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「搾れるけど搾れない」借金返済にエサ代高騰 生産抑制が追い打ち 三重苦の酪農家 北海道

2024年1月13日 8:30
「搾れるけど搾れない」借金返済にエサ代高騰 生産抑制が追い打ち 三重苦の酪農家 北海道

北海道の酪農家は、牛乳の消費の落ち込みで生産の抑制に悩まされています。

将来をみすえ規模を拡大した酪農家は、重くのしかかる返済に加えエサ代の高騰も重なり、三重苦にあえいでいます。

大規模酪農家の実態を追いました。

5億円かけて規模拡大も生産抑制

酪農が盛んな中標津町の牧場です。

国見隆一さんは5億円もの費用をかけて規模を2倍に拡大しました。

しかし、搾乳量が抑制される中、今月から返済が始まる予定で不安を募らせています。

(国見隆一さん)「(牛を)増頭して乳量を搾って施設に投資して未来図を描いてやってきたが、生産抑制ではしごを外され(経営は)厳しい」

国見さんはオランダから最新の設備を導入しました。

(国見隆一さん)「搾乳ロボットになります」

乳房が張った牛が自ら入ってくる搾乳ロボット。

洗浄から搾乳まで全て自動で、人の手がほとんどかからない優れモノです。

しかし、コロナ禍で落ち込んだ需要が戻らず、生産の抑制が課せられたため、計画通り収入を増やせないのが現状です。

(国見隆一さん)「2億円くらいが国で残りの3億円を(20年で)自分で払う。いまの状況で3億円を払っていくのは厳しい。頭数(を増やして)満足に搾れればそんなに苦しくはないが…」


両親の負担を減らそうと大規模化を決断

牧場と家族の将来を考え、国見さんが大規模化を決断したのは4年前でした。

2019年、国見さんは牛70頭を手作業で搾乳していました。

高齢になる両親の負担を軽減したいと、設備への投資を考え始めたといいます。

(国見隆一さん)「(両親が)さすがにもう10年働けるかどうか。今まで頑張ってきているから老後はゆっくりさせてあげたい」

子牛の世話をするのは母親の祐子さん。

重機を使った作業は父親の正則さんが手伝います。

(父親 正則さん)「自分なり奥さんなり息子なりが体調崩したら(牧場は)アウトさ。どんなに熱があろうが風邪をひこうが来なきゃならない。「今日休みます」は無し。盆正月も無し」

コロナ禍で牛乳の消費低迷 エサ代も高騰

この時期は「どんどん搾れ」といわれたコロナ禍の直前。

後継者不足などから離農者が増加し、国も大規模化を推進していました。

国見さんは酪農の未来も見据え決断したのです。

しかしその直後、新型コロナの影響で学校給食や外食産業で牛乳の需要が落ち込みました。

牧場を拡大した後もさらに不運に見舞われます。

ロシアのウクライナ侵攻でエサ代など物価が高騰。

いまも高止まりの状態です。

父親の正則さんは経営への影響は大きいといいます。

(父親 正則さん)「(エサ代は)自分が経営していた時代より倍近い。乳価も上がっているが釣り合いはまだまだ」

さらに輪をかけたのが、牧場を拡大する前を基準に課せられた生産の抑制でした。

生産抑制を課せられ“三重苦”に悩む


事前に計画したのは採算ラインの年間2千トンでしたが、割り当てられたのは半分の1千トンでした。

昨年度は努力したものの600トンオーバーしました。

今年度はその分をさらに減らされ、年間わずか400トンしか割り当てられなかったのです。

割り当てを守れなければ罰則も示されているという国見さん。

増やした牛を売って搾乳量を抑えていますが、限界を超えているといいます。

収入を増やそうと和牛を競りに出す

この日は生後2か月の牛を競りに送り出しましたが、販売価格にも逆風が吹いています。

(国見隆一さん)「搾れない分、牛の販売で収入を得たいが思ったように値段が上がらない。最近は20~30万円。良い時なら50万~70万円くらいだった」

国見さんは収入を増やそうと、価格が低い乳牛より比較的高値の食肉用の和牛を競りに多く出しています。

中標津町の家畜市場です。

週に1回の一般市場には和牛や乳牛が根室地区から集まります。

和牛を競りにかける国見さんも市場に初めて足を運びました。

心配そうに見守ります。

競り値はおよそ30万円とほぼ予想通りの価格でした。

(国見隆一さん)「30万近くだったので良かった。搾れない状況なので黒毛和牛の販売にみんながシフトして肉の値段で稼がなければならない」

一方で、希望する値がつかない場合も少なくありません。

(酪農家)「20万後半はいくと思ったが22万だったので。和牛受精卵の価格を考えると原価割れする牛もいる」

7人家族の酪農家 家計への不安募る

7人家族の国見さん。

3人の子どもたちは酪農の仕事にあこがれを持っています。

(長女 心陽ちゃん)「(パパの)搾る姿がかっこいい。心陽も手伝いたいと思う」

助産師として共働きしながら家計を預かる妻の真生さんは、不安は大きいといいます。

(妻 真生さん)「残り物で全部やりくりしています。返済があるから(収益が)マイナスになるので家計としても困っています」

酪農家を悩ませてきた生産抑制は、4月から基本解除されることが決まりました。

「搾れるけど搾れない」厳しい生産抑制が続く

しかし、牧場の規模を拡大して間もない国見さんは希望する生産量の半分しか割り当てられず、変わらず抑制が続くといいます。

(国見隆一さん)「搾れるけど搾っちゃダメというのが足かせになっている。酪農を始めて20年になるが、経験したことがないくらい厳しいです」

家族と酪農を守ろうと規模を拡大したがゆえに苦悩する国見さん。

国を支える酪農の未来は見えてきません。