過疎化で荒廃すすむ「棚田」を守りたい高校生たち 棚田米や山の幸使った新たな取り組み
過疎化とともに荒廃が進む棚田を元の姿に戻そうと奮闘する西条農業高校の棚田チーム。新メンバーにとって初めての田植えに…千町の食材の新たな活用法も。地道な活動が広がりをみせようとしています。
石垣の棚田が芽吹きの季節を迎えた4月。ここは愛媛県西条市旧加茂村の山間に広がる千町の棚田。440年前、土佐の豪族によって開拓されたこの場所はかつて2500枚の棚田が広がり、米どころとしてその名を馳せていました。
棚田に生えたヨモギを採りに来たという男性。40年ほど前まで千町で暮らしていたそうです。
伊藤正木さん(85):
「自分の土地がどこにあるんかわからんなってしもうた。境もわからんなってしもうた。藪じゃ。やっぱり生まれ育った所やけんね、残してもらいたいけど」
過疎化とともに進む棚田の荒廃。今、その8割が耕作放棄地です。
6月。千町の棚田に田植えの季節が訪れました。先人が築き上げた棚田を少しでも元の姿に戻していこうと、10年前から保全活動を続けているのが西条農業高校の成高久豊先生率いる棚田チームです。
今年のメンバーは、測量や造園を学ぶ環境工学科の2年生、ですが、農業の経験はほとんどありません。慣れない田植え機に悪戦苦闘のようですが…なんだか、みんな楽しそうです。
伊藤政喜さん:
「自然が好き。自然に触れたいというか、農作業に興味があった」
内田嵐さん:
「自然が好き。空気がおいしい」
棚田に植えるのは、かつて千町で多く作られていた“農林22号”。コシヒカリの親にあたる品種です。今では希少な品種のため、“幻の米”とも言われています。
田植えには、かつて棚田チームだった卒業生の姿も。仕事が休みの日にはこうして今も活動に参加しています。
曽我優斗さん(卒業生):
「仕事も楽しいんですけど山来たらリフレッシュされる。土曜日のために仕事を一生懸命頑張ろうって思うので、棚田が自分の一部みたいなもんですね」
再び息を吹き返す田んぼがある一方で…
成高先生:
「こんな状態。すごいでしょ。もうここは田んぼにはできない絶対。昔みたいには」
千町の棚田で問題となっているのが棚田を覆いつくす放置竹林です。竹は根が浅く、放っておくと地すべりなどが起こりやすくなるため、棚田チームは3年前から整備を進めています。
たけのこ掘りも竹林を整備するために大切な作業。今年は豊作!棚田で採れたタケノコをあるイベントに使うそうです。
西条農業高校の生活デザイン科が、2019年から毎年行っている高校生レストラン。今年、千町の棚田で採れた食材が使われることになったのです。
生徒:
「これは棚田のお米です。ショウガがちょっと効いて枝豆も入れるんで両方の味が楽しめると思います。ちょっと水が多かったかな」
生徒:
「先生がバス出してくれて(自分が)採りに行きました。このワラビで作るのは初めてで、味もぼちぼちいい感じになったと思います」
千町の棚田の恵みを味わいながら、棚田の現状を知ってもらう。この日、高校生レストランの本番を前に試食会が開かれました。
成高先生:
「極力、千町棚田のものを使ってもらってるんですよ。この子らが竹で細工をして。また感想を聞かせてもらえればと思いますんで」
盛り付けに使われる竹の器に…竹の箸は全て棚田チームが放置竹林で作りました。
試食会には、プロのシェフをはじめ東京からホテルの社長も出席しました。
棚田チーム 得居大次朗さん:
「この竹灯籠は千町棚田の放置竹林を伐採してちょうどいい大きさに切り落として…」
明山淳也社長:
「これも同じ竹ですか?」
得居さん:
「はい、千町棚田の竹です」
今回提供されるメニューは千町の棚田で採れた山の幸をはじめ、西条農業高校で栽培したカブの肉詰めなど、全部で6品。
明山社長:
「素材の味が生かされてて。これ自体がすごく春を感じる」
高校生レストラン当日。棚田チームのメンバーはお客さんに棚田のことを知ってもらおうと、手作りのボードも用意しました。
棚田チーム 柴 快心さん:
「千町棚田チームっていうんですけど、千町の棚田の竹を使って竹灯籠を作って」
お客さん:
「わーすごい」
店内はあっという間に予約客で満席に。
市内から:
「みんなおいしいです」
市内から:
「ワラビがおいしい」
市内から:
「お米とかも棚田で作られているんですよね。すごくおいしいのでこれから(棚田を)残していってほしいなと」
棚田を守る。そして、伝えていく活動が少しずつ、着実に広がっています。新たなメンバーが加わり、新たな表情を見せ始めた千町の棚田。
得居君(現役)
「もったいないですよね。こんだけ自然がいっぱいで田んぼもいっぱいあるのにそのまま放置されて汚れていくのは。自分がちょっとでも力になれたらな」
成高先生:
「この子らが成長してくれるのが一番うれしいんで。あとを継いでくれるだろうと淡い期待をもってやりよるんやけど」
“棚田を次の世代につなぐ”。保全活動を始めて10年。植えた稲も、思いも根付いています。