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【ナゼ】『もう関わりたくない…』知事選翌日に辞職した元県議死亡 SNS上で牙を向くデマと誹謗中傷「真実よりも6倍拡散」 “匿名”加害者の正体とは―

2025年3月29日 0:00
【ナゼ】『もう関わりたくない…』知事選翌日に辞職した元県議死亡 SNS上で牙を向くデマと誹謗中傷「真実よりも6倍拡散」 “匿名”加害者の正体とは―
当選した日の斎藤知事にスマホを向ける群衆

 X(旧ツイッター)やTikTok、YouTubeなどの「ソーシャルメディア」を誰もが当たり前のように使う中、誹謗中傷やデマの拡散が課題となっている。兵庫県では、元県民局長が斎藤知事の疑惑を告発した問題をめぐり、県議が亡くなる事態にまで発展した。便利なツールの裏側で、一体、何が起きているのだろうか。

■斎藤知事再選の裏側で…疑惑追及の元委員「家族が怖がって、耐えられへん」政界引退

 2024年3月、兵庫県の元西播磨県民局長が作成し、県議やマスコミなどに配布した告発文には、斎藤知事などに関する7つの疑惑が記されていた。一連の疑惑を調査する兵庫県議会の百条委員会が立ち上がり、委員たちが知事本人への証人尋問などを行ってきた。

 百条委員会の結論を待たずに、去年11月に行われた兵庫県知事選では、投票率が前回選挙を15ポイント近く上回る注目度の中、斎藤知事が111万票もの得票で再選。斎藤知事は当選後の挨拶で、「今回はSNSを通じていろんな広がり、SNSのプラスの面をすごく感じた」と述べた。

 兵庫県に熱狂と悲嘆が渦巻いた翌日、百条委員会の委員を務めていた元兵庫県議の竹内英明さんが辞職。静かに県庁を去った。

 辞職当日、読売テレビの取材に、竹内さんはこう語っていた。

「家族が怖がってもうあかん。耐えられへん。政界引退する。もう関わりたくない」

■SNS上での匿名攻撃、N党立花氏「自宅に突撃する」と宣言

 選挙期間中、斎藤知事の支援者などが、証人尋問で斎藤知事を追及していた竹内さんを匿名で攻撃する投稿がSNS上で相次ぎ、誹謗中傷が過熱した。

 関係者によると、いわゆる“二馬力”で斎藤知事の応援を行っていたNHK党の立花孝志候補が街頭演説で、「竹内さんの自宅に突撃する」と宣言したことで、竹内さんの家族の生活にも影響が出たという。

 竹内さんが所属していた立憲系会派の「ひょうご県民連合」上野英一幹事長は、竹内さんの精神状態が悪くなっていくのを感じていたという。

 ひょうご県民連合 上野英一幹事長
「竹内君はどちらかといえば、バンカラで結構“ずけずけ”ものを言うたりするタイプ。それがもう怯えている。あれだけのしっかりした男が、何でそんな状況になるのか、それが不思議で。自分が懇意にしている支持者の方からも、『この真相はどうなんや』っていうふうに聞かれて(SNS上での投稿を)見せられたんだろう。自分が今までやってきたのがなんやったんやということで、自信が全部崩れていったんじゃないか」

 知事選から約2か月後の2025年1月、竹内さんは死亡した。自殺とみられている。

■嫌がらせのはがきに頼んでいない商品…留守番電話に「お前ええ加減にせえよボケ」

 百条委員会の委員を務めていた無所属の丸尾牧県議も、誹謗中傷の被害者だ。SNS上での誹謗中傷がエスカレートし、嫌がらせのはがきや、頼んでいない商品が届いたこともあったという。

 丸尾牧県議
「しんどいですね。精神的には。ただ、一つ一つ解決していくしかないので」

 事務所の電話には、昼夜問わず迷惑電話が鳴り、残された留守番電話には、怒りに任せて怒鳴り散らす、聞くに堪えないメッセージが残されていた。

「兵庫県の人はみんな思っとうから。丸尾牧はどっか行った方がええなあ」
「お前ええ加減にせえよボケほんまに。ちゃんとせんかい、このくそボケが、ほんまに」
「おい!お前、無責任すぎるだろうがよ!」

 不審な人物が事務所に来たため、警察を呼んだこともあったという。近所に迷惑が掛かることを懸念し、事務所の看板は外し、防犯カメラを設置した。

 丸尾牧県議
「(SNS上で)叩かれ続けるという、そこは戸惑いでしかないですし、逃げ道がないんじゃないかなと。竹内さんもそんなところから絶望を感じていたのかもしれません」

■誹謗中傷はなぜ始まるのか…専門家「デマの方が真実より6倍も拡散」

 誹謗中傷が始まるきっかけの一つは、「デマ情報の拡散」だ。

 ITジャーナリストの高橋暁子さんによると、デマは真実の情報よりも拡散されやすいという。高橋さんは「デマというのはショッキングで目新しくて、人がつい飛びついてシェアしたくなるような内容のことが多い。実際に様々な調査で、デマの方が真実よりも6倍も拡散されることが分かっている。何百万回も再生された動画がデマだということも多い」と指摘する。

 YouTubeで「アンケート結果を捏造した」「齋藤知事のおねだり疑惑を捏造した」などのデマ動画が拡散された丸尾県議には、それを信じた人からの誹謗中傷が相次ぐようになったという。

 また、竹内さんの死亡直後には、NHK党の立花孝志氏がSNSなどで、「竹内元県議が警察に逮捕される予定だった」とした上で、「逮捕を苦に命を絶った」などと発信した。

 これに対し、兵庫県警の村井紀之本部長は、「(竹内元県議を)被疑者として任意の調べをしたことはありません、まして逮捕するという話は全くございません。明白な虚偽がSNSで拡散されているのは極めて遺憾だと受け止めております」と県議会で明確に否定した。

