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高齢者2人が犠牲 鶴岡市の土砂崩れから1年 救助された男性が語る「大みそかの異変」①

2023年12月25日 18:14
高齢者2人が犠牲 鶴岡市の土砂崩れから1年 救助された男性が語る「大みそかの異変」①

去年の大みそかに山形県鶴岡市で発生し、高齢夫婦2人が犠牲となった土砂崩れからまもなく1年が経ちます。YBCでは3回にわたって土砂崩れを考えるシリーズ「大みそかの異変」をお伝えします。初回は現場から助け出された男性の1年に焦点を当てます。

あの日から、まもなく1年。何も無くなった現場を見つめる男性がいます。かつて、ここに自宅があり、緑がありました。

加藤省一さん「坂を上がって一番手前が私の家なんです。すぐ隣が亡くなった高齢夫婦。全部撤去されましたもんね…」

加藤省一さん(77)。去年の大みそか、加藤さんの家は突如、土砂に飲み込まれました。親しかった隣人を失いました。

加藤さん「やっぱり隣人が亡くなったというのがものすごく悔しい…自分は生きている…。やっぱり悲しいですよ…」

第一通報者「はぁはぁ…これどうなっとんねん」

鶴岡市西目で発生した土砂崩れ。標高およそ50メートルの山が突如崩れ、住宅2棟を含む17棟の建物を土砂が飲み込みました。
加藤省一さんは当時、2階寝室で就寝中でした。

加藤さん「お正月を迎える準備が終わり、寝たところだった。ゴーっていう音がした後、バリバリという音がした。木材が頭をかすった。上を見たら空が見える…なんだこれ」

冷たい雨に体を濡らしながら、加藤さんは崩れたがれきの中で救助を待ちました。そして2時間後ー。

加藤さん「ここーって!そうしたら『確認!』と。ほっとした。ほっとしたけど、寒さで震えがきちゃって。搬送先の医者からもう少し遅かったら心停止していたと言われた」

手当てを受ける中、気がかりだったのは隣人の高齢夫婦の安否でした。

加藤さん「助けを待つ中、高齢夫婦を呼んだのよね。30分ぐらい。でも返事がない…、おかしいなぁと。逃げたのかな、ならいいのだけど」

行方不明となった高齢夫婦の捜索が夜を徹して続けられました。
土砂崩れから3日後ー。

記者リポート「時刻は8時45分です。二人が見つかったとみられる現場にブルーシートが張られました」

高齢夫婦は住宅近くで、深さ3メートルほど下の土の中から発見され、 その後、死亡が確認されました。
山はなぜ崩れたのでしょうか。
土砂崩れの要因を県内の専門家は、「現場の地質に特徴があった」と指摘します。

山形大学理学部(地質学)本山功教授「山そのものの岩盤が強く風化していた。そして脆くなっていた」

そのほかにも要因があると指摘する専門家もいます。現場の山は1972年の時点では全体が木で覆われていますが、その4年後には山の南側が大きく削られ、土がむき出しになっています。鶴岡市などによりますと、現場では1974年から10年間にわたり、採石に伴う掘削が行われていました。この掘削で、山際は90メートルほど後退し、元々15度だった傾斜が40度ほどの急な斜面へと変わりました。

山形大学 八木浩司名誉教授「元々一回滑り出すとほとんど止まらないような土になっていた。そこを掘削してしまった。ただ50年前はそういう意識がないですから」

山はなぜ崩れたのかー。2人の専門家に共通する主な見解は3点です。

▼風化してもろくなっていた地盤が50年前の掘削で不安定な状態となっていたこと、▼50年の年月で斜面のひずみがたまっていったこと、▼そこに去年、記録的な大雪が降り、圧力が加わったこと。それらが重なり、土砂崩れにつながったとみています。

土砂崩れは長期にわたって住民の生活に影響を与えました。現場周辺の4世帯13人(自宅を失った加藤さんを除く)約1年間の避難生活を余儀なくされる
自宅を失った加藤さん。

加藤さん「おじゃましまーす」

加藤さんは市営住宅に移り住んみました。

加藤さん「西目には戻らない…、仲が良い夫婦が犠牲になったじゃないですか。自分はもう戻れない…」

6月。加藤さんは半年ぶりに現場を訪れました。

加藤さん「夫婦は花が好きでいっぱい植えているんですよ。 それに似ている花を買ってきた」
加藤さん「ちょっとごめんの…。(込み上げてくるものがありましたか?)やっぱりありました。」

皆川治市長「本日午後5時をもって避難指示を解除することといたします」

現場では再発防止の対策工事が進み、11月下旬には4世帯13人に出されていた避難指示が解除。12月22日には現場周辺の道路の通行止めが解除されました。
土砂崩れの発生からまもなく1年ー。私たちは再び加藤さんと現場に向かいました。

加藤さん「やっぱりすごいよな…本当に向こうなんか崩れないだろうかと不安に思う」

加藤さんや亡くなった高齢夫婦の家は全て撤去され、重機が土を削っていました。
希望を持って前に進みたいという加藤さん。しかしー。

加藤さん「ことしは正月が来ると思ったが…無理みたいな感じがしますね」

大みそかの大惨事からまもなく1年ー。避難指示が解除され、復旧工事が進む一方で、いまだに、被災者の傷は癒えていません。