【解説】傍聴した若杉弁護士に聞く 3つのポイント ①恋愛感情・恨みはあったか ②待ち伏せたのか ③なぜ包丁を持っていた 男はストーカー行為を否定 博多ストーカー殺人の争点を整理
福岡地方裁判所には初公判を傍聴した、元検察官で刑事事件に詳しい若杉朗仁弁護士に来ていただき、詳しく解説していただきます。まずは、法廷での寺内被告の主張について元木さん、改めてお願いします。
■元木寛人アナウンサー
はい。初公判で寺内被告は「刺したことは間違いないが、待ち伏せをしたことは違います」と述べ、川野さんの殺害についてはおおむね認める一方、ストーカー行為については否認しました。
寺内被告の主張は、2023年2月に福岡拘置所でFBSが取材した時から変わっていませんでした。また弁護側は「事件当時は川野さんへの恋愛感情や怨恨の感情は失っていた」としています。
■松井礼明アナウンサー
「その上で、今回の裁判の争点は、どういったことなんでしょうか。」
■元木アナウンサー
はい。裁判の争点はこちら、ストーカー規制法違反が成立するかどうかと、量刑です。この争点を前提に、弁護士の若杉さんに今回の裁判のポイントについてうかがいます。
■若杉朗仁弁護士
はい、今回の裁判のポイントは、①寺内被告に被害者に対する恋愛感情や恨みの感情があったと言えるか、②事件当日、寺内被告が殺害前に被害者を待ち伏せたと言えるか、③寺内被告はなぜ、事件当日に包丁を持っていたのか、ということになると思います。
■松井アナウンサー
「若杉さん、恋愛感情や恨みの感情をあったと言えるか、待ち伏せたと言えるかは、どちらもストーカー規制法にかかる部分ですね。」
■若杉弁護士
はい、人の感情は目に見えるものではありませんが、ストーカー規制法違反が成立するにはこの1つ目の要件がポイントになります。そのため、裁判官や裁判員は、被告の殺害行為の前後の行動などから感情面について判断していくことになります。
■元木アナウンサー
若杉さん、例えば検察側の主張では、寺内被告が川野さんを少なくとも17回、突き刺したということですが。
■若杉弁護士
「はい、恋愛感情や恨みの感情がなければ、なぜこのように何回も突き刺したのかということが気になるポイントになると思います。」
■元木アナウンサー
続いて、「待ち伏せ」については、検察側は寺内被告が川野さんの職場近くで3分間立ち止まり、待ち伏せたあと、川野さんを見かけてついていったと主張しました。
一方で弁護側は「被害者と会ったのは偶然で待ち伏せした事実はない」と主張しました。
■若杉弁護士
この点については寺内被告が、川野さんの退社時間に合わせ、会えると思って、勤務先の前に立ち止まっていたと言えるかを、立ち止まっていた時間の長さや、声をかけた場所などから判断されることになると考えられます。
■松井アナウンサー
「そして、もう1つ、被害者を刺したとされる包丁をなぜ持っていたかです。」
■元木アナウンサー
はい、これについて弁護側は、包丁は護身用で「常に持ち歩いており、川野さんを殺害しようと準備したわけではない」と主張しました。寺内被告が事件の5か月前に男性を暴行した事件があったのですが、その報復を恐れて包丁を持ち歩くようになったとしています。若杉さん、この点はどう考えますか。
■若杉弁護士
なぜ、この日に包丁を持っていたのかは、事件の計画性に関わる重要な部分です。寺内被告が、検察が主張する通り、最初から川野さんを殺害する目的で待ち伏せし、持っていた包丁で刺したとなればストーカー規制法違反は成立しますし、計画的な犯行とされ動機や犯行態様の悪質性からも、厳しい求刑になることが予想されます。
■読売新聞・高橋 淳夫さん
「ストーカー規制法に基づいて禁止命令を受けているのにもかかわらず、ストーカー行為を否認している。これが裁判の構造を分かりづらくしていると思うのですが、被告の意図はどんなところにあるとお考えですか。」
■若杉弁護士
「寺内被告に会っていませんので正確なところは分かりませんが、ストーカーと呼ばれることが許せない、反省していないという判断をされたとしても、自分でそのことについては許すことができないのではないかと考えています。」
裁判は18日以降も被告人質問が続き、28日に判決が言い渡される予定です。