「泣きながら授乳」救ってくれた産後ケア 自治体も助成「利用料2時間9000円→500円」 利用女性「”助けて”と言ってよかった」
皆さんは「産後ケア」をご存じでしょうか?
出産後、赤ちゃんの育児に悩みやストレスを抱えるお母さんたちをサポートするものです。
取材のきっかけは産後ケアに助けられたという女性からのメッセージでした。
先月。YBCに1通のメッセージが寄せられました。それは、育児に関する切実な訴えでした。
メッセージ
「『死んでたまるか、この子を残して』と何度も思い、泣きながら授乳やお世話をしていたこともたくさんありました。
そんな時に思い出したのが上山市の産後ケアサービスのことです」
「こんにちは」
メッセージをくれたのは上山市の遠藤直子さん(33)。ことし7月に長女・璃緒奈ちゃんを出産しました。
遠藤さん「顔を見るとにこっとする時があるのでその時がたまらない」
一方で、育児の過酷さは想像をはるかに超えていました。
遠藤さん
「話に聞いていた2,3時間おきのミルクも最初飲むのに1時間以上掛かったり、その後げっぷするにもまた20分掛かり休む暇ない、寝る暇ない2,3時間かとやってみてわかった」
授乳後、璃緒奈ちゃんが落ち着いているわずかな時間で家事を行います。
「ちょっと待ってね」
「そろそろやばいか、ちょっと待って、あと炒めさせて。お腹空いたの?ごめんごめん」
夫も積極的に育児に協力してくれますが、仕事に行っている間は10時間以上、1人で璃緒奈ちゃんの世話をします。
遠藤さん
「朝が来てお昼まで長いなと思って、夕方旦那さんが帰ってくるまであと何時間だと指折り数えたり」
初めての育児に不安も尽きません。
遠藤さんの育児日記より
「私は最低な母親でないだろうか。自信がなくなったり何度もごめんねと思ったり私はこれで合っているのか大丈夫なのかすごく不安になる」
遠藤さん
「1か月検診のときに助産師さんに、出産を経たお母さんたちが命をなくす一番の原因は自殺なんだと初めて聞いて、うわっと思ったのと、でも分かると思って」
心身ともに余裕がない毎日で追い詰められる中、妊娠中に市役所からもらった資料の中に産後ケアの記載があったのを思い出しました。
上山市では市外の10施設と連携し、産後ケアの利用料を助成しています。
出産からおよそ2か月後。遠藤さんは「産後ケア」のサポートを受けてみることに決めました。
この日、遠藤さんが訪れたのは山辺町にある助産院です。
「おはようございます」
「おはよう、りおなちゃん、お久しぶり」
遠藤さんがこちらを利用するのは3回目です。ベテランの助産師が赤ちゃんの世話をしたり、育児の相談に乗ってくれたりします。
遠藤さん
「頭をかくんですけど、後ろがはげて」
助産師
「髪の毛はいったん抜けるから大丈夫。気にしなくていい」
午前10時から午後5時まで7時間。お母さんが一息付ける時間を作ります。
遠藤さん
「おっぱい詰まった時って全身ストレッチしたほうがいいですか?」
助産師
「肩を回すとかしたほうがいいね」
遠藤さん
「昼寝させてもらったり一緒にお話しさせてもらったり、実家に帰ってきたかのようにゆっくりさせてもらっている」
そして、もう1つうれしいのが手作りの昼食。
遠藤さん
「おいしい。すごい、旦那さんに自慢しよ。忙しい時は大体卵かけご飯だったのでご飯がゆっくり食べられるのが幸せすぎる」
助産師
「いっぱいある、おかわり食べて」
この助産院の場合、産後ケアの料金は昼食付で1回1万6000円ですが、上山市の助成を使うと1回2000円で利用できます。
助産院nana代表・東海林みゆきさん
「自分がいっぱいいっぱいだったら赤ちゃんに愛情を注ぐのがいきつかない。
自分を大事にして自分が大事にされて、そこから赤ちゃんを大事にする気持ちになれる」
こうした産後ケアはサポートの種類に違いがあるものの、山形県内すべての市町村で実施しています。
上山市の場合は出産から1年未満の母親を対象に「日帰り型」や「宿泊型」のほか、マッサージなどが受けられる「乳房ケア」を行う事業者と連携しています。また、上山市では今年度から助成の対象として新たに「訪問型」の産後ケアを追加しました。
上山市にある遠藤さんの自宅。
「こんにちわー」
この日利用したのは訪問型の産後ケアサービスです。自宅に来るのは看護師や保健師の資格を持つスタッフです。
「きょうはどうしますか?」
「料理お願いします」
赤ちゃんの世話だけでなく料理や洗濯、掃除といった家事もしてくれます。
通常料金は交通費込みで2時間9000円ですが、上山市の助成で利用者の自己負担は1回当たり500円です。
カモミール 渡辺比呂子さん
「いま年間100件くらいは訪問させてもらっているのでニーズはあるのかなと」
家事をしてくれている間はゆっくりと家族の時間が過ごせます。
夫・僚太さん
「毎日生き生きしていて、きょうはどこどこ行くんだとか、きょうはカモミールさんに料理を作ってもらうんだとか
(妻が)出産する前と同じくらい元気になった」
冷蔵庫にある食材で7品の料理が完成しました。
「いただきます」
最初は、人の手を借りることに罪悪感があったという遠藤さんですが…。
遠藤さん
「助けてって言ってよかったなと思いました。元気になれたし育児にも前向きに取り組むようになれたし、子どものことも余計にかわいいと思う余裕ができた。罪悪感を感謝にしていけばいいと今回思った」
人の手を借りることでより赤ちゃんに愛情が向けられる。それが産後ケアです。