「育休取れない」フリーランス夫婦、仕事と育児どう両立?地方移住しリモートワーク、出産で一変 #令和の親
企業などに所属せず、個人でクライアントと契約を結び仕事を行う「フリーランス」として働く人が増加しています。
フリーランスの人材紹介サービスなどを展開する「ランサーズ」が行った調査によると、国内のフリーランス人口は、2021年10月時点で1577万人。コロナ感染拡大前の2020年2月に比べ、515万人増加しています。この要因として、DX推進に伴うIT人材への需要増加や、ネットビジネスの拡大、コロナ禍によるリモートワークの普及などが挙げられます。
一方、コロナ禍をきっかけに、地方移住への関心も高まっています。
内閣府が2021年に行った調査によると、東京エリアに住む人で移住に関心がある人は、20代では51.6%と半数以上を占め、次いで30代は46.2%と、特に若い世代の関心が高い傾向です。
しかし、実際に地方へ移住する際のハードルとしては「新しい仕事を探すこと」「年収が下がる」「キャリアを活かせる仕事はない」などが高い割合で挙げられ、仕事や収入が課題となっているようです。
注目される新しい働き方、暮らし方の可能性は-。
「フリーランス」として働きながら「地方移住」を実現した夫婦を取材しました。
2019年に神奈川県から愛媛県へ移住してきた村田さん夫妻。
妻の知世(ともよ)さん(38)はファイナンシャルプランナーの資格を持ち、東京に本社を置く大手フードデリバリー企業から委託を受け営業アシスタントとして働いていました。41歳の夫は、首都圏を中心に様々な企業から依頼を受ける商業デザイナー。
夫婦共にフリーランスで、知世さんがリモートワークとなったのを契機に、もともと興味があった地方への移住を決めたのです。
村田知世さん:
「仕事を辞めて、新しい土地で1から仕事を探すのは厳しいなと思っていて。リモートワークで今の仕事が続けられることが移住のきっかけとなりました」
「自分たちの好きなところに住もう」全国から探した移住先 自治体の支援金が大きな後押しに
“白い砂浜まで徒歩20分で行ける、原発から80km以上離れている、2頭の飼い犬も住める”など、条件を満たす移住先を全国から探し、見つけたのが愛媛県今治市の一軒家でした。
現在、愛媛県では東京23区(在住者又は通勤者)から、今治市や宇和島市など7つの市のいずれかへ移住し、「移住先を生活の本拠とし、移住元での業務を引き続き行う(テレワーク)」など一定の条件を満たす世帯へ、居住する自治体から移住支援金を支給する制度を実施しています。
愛媛県によると、事業が始まった2019年度から2022年度までにこの制度を利用したのは17世帯。2022年度だけでも8世帯が制度を利用していて、増加傾向にあります。
村田さんもテレワークを行う条件を満たし、今治市から100万円の支援金を受けられたことも移住の大きな後押しになったといいます。
今治市で2年間生活し、その後、伊予市に移り住んだ村田さん夫妻。
知世さん:
「今治で近所のおばあちゃんが畑を貸してくれたんです。そこで野菜作りにハマってしまい…今治は海がとってもきれいで好きだったんですが、今度は畑付きの一軒家を探そうと」
今治市から受けた支援金の満額を受けるには5年間の滞在が条件だったため、8割を返還して伊予市に移住。現在、トマトやネギなどの野菜を育てながらの暮らしを満喫しています。
知世さん:
「近所には大きなショッピングモールもあって買い物には不自由しないし、空が広くて景色も最高な町です。旬の野菜を食べ、自然の匂いや季節を感じられるようになりました。関東にいた時よりも人間的で豊かだなと、ここでの暮らしを気に入っています」
待望の第一子が誕生 しかし直面したのは“育休制度”が適用されないフリーランスの現状
そんな村田さん夫妻には、今年3月に第一子が誕生。知世さんは産後2か月で仕事に復帰し、自宅で、夫婦そろって仕事と育児に励んでいます。
知世さん:
「特に仕事復帰当初は体もしんどくて、リモートワークだからこそ続けることができました。あと、授乳ができるのも本当に助かっています。母乳を捨てなければいけないのは正直つらいです」
実際、会社に出勤する母乳育児中の母親たちの多くは、勤務中に授乳ができずに乳腺炎になるのを避けるため、会社のトイレなどで自ら搾乳をし、母乳を捨てざるを得ないという現状があります。
