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【密着】「子どもたちの可能性広げたい」赤ちゃんポストに預け入れられた男性の思い

2024年1月16日 19:02
【密着】「子どもたちの可能性広げたい」赤ちゃんポストに預け入れられた男性の思い

親が育てられない子どもを匿名でも受け入れる「こうのとりのゆりかご」、いわゆる赤ちゃんポストに預け入れられた男性が、小学生らを対象とする新たな学びの場「子ども大学」を作ろうと奮闘しています。16日から学生の募集が始まった子ども大学。子どもたちの可能性を広げたいと準備を進める男性の思いを取材しました。

16日に熊本市役所で開かれた記者会見。
■宮津航一さん
「皆さんのお力添えをいただいて、第一回の開講の発表ができることをうれしく思う」

こう話すのは、かつて「こうのとりのゆりかご」に預け入れられた宮津航一さん(20)です。一緒に記者会見に臨むのは、ゆりかご開設に携わった慈恵病院の元看護部長、田尻由貴子さん(73)。

2人が去年設立したのが、「子ども大学くまもと」です。小学生だけでなく、保護者も一緒に各界の専門家から大学レベルの授業を受ける教育プロジェクトです。2002年にドイツで生まれ、日本では埼玉から始まり、東京や福岡にも広がっています。

16日の記者会見では、3月16日に初めて開く授業の内容が発表されました。講師は、国連開発計画親善大使も務める俳優の紺野美沙子さん。原爆で我が子を亡くした父母の手記をもとにした絵本の朗読や映像で、平和について考えます。

■宮津航一さん
「近年、世界各地で争い、戦争、痛ましいニュースがある。社会を良くも悪くも築くのは子どもたちではないかと」

ほかにも授業では、東京で活動する「子ども大学くにたち」の稲葉茂勝理事長がSDGSをテーマに講演します。2人が子ども大学の設立を決めた背景にあるのが、「こうのとりのゆりかご」でした。

■田尻由貴子さん
「きょとんとして、ゆりかごのベッドに座っていたブルーの服着ていた今でも思い出す。かわいかった…愛らしくて、 抱っこして。柔らかいね、その時3歳。今でもそのぬくもりを感じて」

田尻さんが思い返すのは、ゆりかごで対面した時の航一さんの姿。ゆりかごに預け入れらた航一さんを初めて抱き上げたのが田尻さんでした。

■宮津航一さん
「ゆりかごに預け入れられた時に 置いてあったのがこの靴と服だけで」

自宅でこう話した航一さん。3歳の時に里親の宮津家にやって来ました。その後、実の母親は交通事故で亡くなっていたことを知り、宮津家の両親から愛情をたっぷり受けて育ちました。

航一さんが田尻さんと再会したのは小学生の頃。

■宮津航一さん
「田尻さんは第二の母のような感じなのかな。そう考えると、母が3人いるのかなと。 実の母と、養子縁組した母と。田尻さんもある意味お母さん的な存在」

去年10月。学習塾などを経営する会社を訪ねた2人。子ども大学の開催資金や活動をサポートしてもらう企業探しです。

■宮津航一さん
「思いが同じで、共感をしていただける方々に支えて頂きたいということで」
■サクセスリンク株式会社 山田千鶴子代表取締役
「一緒になって支えていけたらと思います」

訪問を受けた山田さんは、塾を運営する中で、不登校の子どもが多い現状を見てきました。
■サクセスリンク株式会社 山田千鶴子代表取締役
「親子で参加すると、帰ってからポジティブな話、豊富な話ができるというのは、確実に幸せが増えていく活動になると私は思います」

航一さんも同じ実感を持っていました。子どもの居場所を作ろうと、航一さんは高校3年の時に「子ども食堂」を立ち上げました。

■宮津航一さん
「居場所を求めている子どもというのは、いつの時代でもやっぱりいると思っています。常に、ここに今、居場所があるよっていう、その一役を担えればなと思っています」

親子の居場所は作ったけれど、ほかにできることはないのか。そう思っていた航一さんに田尻さんから教えてもらったのが子ども大学の存在でした。

去年11月、航一さんと田尻さんは熊本市のルーテル学院大学を訪れました。親子200組を受け入れられる会場を探すためです。航一さんは松本充右学長に子ども大学にかける思いを伝えました。

■宮津航一さん
「子どもとふれ合う中で心が十分満たされていないというのを、子ども食堂を運営する中で気づきました。子ども大学が視野を広げる機会になるのではないか」

松本学長に案内してもらったのは、600人収容できるチャペルです。
■田尻由貴子さん
「うわ!すごいね!」
■宮津 航一さん
「ステンドグラスもいいですね」

■九州ルーテル学院大学 松本充右学長
「これからの社会を担う子どもたちに学びを与えたいという考えに、私たちの大学も賛同しました」

会場として提供してもらえることになりました。
■田尻由貴子さん
「みんなの顔が見えるこの会場で良かったね」
■ 宮津航一さん
「ここを使って、子どもたちが色んな学びをしてもらえたらいいのかなと。ここに来て改めて感じました」

年が明け、1月9日には熊本市の大西一史市長を訪問した2人。活動を広げるため様々な場所に足を運びました。その甲斐あって、サポーターを希望する人が着々と増えています。
■サポーター
「何か力になれることがあったらなと。その一心でサポーターに立候補させていただきました」
「金銭的なお手伝いはできないんですけど、一緒になってお手伝いができたらって思いますね」

チラシの準備も進み、子ども大学の実現が近づいてきました。「ゆりかご」を通じて出会った2人が、命に向き合ってほしいと作る学びの場。

■田尻由貴子さん
「楽しみです、子どもたちの反応が」
■ 宮津航一さん
「紺野美沙子さんや、子ども大学くにたちの稲葉茂勝理事長の講演の内容が、もっと自分の命を燃やして生きていく方法があるのではないかと考えさせられるものだったので、一歩を踏み出す後押しや気づきになればと思っています」