【特集】重度障害の子を育てる母たちの挑戦
マンションの一室に集まった女性たち。みんな重い障害のある子を育てています。この日、話し合っていたのは、「痰の吸引機」を入れるカバンのデザインについてです。
■お母さんスタッフ
「溜まっているのが見えるのが嫌だ。痰が汚い時いやじゃないです?風邪ひいているときとか」
村尾晴美さんは2022年、福祉用具の開発などを手掛ける会社をつくりました。子どもに障害があり、働くことが難しい人たちのためです。
■村尾晴美さん
「本当にもったいないんですよ(お母さんたちを)家に置いとくのが。時間帯さえどうにかやりくりができて、会えればもうみんなが集まれる。 働けるし活躍できる。そういう場所をちょっとでも増やしてあげたいな」
村尾さんの長男の祐樹さんは重度の障害があり、栄養を管で胃に送る胃ろうをつけて生活しています。
■村尾晴美さん
「7か月入ってすぐ生まれてしまって800グラムしかなかったし、産道を通ってくるのに耐えられなかったから脳と肺から出血してて、それがきっかけで障害をおうことになったんですけど」
脳性麻痺などの障害が残った祐樹さん。子育てへの不安と、罪悪感を感じていた村尾さんを支えたのは、同じように障害のある子を育てる人たちの存在でした。
■村尾晴美さん
「みんなが支えてくれたのは、どんな状態の私でもゆうきでも受け入れてくれる人がいるんだって思ったら、めっちゃ気持ちが楽になって。他人があたしをどう思うか気にならなくなって」
祐樹さんと歩んだ28年。沸き上がってきたのは「次は自分が力になりたい」という思いでした。
■村尾晴美さん
「落ち込むときもあるんだけど、落ち込んだって言ったときに助けてくれる先輩がいたりとか連れ出してくれる人がいたりとか、私はそれで救われてるけど、やっぱりそういう人たちがいない人たちは孤立しているし、今まで受けてきたものをやっぱり逆に返せたらいいなと思って」
祐樹さんが通う歯科医院。村尾さんは医師からある依頼を受けました。体が動いたり力が入りすぎたりしてしまう人が安心して診察を受けられるベルトの製作です。
この歯科医院は、障害や病気のために一般の治療が難しい人を専門にしています。これまで職員の家族がつくった布製のベルトを使ってきましたが、改良を検討していました。
■広島口腔保健センター 尾田 友紀 副センター長
「汚れちゃったときにふき取るんじゃなく洗濯しなきゃいけないっていうのがあったので、誰にお願いしたらいいんだろうってちょうど思っていた折に、そういうお母さんたちの存在を知ってではお願いできますかということで」
依頼を受けてさっそく取り掛かったベルトづくり。汚れをふき取れる素材を選び、強く圧迫されないように、柔らかさも追求しました。
■スタッフのお母さんたち
「楽しい!」
「よかったよ楽しくてよかった」
「バタバタ毎日忙しいんで好きなことに没頭できる貴重な時間です」
そして完成した新作のベルト。依頼があった歯科医院でお披露目です。
■広島口腔保健センター 尾田 友紀 副センター長
「べりべりべり!お~すごーい!!市販のものってかんじ。すばらしいありがとうございます」
ベルトはこの夏から歯科医院で使われ始めました。脳性麻痺や自閉症など、多くの患者の治療に安心を届けています。
■ベルトを使用した人は
「ベルトがあったら力が入らないのであった方が安心するので(歯医者に)来やすい。(ベルトが)あった方がいい」
■村尾晴美さん
「子どもを育てたからこそこの発想があるし、回り回って子供たちのためになるものを自分たちで作れたっていう達成感は、障害者を育ててきた醍醐味じゃないけどね。それはすごく感じててそこを繋いであげたいなっていうのが今」
ベルトは注文を受けて全国に発送。少しずつ、導入する歯科医院が増えているといいます。
そして今、村尾さんは新たな居場所づくりを進めています。障害のある人も、ない人も気軽にひと休みできる「カフェ」です。“支援の核”の意味を込め「コア」と名付けました。
こだわったのが「トイレ」です。重い障害のある子を連れて気軽に訪れることができるよう工夫を凝らしました。
■村尾晴美さん
「前に倒れたりすると危ないので、そういう時にこれがついているとこのまま姿勢が保てる。介助する人がここで待たなきゃいけないそれはお互いにしんどいので」
身体を支える手すりや大人もおむつが替えられる大型のソファを備えました。
厨房に立つのはもちろん障害のある子のお母さんたちです。
■村尾晴美さん
「普通食、やわらかめ、つぶし、ペースト、胃ろうから注入する子たちように注入食。ごはんを色々な形態を変えます皆で」
カフェの2階には祐樹さんが通う生活介護事業所「あべに~る」があります。
カフェだけでなく、事業所の子どもたちに給食を提供するのもお母さんたちの仕事になります。
■村尾晴美さん
「ここでこれだけできたなら私もっとできるかもって思える人がでてきて、社会にどんどん出て行けるようになればいいなと思っているので、一段一段おかあさんたちの活躍の場が広がっていけばいいな」
カフェのオープンは9月16日。
新たな拠点として、障害のある子を育てるお母さんたちがいきいきと働ける社会を目指します。
【2024年9月9日】