 県警のトップである本部長が、公の場で捜査の状況について言及するのは極めて異例で、改めてSNSの影響力の大きさが明るみになった。その後、立花氏は投稿を削除し、「誤り」を認め謝罪の意を示した。

 なぜ人々は、デマやフェイクニュースを信じ、誹謗中傷に及んでしまうのか―。

 国際大学 山口真一准教授
「例えばある人を攻撃しているような内容を見ていると、どんどんこの人こういう投稿好きなんだなというふうに、SNSの仕組みが判断して、どんどん嗜好に合わせた投稿を見せてくる。そうすると自分もいつの間にか“そっちの人間”になっていて、『この人攻撃しなきゃ』となり、また誹謗中傷が投稿されるような、負のスパイラルというものも起こっている」

 山口准教授によると、SNSでは、自分と似た関心の情報ばかり表示されるシステムになっていて、反対意見は遮断される。その結果、自分の意見は「世の中全員が思っている、正しいことだ」と誤解してしまう現象が起こるという。

 山口准教授は「これは気が付けないところが恐ろしい。私も皆さんも、SNSを使っていたら全員この状況に陥っている」と警鐘を鳴らす。

■被害者が語る「死ななきゃだめだと思いました」 加害者の正体は『普通の人』

 誹謗中傷をしてしまう人は、一体どんな人なのだろうか―。取材班は、自身が受けた誹謗中傷を行った加害者に直接会ったという女性に話を聞いた。

 群馬県伊勢崎市で僧侶として活動する髙橋美清さんは、以前はフリーアナウンサー「髙橋しげみ」としてテレビ番組のリポーターなどの仕事をしていた。

 美清さんが誹謗中傷を受けるきっかけになったのは10年前。仕事で知り合った男性から、ストーカーの被害を受けた。その後、男性は逮捕されたが、テレビや新聞で報道されたことから、ネット上では被害者が美清さんだとすぐに特定されたという。

 その一か月後、男性が突然死亡。不慮の事故だったものの、まるで美清さんが男性を死に追いやったかのような憶測が拡散した。

 当時、あるサイトには「自殺させたきっかけを作った人物でもある」「金銭トラブルがあった」などデマが書き込まれ、掲示板には「首吊れ!」「まだ首吊ってないで生きているの?」などの書き込みが相次いだ。深夜に知らないアカウントから「ヒトヒトリシニオイヤッテイマドンナキモチ?」とメッセージが届いたこともあった。

 美清さんはうつ病を発症し、薬を大量に飲んだり、リストカットをしたりするなど自殺未遂を繰り返すようになるまで追い詰められた。当時の自身の状況について「絶対に死ななきゃだめだと思いました」と振り返る。

 被害を受け始めてから2年。祖父が僧侶だったこともあり、出家を決めた。

 その後、自らを苦しめた加害者はどんな人なのか、関心は途切れず、実際に会う決心をした。

 会うことができたのは7人。30~40代の男性だった。会社員、国の機関で働く人、無職の人など職業や立場は様々だが、話してみると“ごく普通の人”だったという。

 髙橋美清さん
「普通というと変ですけど、会社にお勤めになってて、一般の社会人ですね。皆さんそんなに悪気が無いんです。何かしてやろうとかそういうことじゃなくて、人が言っていたから一緒に書いたとか、悪いやつだと思ったから裁いてやろうと思ったとか、こちら側が考えているほど重たい気持ちじゃないんですよね」

 美清さんは、「意見と中傷は違うということを分かってほしい。言わなくていいことは言わない、書かなくていいことは書かない。そういう社会にならないかなと思います」と訴える。

■専門家「誹謗中傷はもっと増えていく」 相談窓口も…「一人で抱えよりも迅速に対応」

 Yahooなどのインターネット事業者で構成される、一般社団法人セーファーインターネット協会が運営する「誹謗中傷ホットライン」という相談窓口がある。事務局長の中嶋辰弥さんは「何か特別な方だけが誹謗中傷の被害に遭うということではない」と指摘する。

「誹謗中傷ホットライン」には、1年に3000件ほどの相談が寄せられるという。学校でのトラブルがネット上の誹謗中傷につながったケースや、飲食店などの口コミに事実無根の誹謗中傷が書かれるケースが多いという。通報された投稿が協会のガイドラインに抵触する内容であれば、プラットフォーム側に削除を警告するメールを送信する。

 セーファーインターネット協会 中嶋辰弥事務局長
「誹謗中傷は表現行為に関わる問題なので、対応することに対して賛否両論色んな意見があるかと思うが、一人で抱えるよりも迅速に対応していくことが大事。私たちのホットラインを活用していただいて早く対処していただきたい」

 ただ、誹謗中傷ホットラインには投稿を削除させる強制力はなく、あくまで「お願い」に留まるため、2024年の削除率は約半分にとどまる。

 山口准教授は、今後のSNSを取り巻く動きについて「誹謗中傷は誰もが自由に発信できる言論空間においては、どうしても止めることができないというものでもあり、もっと増えていくということがしばらく続くかなと思っています。ですから、SNS上で見えているものというのは、あくまでもみんなの意見ではなく『切り取られた一部の意見』で、しかも、それは偏っているということを理解したうえでSNSを見るということが大事」だと指摘する。

 世界中の人とつながることができるSNS―。一方で、これ以上、命を落とす人が現れないためにも、言葉一つで加害者になることを忘れてはならない。

(3月21日放送「かんさい情報ネットten.」より)

最終更新日:2025年3月29日 0:00
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