知世さん:
「フリーランスだと産休や育休の手当もなく、仕事に復帰できる保証もない。子育て中の経済的な不安は大きいし、産後2か月で復帰すると職場に言っていました。でも、復帰当日に、勤めていた部署が無くなると言われ、その後、実質失業という形になったんです」
フリーランスで働く女性の59%が「2か月以内に仕事復帰」経済的負担も大きく
フリーランス協会が2017年に行った調査によると、フリーランスや経営者として働く女性の59%が、産後2か月以内に仕事復帰しています。産後2か月以内というのは、母体保護が必要として、会社員などであれば産休取得が義務付けられている期間。
それにも関わらず、6割近いフリーランス女性が早々に仕事復帰する背景には、会社員には支給される「出産手当金」や「育児休業給付金」が受けられないことが大きく影響しています。
現在、国が取得を推進している「育休制度」。会社員の場合、原則として1年間、給料の約3分の2(半年後からは約2分の1)が支給され、その期間の社会保険料も免除されます。
しかし、自営業やフリーランスの場合は適用されず、現状では産前・産後の4か月間に限って、母親の国民年金保険料の納付を免除する制度があるだけです。国民健康保険料も前年の所得に応じて支払いを続けなければならず、収入がストップしていても、出費だけがかさむことになります。
「本当なら育休を取りたかった…」転職活動で新たに選んだ正社員の道
失業をきっかけに、就職活動を始めた知世さん。インターネット上で就職先を探し、ウェブ面談などを重ねた末に、都内の小売業の会社に正社員として採用されました。7月からはリモートワークで、ブランドコンサルティングのサポート業務にあたっています。
知世さん:
「第2子を産みたいと考えた時、次は絶対育休を取りたいと思ったんです。有り難いことに正社員として雇ってもらい、金銭的な条件も良くなりました」
リモートワークでも「一人では無理」 育児との両立には“夫の協力”が不可欠
初めての育児で戸惑う毎日の中、家に夫がいると思うだけで心強かったという知世さん。リモートワークと育児の両立には、夫の協力が不可欠だといいます。
知世さん:
「子どもが泣き止まず仕事に集中できないこともありました。今は、午前中と夜は私が子どもの面倒を見て、午後の勤務時間は、子どもの声も気にならないよう離れた部屋で仕事をしています。その間は夫がミルクを与えるなど、時間できっちり区切って分担することで、ようやくバランスが取れてきたと思います」
また、家事も分担し、お互いが得意な家事を行うようにしています。
「初めてひとつのことを一緒にやるから、完璧でなくてもいい。子育てや家事をする上で、細かいことには口出しはしません。ただ、ずっと一緒にいるとストレスが溜まってしまうこともあります。少しでも1人になる時間を作って、お互いがストレス発散の時間をつくるのも大切だと思います」
求められるのは、雇用形態の違いによる“セーフティネット格差”の是正
国は“働き方改革”をすすめるなか、多様な働き方のひとつとして「フリーランス」を推奨する一方、保護策の整備を進めています。
2023年4月、取引の適正化やハラスメント対策を盛り込んだ「フリーランス新法」が成立し、2024年秋までに施行される見通しです。フリーランスと取引をする企業に対し、仕事と育児や介護との両立に配慮することを義務付けるようになります。
また、2024年1月からは産前・産後4か月分の国民健康保険料の免除が実施されるなど、少しずつ支援制度は広がりつつありますが、出産・育児にあたってのセーフティネット格差の是正はまだまだ不十分だといえます。
知世さんは、個人事業主レベルのフリーランスの所得に関する制度は比較的整っているとする一方、かつての知世さんのようなフリーランスの出産・育児に対する制度は不十分だと訴えます。
「出産手当金や育休などもっと支援制度があると良いと思います。厚労省は雇用保険で会社員しか守っていないので、しっかりと税金を納めて労働しているフリーランスも“労働者”として支援することを願っています」
(取材・文 / 津野紗也佳)
この記事は、南海放送報道部とYahoo!ニュースの共同連携企画です。