障害のある子どもを働きながら育てたい 療育の現場で 高岡市
「療育」という言葉をご存知でしょうか?発達の遅れや障害のある子どもへの支援のことで、それぞれの子どもに合った療育を受けることが大事です。一方、富山県内では施設の受け入れ体制に課題があって、子どもの療育と仕事の両立は難しいのが現状です。奮闘する高岡市の家族を取材しました。山田記者のリポートです。
「どれ?お茶かな?お茶、ちょーだい。あら上手。お茶ほしい人?はーい。」
高岡市に住む千晴ちゃん、4歳。まだ、会話することはできません。
母親の美月さん
「まず一番気になったのはクレーン現象と言って、手を引っ張る動きなんですけど。調べた時に『発達障害』とか『自閉症』っていうのが検索で出てきた」
自閉スペクトラム症は発達障害のひとつ。人とコミュニケーションをとることが難しいといった特性があります。
「答えのない育児をしている感じ。頑張っているつもりだったのに思い通りにいかないから『なんで?』って」
2歳になってすぐに自閉スペクトラム症と診断されました。
小中学生の11人に1人は「発達障害」の可能性があるとされています。発達障害は早期発見、早期支援が重要と言われていて、適切な「療育」が将来の自立などにつながります。
信州大学医学部 子どものこころの発達医学教室 教授児童精神科医として30年以上、発達障害の子どもたちの診察を続けている信州大学の本田秀夫教授は、それぞれの子どもに合った療育が重要、と話します。
信州大学 本田秀夫教授
「その子に合っていればやっぱり学習効率は全然違います。良い療育を受けたら親も子どももずいぶん変わりますし、そのあとの心が健康的に育ちますよね」
「みなさん、おはようございます」
「1と5でたこ焼きたべて、2と5で焼きそば食べて…」
高岡市にある児童発達支援施設です。
障害のある子どもたちが服を着るなどの日常の動作や遊びながら手先を使う訓練など、一人一人にあった療育を受けられます。障害の程度で利用回数が決まっていて、千晴ちゃんは月に10回まで利用することができます。
施設には、保育士に加えて理学療法士や看護師など専門スタッフがいて、生活スキルの向上にむけ寄り添います
「どの焼きそばにしようかね~ 1個とは限らんね」
この日は、お店屋さんごっこで買い物体験です。
社会福祉法人くるみ 岡本久子理事長
「障害のある子どもさんってどうしても体験が少なくなるんですね。子どもさん連れの買い物ってすごくお母さん大変なので。そういう機会を遊びを通じて。そういう目的で行っています」
千晴ちゃんが療育を受けはじめておよそ2年。専門スタッフのサポートを受けながら成長が実感できて、母、美月さんの精神的な負担も軽くなったといいます。その一方で、課題も。
美月さん
「仕事との調整が大変で、療育の回数か仕事のどちらかをあきらめなきゃいけないことが多いんじゃないか」
県内で療育が受けられる施設は71か所あって、10年前から4倍以上に増えましたが、まだ十分ではありません。KNBの調べでは半数以上の37か所が受け入れの「空きがない」と回答しました。利用するのに「1年待ち」というところもあります。
療育施設へ通うための受給者証の交付が、富山市ではここ5年で1.7倍に増えています。市の担当者は「サービスの供給が追い付いていない」としています。
千晴ちゃんの母、美月さんは県内およそ10か所の施設をあたりましたが、利用できたのは2か所だけでした。この2か所を利用していて、富山市にある施設へは片道1時間かけて通っています。
夫婦共働きで、これまで夫と交代で有休をとりながら続けてきた療育。限界を感じ始めていると言います。
美月さん
「今の富山の現状だと、あきらめなきゃいけないところも多いんじゃないかと思っていて。仕事も育児も療育もあきらめずに過ごせる世の中になればいいな」
障害のある子どもを働きながら育てたい。療育のニーズが県内でも広がっていて、施設の充実が急務です。
子どもの特性に合った施設を見つけるのは、働きながらだと場所や時間の制約が厳しく、なかなか難しいのが現状だということです。子どもたちがしっかり支援を受けられるような環境づくりが必要だと思います。