×

被爆者の思いを“カタチ”に「原爆への怒り」「平和への願い」死没者名簿筆耕続ける被爆2世《長崎》

2024年8月7日 0:00
被爆者の思いを“カタチ”に「原爆への怒り」「平和への願い」死没者名簿筆耕続ける被爆2世《長崎》

「原爆死没者名簿」の筆耕作業を続ける女性。

被爆者の思いをカタチに。

“平和の願い” を書にして伝えています。

(被爆者 六田正英さん)
「爆心地を通って時津まで避難をした。悲しみ、悔しさ、なんと表現していいのか。言葉が見つからない。戦争ってやっぱり悲惨という言葉に尽きる」

(書道家 森田孝子さん)
「絶対にあってはいけないことですよね」

被爆者から “あの日” の話を聞きます。

▼「8月9日の記憶」「被爆者の思い」をカタチに

長崎市の書道家、森田 孝子さん 76歳。

被爆者の原爆への怒り、そして平和への願いを “書” にしたためています。

(書道家 森田孝子さん)
「(被爆者の思いを)何かで伝えたいと思ったときに、私には書があると思って。私の書で多くの方に伝えられたらと」

▼「原爆死没者名簿」の筆耕作業 両親の名前も…

8月9日の平和祈念式典で奉安される「原爆死没者名簿」。

森田さんは、“筆耕作業” を20年以上担当していて、今年は約3300人の犠牲者の名前を記しました。

(書道家 森田孝子さん)
「被爆者の方々のご冥福をお祈りしながら、精一杯 奉安に向けて頑張りたい気持ちで臨んでいる。平和の思いを込めて書かせていただくことを誇らしく思う」

(書道家 森田孝子さん)
「これが父、母、両親。長崎市油屋町で被爆した」

父 中村 學さんと母 ミユキさんは、爆心地から3・6キロの長崎市油屋町で被爆。

大きなケガはありませんでしたが。

(書道家 森田孝子さん)
「“皮膚が垂れ下がってさまよっている方たちを見た” と父が言っていた。もう原爆は二度とあってはならないと強く思う」

名簿の作成は1968年に始まりました。

式典では毎年、新たに死亡が確認された死没者の名簿が奉安されています。

これまでに、森田さんが手掛けたのは40冊以上。

その中には、両親の名前も…。

(書道家 森田孝子さん)
「みなさん同じ気持ちでご冥福をお祈りしながら書くが、自分の手で両親の名前を書けるのは幸せなこと」

毎年の筆耕を通じ、実感していることがあります。

被爆者がいなくなる時代が近づいていること。

そして、継承の大切さです。

▼大切な被爆者の言葉 『書』として未来へ伝え残す

(書道家 森田孝子さん)
「80代、90代の方がほとんど。初めて被爆者の高齢化を身に染みて感じた。私にできることは『書』で伝えていくしかない」

“平和の願い“ を『書』で伝えたい。

2012年からは、毎年「書道展」を開いています。

被爆者と直接話をし、届けたい言葉を表現。約25点を展示しています。

中でも 印象に残っているのが…

(書道家 森田孝子さん)
「最初の作品。下平さんから言葉をいただいて作品にした」

半世紀にわたり、被爆者運動の先頭に立ってきた 下平 作江さんの言葉です。

(書道家 森田孝子さん)
「~ “平和とは” 人の痛みがわかる心を持つ事です ~
下平さんが被爆されて一番『人の優しさがあれば、きっと戦争は起こらないのではないか』と感じられた時の言葉だと思う」

▼「直接話を聞くと肌のぬくもりを感じる」

7月26日。この日訪れたのは、大村市。

(被爆者 六田正英さん)
「よろしくお願いいたします」

爆心地から1.6キロの長崎市船蔵町で被爆した 六田 正英さん 91歳。

六田さんは、原爆の惨状や平和への思いを短歌にしています。

(被爆者 六田正英さん)
「~ 奉安の 死没者名簿に加わりし 被爆の妻に初めての夏 ~」

2015年に亡くなった妻・眞砂子さんへの思いをつづった短歌。

森田さんは この歌を新たに『書』にすることにしました。

(書道家 森田孝子さん)
「悲しみとかさみしさとか、そういうものがやっぱりありましたか?」

(被爆者 六田正英さん)
「そうですね。(短歌を作ることで)供養になると思った」

(書道家 森田孝子さん)
「直接お話を聞くと、肌のぬくもりを感じます。被爆者の人でしか感じ取れない、今まで生きてこられた証としてのお気持ちを受け止めたいと思っています」

▼書道を通して子どもたちが “戦争や平和について考える時間” を

森田さんは、書道教室も開いています。

(書道家 森田孝子さん)
「いっぱい楽しいことがあって、いっぱいおいしいものが食べられて素敵。これがずっと続くといい。穏やかな毎日が一番大切だと先生は思っている」

毎年この時期は、教室に通う子どもたちに、書道を通して “戦争や平和について考える時間” をつくっています。

(教室の生徒)
「温かい心と書いた。温かい心が集まると平和が生まれる」

(教室の生徒)
「世界が平和になってほしいという思いと、今 生きている命に感謝を込めてこの文を書いた」

被爆から79年を迎える長崎。最後の被爆地にするために。

平和の尊さを書に込めて、自身の活動を続けていきます。

(書道家 森田孝子さん)
「被爆地は “長崎で最後” というのが一番大事。人の優しさに触れたり、ちょっとした人の思いを受け止めることで平和への思いが伝わっていくんじゃないかと思います」

森田さんの今年の書道展は、追悼平和祈念館で11月に開かれる予定です。

また 今後は、広島でも開催したいと考えているそうです。