた」などと証言していたことが分かった。
斎藤知事は、12月25日の証人尋問で、前総務部長本人から「(漏洩を)やっていない」と聞いたと証言したが、一方で、26日に行われた2024年最後の定例会見で、年明けの早い段階で「第三者委員会」を設置し、経緯を調査すると表明した。
この1年の激動を、兵庫県民も、県職員も、そして斎藤知事本人も、誰が予想していただろうか―。予期せぬ形で2期目に突入した斎藤県政は、知事に投票した県民110万人が見守る中、騒動の余波は2025年も続きそうだ。