【密着】「男女の枠を越えてでも残すべき文化」担い手不足…全国でも少ない女性神楽師
祭りなどで舞われる「神楽」。担い手不足が深刻な中、長い伝統を守ろうと立ち上がった数少ない女性の神楽師に密着しました。
10月15日、熊本市西区の金峰山神社で行われた秋祭り。神楽を舞うのは稲田奈緒子さん。保存会唯一の女性神楽師です。
稲田さんは福岡出身。10年ほどポップス系のダンサーとして活動をしていました。18年前に結婚を機に熊本へ。今は地元の子どもたちにダンスを教え、地区の行事などで踊りを披露しています。
稲田さんが神楽を初めて目にしたのは4年前でした。
■稲田奈緒子さん
「今までやってきたものにはなかった美しさ。和の美しさみたいなものをとても感じて。それに触れてみたいと思ったのが最初のきっかけです」
早速、神社の関係者に「自分も神楽を舞いたい」と伝えました。ところが。
■稲田奈緒子さん
「女性が舞うんですか?ただやりたいと言ってるんじゃない?みたいな。新参者として入っていく覚悟みたいなのは、とても必要でした」
金峰山神社の神楽は、これまで女性を受け入れたことがなかったのです。
■神楽指導者 杉本慎太郎さん
「最初はびっくりしました。おじさんとかばかりの世界で神楽を見てきたので。(稲田さんの舞は)新しい感じだなと思って私はうれしい」
■稲田奈緒子さん
「男性、女性という枠を乗り越えてでも残していく価値のある文化だと思っています」
昭和の頃には、神社ごとにあったという神楽。しかし、20年ほど前から若者の地元離れが加速し、少子化が進んだことで衰退の一途をたどっています。稲田さんが住んでいる岳地区も今の人口は約700人、例外ではありません。
稲田さんが神楽を舞う金峰山神社は、金峰山の山頂にあります。神社を守り続ける宮総代の本田一義さん。全国的にも数少ない女性の神楽師誕生に…。
■金峰山神社 総代代表 本田一義さん
「うれしかったですね。金峰山神社にとっては非常にありがたい事だなと思いました。バリバリ、バックアップしていきたいと思います」
9月、秋の大祭に向けた神楽の練習が始まりました。神楽を始めて3年目の稲田さんは今年、二人での舞に挑戦します。金峰山神社には担い手がいなかったため、約15年ぶりの復活です。
(稲田さん)
「わからん、わからん。やばいぞ、これはやばいぞ。」
(神楽指導者 杉本慎太郎さん)
「こう回して、回して回して」
■稲田奈緒子さん
「ダンスは音楽にカウントがあるので、それに合わせて踊っていく感じですけど、神楽の場合は息を合わせるのがすごく重要」
課題を持ち帰り、ひとりで練習します。
■稲田奈緒子さん
「鈴も振りながら弓も回しながら、自分も舞うし、場所も換わっていく。とっても難しいです」
Qでもやるしかない?
「そら負けとられんですよね。やるって言ったからには」
祭りの日を迎えました。金峰山が夕闇に包まれると、夜神楽が始まります。観客も集まって来ました。
稲田さんにとって初めての二人神楽。息を合わせます。課題だった弓を回しながら鈴も鳴らす場面も、きれいに合わせることができました。最後に矢を放ちます。
(観客拍手)
■氏子
「動いている感じがしゃきっとして、全然違いますね」
■神楽指導者 杉本慎太郎さん
「80点くらいですかね 100点やったらこう(天狗に)なる」
■稲田奈緒子さん
「私は120点くらいあげたい! まだまだこれから楽しくなると思います」
今後の大きな目標は、9年後の金峰山神社1200年の大祭。さらなる高みを目指して、これからも神楽を続けます。