×

「乳がんでも出産を…」 妊娠・出産の可能性残す近年の療法とは

2023年10月31日 19:41
「乳がんでも出産を…」 妊娠・出産の可能性残す近年の療法とは

9人に1人がかかるといわれる乳がん。最近は妊娠・出産を希望する若い世代で罹患する人も増える中、乳がん治療と妊娠・出産の両立で葛藤を抱える人もいます。

4年前に取材した田中めぐみさん。24歳で乳がんと診断されました。

■田中めぐみさん(当時26)
「最初悪性と出たときは、やっぱり死のことが頭に浮かびましたし、 未来が見えない気持ちになりましたね」

がんが見つかった時の診断はステージ2。初期ではあったものの、右胸のがんの大きさは直径3センチに達し、リンパ節にも転移していました。田中さんは抗がん剤治療の後、手術でがんを摘出し、その後乳房の再建手術を受ける選択をしました。理学療法士の仕事を続けながら1年半の治療を終えた田中さん。

今年10月20日、再び田中めぐみさんを訪ねると、男の子(2歳)と、双子の女の子(6か月)のお母さんになっていました。

Qあの時は妊娠出産のこと考えていたんですか?
■田中めぐみさん
「できれば子どもが欲しいということは、やはりずっと思ってたんですけど。どうなるかなっていう、まだ不安があったような時期だったかなって思います」

子どもを授かる可能性残す「乳がん治療」

乳がんの専門医は、治療が妊娠出産に影響することがあると話します。

■熊本赤十字病院乳腺内分泌外科 山本聡子副部長
「抗がん剤などを使わなければいけない方は、 どうしても一時的に閉経になってしまうリスクがかなり高いです。生理が戻ってくる人は多いんですけれども、 年代によっては、そのまま閉経になってしまったりだとか、 卵巣の機能が落ちてしまうということで、 妊娠しにくくなってしまうリスクがある」

また、抗がん剤やホルモン剤を妊娠初期に使用すると、胎児の先天異常が増す可能性があるため、治療の間は妊娠が推奨されません。そこで近年採用されているのが、将来子どもを授かる可能性を残す「妊よう性温存療法」です。

■熊本赤十字病院乳腺内分泌外科 山本聡子副部長
「卵子凍結という方法。卵子も、パートナーがいる方は受精卵として凍結する方法と、まだパートナーがいないけれども今後赤ちゃんが欲しいという方は未受精卵のまま凍結する方法、場合によっては卵巣を凍結するっていう方法もある」

妊よう性温存療法で子どもを授かった髙井郁美さん(38)です。田中さんがつながりを求めて参加した若年性乳がん患者の交流会で知り合いました。髙井さんは30歳の時、ステージ1の乳がんが分かりました。

■髙井郁美さん
「治療すると妊娠出産できなくなるかもしれないと言われたのが一番。 どちらかというと、乳がんよりもショックで。だからすぐ、妊よう性温存の方に話を進めていった感じですね」

髙井さんはがんの摘出手術の後、1か月半の間に採卵。その後、抗がん剤や放射線治療、ホルモン療法などの治療を行いました。

34歳で主治医と相談し、ホルモン療法を一度中断して妊娠を目指すことを決意。凍結していた受精卵を移植して1人目の子どもを出産します。その後、自然妊娠で2人目を出産しました。

■髙井郁美さん
「妊娠の方が自分の中で優先度が高かったので、年齢で考えたという感じですかね」

一方、田中さんは…。

■田中めぐみさん
「妊よう性温存をしていなくて。それより治療を急ぎたかったので、私はもうしないって決めて、乳がんの治療を始めたので」

田中さんは治療を終えた後、自然に子どもを授かりました。選ぶ道は人それぞれ。しかし、がんの宣告から妊よう性温存をするかどうかの決断までには葛藤や焦りがあったといいます。

■田中めぐみさん
「あなたはがんですって言われて、 妊娠出産どうしますか?どうしたいですか?って決めるまでが、すごく短い期間で決めないといけなくて」

若年性乳がんの患者をサポートする団体が493人の患者にアンケートを行ったところ、妊よう性温存をするかどうか「決める上で一番力になったのは?」という質問に対し、最も多かった回答は、「妊よう性温存の情報を知らなかった」でした。
そして夫やパートナー、がんの主治医に次いで多かったのが、「誰もいなかった」という回答。治療法が知られていない可能性や、相談できる人がいない現状が浮き彫りになりました。

課題の「費用」行政から補助金も

費用の負担も課題です。妊よう性温存に支払った総額が50万円以上という人は半数近くに上っています。決して安い金額ではありません。

そんな中、熊本県では3年前から妊よう性温存療法に補助金を出すなど支援を始めています。

また、患者の葛藤や不安をやわらげようと、がん診療連携拠点病院には、相談支援センターが設置されています。

患者本人だけでなく家族や友人も相談ができ、専門家や施設につなぐだけでなく患者同士が繋がれるコミュニティの情報提供もします。

■熊本赤十字病院 宮本あづさ看護主任
「告知を受けてやっぱり頭が真っ白になって、ご自宅に帰る時まで全くどうやって帰ったらいいのか分からなかったという方も実際にいらっしゃいますので、ここは治療を選択する場所ではないんですけれども、いろんな相談を受けて、ご自身の中でも整理ができやすいようにお手伝いをさせていただきます」

乳がんを経験しながら出産・育児をした田中さんと髙井さん。お互いの存在は大きかったといいます。

■髙井郁美さん
「あ、やっぱりいるんだみたいな、ほっとしたというか、相談したいことがあればできるかなっていう存在になったかな」
■田中めぐみさん
「やっぱり妊娠出産って正解がないことだと思うので、本当に1人で悩まずに、家族だったり友達だったりに相談するなり、気持ちを打ち明けるなり、1人で悩まないでほしいなって思います。」