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都市が"場"から"メディア"になるためのカギ【SENSORS】

2023年10月30日 21:10
都市が"場"から"メディア"になるためのカギ【SENSORS】

オフィス街として知られる東京・虎ノ門に2023年10月6日、最新テクノロジーやエンターテインメント、文化・芸術などの新たな情報発信の場「TOKYO NODE」が開業した。「デジタルツイン(オンライン上に現実空間を再現したもの)」や「メタバース」といったデジタル技術が発達する中、テクノロジーやコンテンツの力によって街そのものを革新し、新たな“メディア“として捉える試みが始まっている。都市を起点に、新たなエンタメに挑戦する起業家やクリエイターたちに話を聞いた。

■ バーチャルコンテンツがリアルな都市の呼び水に

国内外でリアル脱出ゲームやイマーシブシアター(参加型・体験型演劇作品の総称)の人気公演を多数手掛けるコンテンツディレクターのきだ さおりさんは「都市をメディアにするのが一番面白いのではないか」とその可能性を語る。

「これまでリアルの場でのエンタメを作ってきましたが、コロナ禍を経てオンラインエンタメを手掛けるようになり、世界に向けてコンテンツを発信する可能性がより広がったと感じています。コンテンツ化する上で、虎ノ門という土地は、すごく面白い舞台だと思います」

「たとえば、虎ノ門を舞台に恋愛ゲームをつくったときに、ばりばり働く人やアートとビジネスを股に掛けて働く人、いわゆる“港区女子”みたいな人など、いろんなキャラクターが想像できます。それを世界に届けることで、ゲーム『龍が如く』をやった人が(舞台となった)歌舞伎町に行きたいと思うように、さまざまな国の人たちが、虎ノ門へ行きたいと思うのではないでしょうか。さらに、ゲーム内での体験を、リアルの都市空間でも再現できる状態を作っておくことで、街そのものがメディアとなり、人々を集めることができるのではないかと思っています」

さらに、バーチャルとリアルの世界を行き来することが当たり前になると話すのは、きゃりーぱみゅぱみゅさんらが所属するアソビシステム代表の中川悠介さんだ。

「昔は雑誌を見て、どこかに行きたいという気持ちが生まれましたが、時代は変わりました。きゃりーぱみゅぱみゅのブレイクのきっかけはYouTube、新しい学校のリーダーズのブレイクはTikTokがきっかけです。YouTubeやTikTokを見た世界中の人たちが、実際にライブ会場へ来てくれました。つまり、これからはバーチャルの世界とリアルな世界を行き来することが当たり前になると思います。バーチャル・リアルの双方をつなげることで、街に来る理由ができて、ストリートが盛り上がり、そこから新しいカルチャーが生まれてくるのではないでしょうか」

■ 都市空間にデジタル技術を重ねる

「TOKYO NODE」の企画を担当する森ビル株式会社の杉山央さんは、バーチャルの世界で完結してしまうものではなく、「現実の延長にバーチャルな世界があること」が面白さの源泉ではないかと考える。

「都市の中にコンテンツを入れることの楽しさは、日常の延長に“ファンタジー”があることではないかと思います。コンピューターやスマートフォンの中だけだと、完全なるフィクションで終わってしまうのですが、現実世界の都市で起きる、日常の延長の中で起きるからこそ面白いと感じます」

最新テクノロジーを活用したさまざまなプロジェクトのコンサルティングを手掛けるHEART CATCH代表の西村真里子さんは、杉山さんの意見に同意した上で、街にある余白の重要性を指摘する。

「先程ストリートからカルチャーが生まれるという話もありましたが、踊ったり、歌ったり、何かを売ってみたり、街の中で何かできそうな余白を感じられることが大事な気がします。そういう意味では、今の虎ノ門はビジネスパーソン向けで堅いイメージが強くて、その中でどう余白を作っていくか、興味もあります」

その一つの解がデジタル技術の活用だと杉山さんは考える。

「物理的には余白を作ることが難しかったとしても、デジタルの世界でレイヤー(層)を重ねることで、実験的なことや、新しい表現が生まれるかもしれません。街を、クリエイターに解放することに新たな可能性があるのではないかと思います」

杉山さんとともに虎ノ門エリアの「デジタルツイン」構想を推進してきた株式会社バスキュール代表の朴正義さんも、デジタル上で「都市をプロトタイピングすること」が街の面白さをつくると期待する。

「たとえば、物理空間上で実験的な展示を1ヶ月間するといったら、気軽にはできず、相当な覚悟が必要になります。それが、デジタルツイン上でなら、新たな試みとしてトライできます。最初から成功が保証されているものではない、実験的なことに挑戦できるのが、面白い点です」

■大事なのは、街の特性は何かを問うこと

デジタルの活用によって、街の可能性はさらに拓かれる。だからこそ、街を舞台にした作品をつくる上で「その街の特性は何か」が大事と話すのは、ストーリーレーベルとして演劇などで、さまざまな物語を企画・制作するノーミーツの広屋佑規さんだ。

「街を舞台に何か作品を作ろうとするとき、その街の特性は何なのかを出発点に考えていく必要があります。たとえば浅草だったら古風な町並みという特性があるように、この虎ノ門という街に、どんな色を付けていくと良いのか」

その一つとしてAR(拡張現実)の可能性を見出す。

「街のエンタメを作るときに、ARを街中で活用しましょうみたいな話ってよくあるんですけど、ARが似合う街、似合わない街ってあると思います。『TOKYO NODE』ではARを大々的に打ち出していて、これだけ大きく打ち出せること自体が特徴の一つだと思います。虎ノ門の街全体が『AR企画最大のまち』のような存在になれば、コンテンツの作り手側も、その切り口に沿って面白い企画を考えて提案できるのではないでしょうか」

デジタル技術とリアルな都市空間の組み合わせは、新たな文化やエンターテインメントのありかたを生み出す大きな可能性を秘めていると言える。いま、虎ノ門はその最先端の場所になろうとしているのだ。テクノロジーと都市の融合によって、人々の生活や文化がさらに豊かになることが期待される。