【特集】「馬の一生に寄り添う」開業から半年…“馬専門”獣医師の仕事とは? 山梨・北杜市
今年3月、北杜市に馬専門のクリニックが開業しました。開業から半年、馬の生と死を見つめる獣医師の診療の現場を取材しました。
今年3月、北杜市小淵沢町に開業した「小淵沢ホースクリニック」。
馬に特化した健康管理やデンタルケアを行います。院長を務めるのは水上貴裕さんです。
小淵沢ホースクリニック 水上貴裕 院長
「全部で年間2000頭くらいの馬を診ている」
水上さんは2009年、鳥取大学の獣医学部を卒業。動物診療所に就職後、イギリスに渡り最先端の馬治療の技術を学び、今年3月「馬のまち」小淵沢にやってきました。
小淵沢ホースクリニック 水上貴裕 院長
「馬は寒さには強いが暑さにすごく弱い生き物なので、標高1000mから1100mのこの土地は馬にとっては楽園だと思う」
この日、水上さんのもとへ市内にある乗馬施設の馬が歯の検診を受けに訪れました。
小淵沢ホースクリニック 水上貴裕 院長
「馬が近くにいる小淵沢だからこそ、歩いて来て歩いて帰って行く。それは非常にイレギュラーなことなんですけど、僕も面白いなと思っていたんですけど。基本は往診で99%は自分の車で行って出向いてるという形になります」
治療の前にまず行うのは鎮静剤の注射。繊細な馬に安全に治療を受けてもらうための大事な作業です。
小淵沢ホースクリニック 水上貴裕 院長
「1分あったら大体効いてくる。興奮していると効きにくかったりもする」
馬がリラックスした状態になったところで歯の隅々まで観察し、ていねいにケアを行います。
小淵沢ホースクリニック 水上貴裕 院長
「馬というのはそもそもが草食動物というどちらかというと追われる立場の動物で、非常に怖がりだったり警戒心が強かったりするので。近くに行くけどそこまで近づきすぎず、馬が僕を認識して安心してもらってから処置することは常々心がけている」
豊富な知識と経験に基づき治療をする水上さんに、オーナーも信頼をおいています。
馬のオーナー は
「長年馬のことをされているので、すごく安心できるというか信頼できる方です。馬が健康でないと人間も幸せではないので、何かあったらすぐに先生に頼れるという」
午後、水上さんは鼻血と貧血の症状を訴え、静岡県から療養に来ている馬・クッキーの元へ向かいました。超音波診断装置で体の内部を診ます。
小淵沢ホースクリニック 水上貴裕 院長
「初めのころはかなり貧血もひどかったので、ちゃんと生きられるかどうかのラインだったけど。経過を追ってきたら気候もいいしクッキーも頑張ってくれてたので、かなりまともな状態になってきた。本来の乗るということも復帰してもらえたらなと思う。なので今日はすごくうれしいことでした」
クッキーの回復ぶりに嬉しさをのぞかせる水上さん。しかし、現実は元気になっていく馬だけではありません。
小淵沢ホースクリニック 水上貴裕 院長
「夜中にかかってきて、本当に苦しんで死にそうな馬を診に行くということもある。その馬をどういう風に生かしてあげる、あるいはどう苦しませないようにするかを考えると、厳しい決断をしっかりとオーナーさんに分かりやすいように伝えていく仕事があるのは、きつい仕事でもあるけど使命感を持ってやっている」
馬にとっても一頭ずつ歴史があり、物語がある。水上さんはその物語を守ることが、自分の務めだと感じています。
小淵沢ホースクリニック 水上貴裕 院長
「人生というか、馬の一生に寄り添っていく。普段は関わっていない馬であっても、それを飼っている人にとっては歴史が長い時間があるので、別れとかそういうことになると感慨深いものがある」
馬と、馬と暮らす人が健康で豊かで幸せであってほしい。水上さんの願いです。