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実は10万人に2人の確率で心停止…「消防士として当然のこと」愛媛マラソンでランナーの命を救う

2024年3月9日 18:38
実は10万人に2人の確率で心停止…「消防士として当然のこと」愛媛マラソンでランナーの命を救う
感謝状贈呈式

3月6日、新居浜市南消防署に勤務する消防士、髙橋昇平さん(32)、菊川淳さん(23)、福山草生さん(23)の3人に、愛媛マラソン実行委員会の池本俊英委員長らから感謝状が贈られました。

「消防士として当然のことをしただけにもかかわらず、表彰していただき感謝申し上げます」(髙橋さん)

2月11日に開催され、1万人のランナーが伊予路を駆け抜けた第61回愛媛マラソン。コロナ前と変わらないランナーや観客の笑顔と歓声が戻ってきた大会となりました。

しかしその裏では、文字通り命を懸けた事態が発生していたのです。

「問いかけに反応がなかった」

愛媛マラソンの制限時間の午後4時。

この時間の城山公園のフィニッシュ地点では、ギリギリでゴールができた喜びで安堵するランナーや、無念のタイムアップに天を仰ぐ人など、様々な人間模様が垣間見える時間帯です。

髙橋さんら3人は、一般ランナーとしてこの愛媛マラソンに参加していました。

午後4時前、ゴールまであと100mほどと迫ったところで、近くを走っていた男性ランナー(65)が転倒。3人は「様子がおかしい」と思いすぐに駆け寄ります。

「心臓の動きや脈を確認しました。『大丈夫ですか』と呼びかけても反応がなかったです」

心肺停止―。

一刻を争う事態に、3人はすぐに心臓マッサージなど救命措置を開始。同時に、近くにいた運営スタッフらにAEDを持ってくるよう要請しました。200mほど離れた救護本部から医師らが到着するまでの約3分間、髙橋さんたちの文字通り“懸命”の心肺蘇生が続きました。

その後、医師らでつくる救護本部チームに措置を引き継ぎました。意識が戻ったのか、心拍が戻ったのか判然としないまま、倒れた男性ランナーは救急車で松山市内の病院へと緊急搬送されていきました。

“皆さんがいなければ私はここにいなかった”

「これが最後の愛媛マラソンと思って参加したのですが…」

新居浜市での感謝状贈呈式で1人の男性があいさつをしました。フィニッシュ地点で心肺停止となった65歳の男性ランナーです。3人や救護チームの措置により一命を取り留め、後遺症なども残っていないとのこと。

「主催者の方から聞いたんですけど、数秒以内に対応していただいたと聞きました。おかげで体は異常なくすごしております。皆さんがいなければ私はここにいませんでした。助けていただいたきましたので、これからは体を大事にして過ごしていきます。本当にありがとうございました」(男性ランナー)

男性ランナーは感謝の言葉を直接伝えるため、今回の感謝状贈呈式に出席しました。

髙橋さんは「お元気な姿を見ることができてうれしい」と語る一方、その後の報道陣からのインタビューでも「消防士として当然のことをしたまで」と繰り返していました。

心肺停止は10万人に2人の確率

国士舘大学が行った調査によると、国内の市民マラソン89大会を調査した結果、ランナーの心肺停止の発生率は10万人に2.07人の確率だと言います(※1)。

これを毎年1万人が出走する愛媛マラソンに置き換えると、10年に2回、5年に1回発生することを意味します。愛媛マラソンでも、医師や看護師が走る「救命ランナー」の増員など、ランナーの安心安全を第一に救護体制を構築していますが、一般ランナーの“気づき”も重要になっています。

今回、救命を行った髙橋さんは「愛媛マラソンのような大きな大会では、どうしてもちょっと無理してしまいがちなんですけど、少しでも自分の体調に異変を感じたら、無理せず休憩をはさむなり安全に走ってもらいたいです」と呼びかけていました。
(報道部 植田 竜一)


※1「マラソン大会における心停止の発生頻度」(白川透、田中秀治、喜熨斗智也、高橋宏幸、後藤奏、2013、国士舘大学)