辻萬長さん 腎盂がんのため死去 77歳
腎盂(じんう)がんの治療に専念していた俳優の辻萬長(つじかずなが)さん(77)が、今月18日に亡くなったことを所属事務所が発表しました。
辻さんは先月、腎盂がんの治療に専念するため、来年放送予定の大河ドラマを降板することを発表していました。葬儀・告別式は、ご家族の意向により家族葬にて執り行われたということです。
以下、所属事務所ワタナベエンターテインメントの代表取締役社長・渡辺ミキさんのコメントです。
辻萬長は、数々の名作演劇作品の柱となった、かけがえのない俳優でした。
とりわけ、日本を代表する劇作家・井上ひさし氏の作品への貢献は多大なるものでした。
2010年の井上ひさし氏逝去後も、俳優として、作家を直接知らぬ観客や演劇人達に、井上氏の遺志を伝え続けました。そして、役を通して、作品を重層的に表現することが出来る、唯一無二の演技力を持つ俳優でした。それは時として、作家自身が意図をせぬ面にまで及び、作品をより高みへと押し上げ、支えたのです。
辻萬長は、作品づくりにはなくてはならない存在で、多くの作家や演出家に愛され、頼られました。
演出家・蜷川幸雄氏の作品にも数々出演し、2016年の蜷川氏の葬儀には、「自分は稽古を続け、蜷川作品をより深める」と稽古場を離れず、最後の蜷川演出作品『尺には尺を』を力強く作り上げました。
演劇における遺作となったのは、2020年7月公演の三谷幸喜氏作・演出による『大地』です。
井上ひさし氏達からバトンを受け取った世代の三谷幸喜氏が辻萬長に当て書きした役は、辻の俳優人生のラストに相応しい働きをしました。コロナ禍でストップしていた演劇業界の再開公演にもなったこの『大地』で、辻萬長が最後に語った「観客無しで演劇は成立しない」という趣旨の台詞は、多くの演劇人と観客の想いでもありました。
人生の最期まで良い芝居をしようと切磋琢磨を続けた稀代の名優・辻萬長の仕事は、これからは共に芝居を作った仲間である作り手、そして同業者である俳優の皆さんたちの表現の中に生き続けるのだと思います。
それは、辻萬長が井上ひさし氏や蜷川幸雄氏から受け継いで、次の時代に演じ、渡したように。