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【特集】「国語の朗読なんて地獄」特別視せず正しい理解を きつ音の悩みない社会に【長野】 

2023年11月21日 12:00
【特集】「国語の朗読なんて地獄」特別視せず正しい理解を きつ音の悩みない社会に【長野】 

言いたいことが頭に浮かんでいるのに言葉をスムーズに言い表せない「きつ音」。人口のおよそ1%日本には100万人がいるとされます。その理解を深めようとさまざまな模索が続いています。

「中学3年生の秋、一人で喉を殴り続けたあの日、未来が真っ暗闇に思えたあの日の翌日。てつおは濡れた枕の冷たさで目が覚めた」

奥倉徹士さん38歳。物心ついた時から「きつ音」でした。学校の授業や友達関係で悩み声が出なくなればとのどを殴った日の出来事を物語にしました。

聞いているのは同じきつ音の仲間です。

奥倉徹士さん
「国語の朗読なんて地獄で、みんなの何倍も時間がかかる。友達と話していてもどもりそうになると話すのをやめる」

物語の名前は「弱みが希望に変わる日」。

奥倉さんは小海町のパン職人です。高校生の頃は保育士になることが夢でしたがきつ音を理由にあきらめました。そこで選んだのがもう一つ好きだった、パンの道。30代半ばに差し掛かった時きつ音に悩む仲間と交流を深めたいと考えるようになりました。

「ヤッホー」

そこで立ち上げたのが任意団体「吃音者のオアシス イーバ」。「いい場所」に由来しています。小海町の松原湖で開いた初めての交流会。千曲市の清水源太さんと名古屋市の穴井耕之介さんが参加しました。2人とも恥ずかしがり屋の20代です。そんな二人の心を解きほぐそうと用意したのが小中学校時代には地獄だと感じていたという「朗読」でした。

奥倉徹士さん
「てつお、お前の吃音はたぶん治らないぞ。ずっと吃音で苦しみ、傷つく。なぜかというとお前には吃音が必要だからだ、信じられないかもしれないけど、きつ音で良かったと思える日が必ず来る。」

奥倉さんの朗読で心の扉が少し開きました。

穴井耕之介さん
「学校の卒業式の練習の時、自分も、修学旅行の時、一人一人大きな声で、楽しかった修学旅行とか、あれが今までの中で一番大変で。自分もこうしました。わかるわーそれ。やっぱりきつ音が自分のしたいこととか挑戦したいことが吃音を理由に避けてこれまでずっと来ちゃって、ずっと後悔していて。でも後悔していたけど、これからの人生、後悔しないように。難しいけど」

きつ音は2歳から5歳の間におよそ100人に5人の割合で発症するとされています。その多くは自然になくなりますが人口の1%、およそ100万人はきつ音が続きます。

原因は特定されておらず確立された治療法はないとされています。親のしつけや家庭環境、子育ての愛情不足などのせいではありません。

「こんにちは。ようこそ!きつ音広場キラキラままやきラジオに足を運んでくださって、ありがとうございます」

東御市や上田市などがエリアのFMラジオ局。毎週水曜日にはきつ音がテーマの番組を放送しています。

「吃音についての大切な情報がありました。それは、どもらずに言おうとすればするほど余計に言いにくくなってしまうという、きつ音の特徴です。」

番組のパーソナリティは病院の言語聴覚士。東御市民病院「ことばの外来」に勤務する餅田亜希子さんです。餅田さんの仕事はきつ音を治すことではありません。周囲の人たちにどのように正しくきつ音を理解してもらうのか、当事者や家族と話し合っています。

そんな餅田さんが願うこと。

それは少しでもきつ音に関心があるだけで救われる心があるということ。

東御市民病院 言語聴覚士 餅田亜希子さん
「私たちみたいに、すらすら言えなくてちょっと大変かなってつい思ってしまうかもしれないけど、でも吃音のある人にとっては、それが生まれ持った自然に出てくる自然な話し方、その話し方で言えた方が実は楽な話し方なんだよっていうことを知っていただきたいなと思います」

教師 髙山祐二郎さん
「どこかでただやっぱりどもりたくないし、きつ音をなんとかしたいという思いはぬぐえず、(きつ音の一つ)連発の話し方がそんなのきれいごとだよなっていう自分もどこかにいて、やっぱり何とかしたいよ、って思いがあって」

髙山祐二郎さんは学校の教員です。餅田さんと、時々こうして本音で話し合う時間を持っています。

教師 髙山祐二郎さん
「言葉が出てこない、だから授業にも出たくない、だから荒れる、さぼる、とにかくそういう悪循環の中学時代で、必死に伝えられないもどかしさを何とかしようとあがいていたと思います」

きつ音で悩んだ経験。あがいた日々。率直な言葉で教員や子どもたちに伝え続けています。

教師 髙山祐二郎さん
「きつ音は出さない方がいい。だから何とか直そうともしたし、どもらないように話そうってすごく頑張ってきた。でも頑張れば頑張るほど声は出にくくなって悪化していく」

きつ音に対する感じ方や捉え方は1人1人違う。だからこそ「違いを認め合いたい」。髙山さんは願っています。

教師 髙山祐二郎さん
「この話し方は嫌なんだ、俺は何とかしたい、俺は直したいって思う、この気持ちも大事にしたいし、どもりたくない気持ちが痛いほどわかるからこそ、その気持ちは気持ちで大事にしたうえで、きつ音とどう付き合っていくのか、それをやっぱり一緒に考えていきたいよねって」

本当はから揚げを食べたかったのにどもってしまうからと注文できなかった、学生時代。積み重ねた小さな妥協。心の声はいま、同じ悩みを抱える人の胸に響きます。

教師 髙山祐二郎さん
「普通でありたい、そうさせているものって何だろうなって。きつ音ってまだ認知度が低いし、どこかで恥ずかしい気持ちも隠したい気持ちもある、けど当たり前にみんなが知っていて、みんなが認めてくれる中では、もしかしたらきつ音って、困りごとにもならないし、自分らしくいられるかもしれない」