×

広島市の平和記念式典への招待 ロシア・ベラルーシ・イスラエル・パレスチナへの対応が違うワケは?

2024年8月5日 20:15
広島市の平和記念式典への招待 ロシア・ベラルーシ・イスラエル・パレスチナへの対応が違うワケは?

広島テレビの長島清隆解説委員が、8月6日の平和記念式典について解説します。広島市は各国の大使に毎年、平和記念式典の招待状を送っていますが、2024年は109か国とEU代表部が参列すると回答があったということです。核保有国、あるいは核を持つとされる国では、アメリカ・イギリス・フランス・インド・イスラエルが出席します。

広島市は2024年もロシアとベラルーシには招待していません。一方で、戦闘が続くイスラエルとパレスチナについては、イスラエルは招待し、パレスチナは招待していません。これまでもお伝えしてきたように、ロシアとベラルーシを招待しない理由について、広島市の松井市長は「式典の円滑な遂行に影響を与える可能性があるから」としています。

ロシアがウクライナに侵攻しておよそ半年後の2022年8月、広島市はロシアを式典に招待しませんでしたが、ロシアの駐日大使は式典の2日前に広島に来て、一方的な主張をしました。

■ロシア・ガルージン駐日大使(当時)
「アメリカが行った原爆という、戦争犯罪の犠牲者の方々のご冥福を祈るために(来た)。ロシアは核軍縮・核兵器廃絶に向けて行われています努力のリーダーでありまして。」

松井市長は、こうした姿勢が変わらないことも招待しない理由に挙げています。

■広島市 松井市長(2024年8月1日)
「ロシアについては、当時、私自身お呼びして、式典を開催するときに、式典の開催が平穏にいかない可能性があるからということで、ロシアが今もその態度を変えておられないので。態度ですよ。紛争してるかどうかじゃなくて、 態度を変えておられないということで、呼んでないということです。」

市長の話にあったように、自分たちに都合のいい主張を祈りの場でされるのは、広島の立場としては腹立たしいと同時に、そういう国も含めて被爆の実相に触れることも大切です。外交は、どんな国も常に自分たちの国益のために、自分たちに有利な主張を展開するものです。たとえ慰霊の場だとしても、自分たちの主張をしないように、というのも難しいのが現実です。

一方で、イスラエルは招待して、パレスチナは招待していません。このように判断が分れたことについて、駐日パレスチナ常駐総代表部は、Xでこのように述べて います。

■駐日パレスチナ常駐総代表部(Xより引用)
「広島市はイスラエルを平和記念式典に招待することを選択しましたが、パレスチナに対してはそうではありません。破壊の被爆者として知られ、平和を訴える広島市が、過去76年間、大量虐殺、民族浄化、占領が続いているパレスチナを招待しないのは衝撃的です。この決定はダブルスタンダードです。」

なぜ、パレスチナが主張する「ダブルスタンダード」になったのでしょうか。広島市が式典に各国を招待するようになった歴史を振り返ります。まず1998年、平和記念式典に核保有国の駐日大使に参列を要請するようになりました。そして2005年、核軍縮を推進している国の首脳に参列を要請、そして2006年、現在のように「全て」の駐日大使に参列を要請するようになりました。しかし「全て」というのは、日本国政府が国家として承認した国が対象となります。それに当てはめるとパレスチナは、日本政府が国家として承認していません。他のG7の国も同様です。つまり「国」として承認してないことから招待していないだけで、決して「イスラエルとパレスチナ、どちらかを選択するという基準で選んだわけではない」というのが、広島市の立場で、このルールは2006年から現在まで続いています。

一方で長崎市は判断が異なり、イスラエルとパレスチナについて、広島市と反対になりました。長崎市は「式典が円滑に遂行できない可能性があるから」と、イスラエルを招待していません。しかし、パレスチナは招待しています。長崎市は、国家として承認しているかが基準ではなく、代表部という組織が日本にあれば、招待するというスタンスを取っています。つまり、パレスチナは招待しても、式典は円滑に開催できるという判断になったということです。

広島市も「迎える平和」というのを掲げており、全ての「国」を招待するというのが基本的なスタンスです。松井市長は「決して政治的な判断をしているわけではない」としています。

■広島市 松井市長
「私はアンパイア、審判員でもないわけであります。どこの国が正しいとか悪いとか 言ってるわけじゃない。今までのやり方を踏襲したと申し上げたら、なぜ呼ばないのかと。長崎のように何で見直さないのかというご質問になるわけでありますね。ですからそれはやっておりませんし、やらなかったことについて、私自身別に不自然なことはありません。」

あくまで、これまでのやり方を踏襲しており、また広島と長崎を合わせる必要もないと強調していますが、様々な意見が出てることを踏まえて、2025年の式典から、参列の要請の方法を見直していくという考えも示しています。平和のために行う式典で、誤解や疑念を持たれてしまうのは、広島市も本意でないという気持ちがあるため、やり方を見直していくとしています。2025年は、被爆80年を迎えます。広島の心を世界に伝えるために、どのような式典であるべきなのかを、改めて考えるきっかけにしていきたいものです。

【2024年8月5日放送】