×

全国で「棚田」の4分の1が耕作放棄…先人が残した遺産どう守る?四国山地で奮闘する高校生たち

2023年10月18日 19:01
全国で「棚田」の4分の1が耕作放棄…先人が残した遺産どう守る?四国山地で奮闘する高校生たち
農林水産省のつなぐ棚田遺産に認定された西条市「千町の棚田」

農林水産省のつなぐ棚田遺産に認定された西条市、千町の棚田。後世につなぐために奮闘する高校生グループの記録、収穫の秋編です。

西条市にある千町の棚田の保全活動に取り組んでいる西条農業高校、成高久豊先生と生徒たち。通称、“棚田チーム”。

成高先生:
「灯すんよ。盆踊り会場で。わかった?」

小学生 :
「はい!」

地元の小学生を巻き込んでの竹灯籠作りです。この竹、棚田を飲み込む勢いで増え続けている放置竹林から切ってきました。この日用意されたのは、およそ80個分。

竹灯籠づくりを通して、色々な世代に千町の棚田を知ってもらいたい。棚田チームの願いです。

かつて稲作が盛んだった“東予の千枚田” 保全活動で「つなぐ棚田遺産」に認定

標高およそ200メートル。四国山地に張り付くように「千町(せんじょう)の棚田」はあります。

「棚田」とは、山の斜面などに、階段状に造られている田んぼ。

かつて、ここは”東予の千枚田”と称され、およそ2500枚の棚田では稲作が盛んに行われていました。

しかし、過疎化が進み、現在千町地区に暮らす人は8世帯15人。80ヘクタールあった棚田も、いまでは5分の1まで減りました。

そんな千町の棚田の保全に向け立ち上がったのが、あの「棚田チーム」です。

活動3年目の2023年は、現役の3年生に加え、卒業したメンバーも仕事の休みを利用して参加。チームを支えています。

こうした活動も評価され、千町の棚田は2022年、農林水産省から「つなぐ棚田遺産」に認定されました。

毎年3000人が訪れる高知県「貝ノ川棚田」の取り組みとは

9月、棚田チームの姿は久万高原町のお隣、高知県の中西部、津野町にありました。

成高先生:
「ほ~きれいな」

貝ノ川棚田保存会 大崎正さん:
「ここが最上部になって一応展望スポットととして案内してもらってます」

つなぐ棚田遺産のひとつ、貝ノ川棚田です。

およそ400年前、江戸時代から受け継がれているおよそ20段230枚の石積みの棚田が広がります。その景観は、観光地としても存在感を示しています。

例えば、14年前に始まったキャンドルまつり。毎年3000人近くの人が訪れる人気のスポットになりました。

成高先生:
「ここはやっぱ津野町が観光資源にしようと動いてくれてるんですか?」

大崎さん:
「そうですね、それに近い位置づけにはなってます」

貝ノ川棚田に、保全活動のヒントはないか。成高先生の狙いがありました。

チームの記録兼広報係、藤本くん。千町の棚田との違いを分析します。

藤本くん:
「全然耕作放棄地が少ないのと、管理がいきわたってる。一面稲が多いので。千町の棚田と比べて、通路の草の量が少なくて通りやすい感じになっとるなって」

手入れが行き届いている貝ノ川棚田にも、避けて通れない大きな課題がありました。

大崎さん:
「もう地区内でも保存会として動いてくれてる方が上は86歳。80代から70代が主なので。 自分ら世代が若手になります」

貝ノ川地区の人口は67人。その半数が65歳以上です。

大崎さん:
「こちらからも見えますけど、川の右左。あそこは以前お米とか、ハウスでニラとか作ってましたけど、耕作しておった方が高齢になってきまして」

ここ4~5年で耕作放棄地が増えているという貝ノ川棚田。

成高先生:
「きょうはどうもありがとうございました」

環境保全、観光振興、進む高齢化…

棚田を取り巻く様々な課題を、お互い協力しながら解決の糸口を探します。

実りの秋。今年も千町の棚田が黄金色に染まりました。

成高先生:
「おはようございます。ありがとうございます」

山路教授:
「いやいやとんでもない。お久しぶりです」

東大の名誉教授が「千町の棚田」に見る先人の知恵とは

千町の棚田がある西条市の出身で農地工学、棚田保全を専門に研究をしている山路永司さん。

成高先生:
「山路先生ね。東大の名誉教授でもあるし、つなぐ棚田遺産の委員長さん。棚田保存にずっと関わってくれてる先生」

イベントやシンポジウムを通じて全国の棚田の保全をサポートしています。

山路さん:
「一応親父が農家なんで、子どもの頃はやってました。だんだん稲が減って地面が増えてくると達成感があります」

山路さんによると、農地統計上では日本全国の農地のうち半分が水田。うち1割が「棚田」で、その4分の1が耕作されていない状態です。

傾斜地にある棚田は、その不便さもあって高齢化が進むなどした場合、耕作放棄されやすく課題となっているのです。

ところで、全国の棚田を知る山路さんには、千町の棚田を形作る石垣はこんな風に見えていました。

山路さん:
「東日本の多くは土、西日本の多くは石垣なんですが、石の場合は80度くらいで積めるので、上にいっぱい面積とれる。手間はかかってるけど、広い面積がとれるというメリットがあります。知恵ですね。魅力ですね。すごいです。」

棚田チーム・越智くん:
「こっちが7でこっちが3なので、次は3対7」

成高先生:
「よっちゃん二重にした?ええよ。もう一回やってみ。誰かが教えんとね、こういうやり方を」

成高先生:
「収量悪いね。この土地には合ってないゆうことなんかな」

山路さん:
「品種のせいもあるかもしれない。暑すぎたでしょ」

今年植えたお米は、東北を中心に作られているひとめぼれ。長く続いた厳しい残暑の影響で、収量は少し減ってしまいましたが、今年も無事、稲木かけができました。

「訪れること、関心をもつことで繋いでいける」山路教授と交わした約束

棚田チーム・高橋くん:
「棚田も人をあつめようと竹灯籠のイベントやったりしてるんですけど、実際難しいっていうのがあるんですよね」

山路教授:
「田んぼ知らない子供たくさんいるから、それはぜひ作ってほしいですね。今こそ」

棚田チーム・越智くん:
「機会をってことですよね」

ふるさとの誇りを未来にという願いを込めて、つなぐ棚田遺産に登録された千町の棚田。

山路教授:
「次の世代に繋ぐというのが一つ、棚田地域の人と外の人を繋ぐという意味があります。住みつくことだけが守ることではないので、訪れること、関心をもつこと、そういうことで繋いでいけるんじゃないかと思います」

米作りへの執念と知恵が結集した千町の棚田。

棚田チーム・越智くん:
「知ってもらう手段はあると思うんで、ちょっとずつでも実行しようと思います」

先人たちの想いを後世につなぐため、棚田チームの活動は続きます。