【特集】見えない障がいと生きていく 25歳2児の母が伝えたいこと
病と障がいの経験を糧にシンガーソングライターとして活動する、秋田市の女性がいます。
「歌」と「言葉」を通して障がいへの理解を呼びかける女性の思いを取材しました。
大館市で生まれ育ち、今は秋田市で暮らしている、大川ちさとさん、25歳。
2人の子どもの母親です。
大川さんには、「目に見えない」とされている障がいがあります。
「記憶力」や「認知力」など脳の働きが低下する、「高次・脳機能障害」です。
大川ちさとさん
「免許は実際とってもいいって言われました。でもあとは自己責任ですよっていう感じですね。なのでちょっと怖いなみたいな。やっぱり覚えられないのもあるので。自分の中で怖いなっていうので…」
子どものころに患ったがんの4年近くにわたる闘病の影響で、「高次・脳機能障害」となった大川さん。
縦書きの文章を読んだり、ものを覚えたりすることが得意ではありません。
普段の生活でも、育児でも、忘れないための様々な工夫をしています。
大川ちさとさん
「(夫と)スケジュール共有したりとか、下の子の病院やっぱり忘れちゃいけないなっていうので、下の子の病院が、心臓の病気があるので」
どんなに気をつけていても、忘れてしまうこともあります。
大川さんは、「高次・脳機能障害」と診断されてから、自分の障がいについて知ってほしいと、シンガーソングライターとして活動を続けています。
県の内外のイベントなどで、「歌」で思いを届けてきました。
♪歌詞
「小3でいきなりがん宣告 せっかく治ったと思ったのに高校になってまさかの障がい発覚」
8歳のころから入院していた大川さん。
初めのうちは、自身の病気の名前を知らされていませんでした。
関向良子アナウンサー
「その写真はなんですか?」
大川さん
「私、昔から『ちゃお』っていう雑誌を読むのが好きで、もう毎月楽しみにしていて、その中のキャラクターの子が同じ病気、白血病になって、それ見てもしかして私も白血病なんじゃないかなっていうので」
小学生向けのまんが雑誌で30年以上連載されている、「こっちむいて!みいこ」。
その話の中に、大川さんと同じように「薬の副作用で髪の毛が抜ける」キャラクターが登場しました。
このとき、自分が血液のがん・白血病だと気が付きました。
思わぬ形で病名を知った大川さんを心配して、叔母がすぐに作者の「おのえりこ」さんに手紙を書きました。
「病気のキャラクターを死なせないでほしい」。
自分と同じ病気と闘うキャラクターが元気になれば、大川さんの励みになると考えたのです。
すると、作者のおのさんから返事が届きました。
「決して悲しい結末にはなっていません。一日も早く元気になれるように祈っています」
おのさんからの返事は、幼かった大川さんと、家族を励ましました。
漫画のキャラクターと同じように、大川さんもつらい治療を乗り越えていきました。
「障がいについて話してほしい」と講演会の依頼も届くようになった大川さん。
自分の障がいをありのままの「言葉」で伝えます。
講演会当日。
会場は、大館市にある寺です。
大川さんを幼いころから知る住職が「お盆に、地域の人に大川さんの話を聞いてほしい」と企画しました。
大川さんは、「高次・脳機能障害」だと分かった時のことを伝えました。
大川さん
「大変なことがあっても、できないことがあっても、それはさぼっている、それができないのがきっと演技をしているだろうというふうに言われることがすごく多かった。学生時代に結構多かったですね。いろいろ先生に怒られるとか問題行動が多かったんですけど、うちの母は山に行くようになりましたね。登山ガイドをさせてもらっていて、現実逃避をして、うまく帳尻を合わせていました。そのあと障害が分かったから、私も母もすごくほっとしました」
大川さんが伝えたかったのは、「周囲の理解の必要性」と「治療を乗り越える勇気をくれた支えへの感謝」です。
大川さん
「名前入りで、いまでもお家に飾ってあります。こういうのがあって、私は治療を頑張る勇気を本当にたくさんもらいました。自分も元気になれるんだって思って、つらい治療も頑張りました。障害が分かってから、誰かを頼ってもいいって分かって、すごく救われました。いまは本当に家族だったりとか周りの人たちだったりとかに本当にいろんな人に支えてもらって、生活することができています。見える障がいを持つ人もいれば、見えない障がいを持つ人もいます」
経験したからこそ伝えることができる話。
同じように障がいがある人のためにも、大川さんはこれからも活動を続けます。