『シティーハンター』や『北斗の拳』 声優・神谷明“苦手を前向きに捉える”仕事論
■声優歴53年、レジェンド声優・神谷明が考える今の声優界
――今の声優人気についてどう感じていますか?
本当に素晴らしいと思います。(今、声優を目指す人たちが)僕らとはっきり違うのは大変な実力を備えていらっしゃる。そういう意味でさらに、その方たちを目標に出てくる人がいっぱいいると思うんですけど、追いつけないぐらい頑張ってほしいと思います。(今の人たちは)歌も踊りもすごいんですよ。声優というお仕事をやることはもちろん、いろいろな世界でも大いに羽ばたいていってほしいと思います。僕らの頃は年間デビューするのは1~2名。今はもう、多分数十名。下手すると100名を超えるかもしれません。そこで勝ち抜くのは大変だと思いますけれど、楽しい仕事をやってほしいから、ぜひ勝ち抜いていってほしいと思いますね。
現在公開中の約4年ぶりとなる最新作『劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)』。主人公・冴羽獠の原点に迫るストーリーが描かれ、最終章の幕開けと位置付けられる作品です。神谷さんは冴羽獠を演じて36年になります。
――最終章の幕開けと聞いて率直にどう思いましたか?
最初、最終章と聞いて「終わり?」と思ったんですけど、なんとなく次につながりそうだなという雰囲気を残してあるということは、もうちょっとしっかり、僕も精神的・肉体的な健康を保たなければいけないと思いました。4年後を想像すると80歳を超えますから。「大丈夫かな?」という不安はあるんですが、84歳で孫悟空(ドラゴンボール)を演じられた野沢雅子さんという素晴らしい先輩がいるので、ちょっと心強いかなという気はしています。野沢さんの背中をずっと新人の頃から見て追いかけてきて、まだお元気なのでうれしいです。あと、スタッフ・キャストを含め、みんな元気で次の作品を迎えたいと思っています。
――冴羽獠は神谷さんにとってどんな存在ですか?
考えてみれば、当時の僕の集大成。二枚目をずっとやってきて、それから面堂終太郎(うる星やつら)で二.五枚目をやって、キン肉マン(キン肉スグル)で三枚目をやり、それから渋い二枚目をやりたいなと思っていたらケンシロウ(北斗の拳)をやり、その後でシティーハンター(冴羽獠)。その僕の積んできた歴史の総まとめみたいな感じでできたらいいな、その経験値を生かして作ろうと思ったんです。獠は振り幅がすごくありますよね。一番渋いところはケンシロウのような声のイメージが自分の中に浮かんだんです。それからハンマーで殴られたり、ギャグの方に振れている時は、キン肉マンみたいな声でもいいのかなと。不安だったんですけど、やってみたらOKだったんです。それを受け入れてくれた冴羽獠というキャラクターの懐の深さ・広さ、さらに言えばファンの方の心の広さがあって育っていったキャラクターだと思います。
■神谷明「足りないものは何かというのをしっかりと捉えて…」
――夢を目指す人々に、神谷さんがアドバイスを送るとしたら?
僕いつもお話ししているんですけれども、“夢をかなえようと思ったら現実を見ろ”。夢をかなえるために必要なことは何か、足りないものは何かというのをしっかりと捉えて、それを一つずつ潰していく。苦手というのは、目の前にあらわになった課題なんですよ。(声優で言えば)声が小さい、言いにくい言葉がある、それは課題ですよね。課題を「やったー!」と思って、潰していって一歩でもその夢に近づいていってほしいと思います。
【神谷明プロフィル】
神奈川県出身の77歳。冴羽商事所属。『北斗の拳』ケンシロウ、『キン肉マン』キン肉スグル、『うる星やつら』面堂終太郎など、多数の人気作品で主要キャラクターを務める。趣味はカメラで写真を撮ること。
【お話を聞いて一答遼談!(編集後記)】
神谷さんは私のことを「遼ちゃん」と呼んでくださいます。冴羽獠から「遼ちゃん」と呼ばれる違和感が心地よく、そして心の底からうれしかったです。
自分の演じてきたキャラクターについて語る神谷さんの表情は常に楽しそうでした。50年以上第一線で声優を続けてこられた秘けつは、現実を見つめ、課題と向き合いながら真摯(しんし)に声優という職業に向き合う姿勢なのだと感じました。目をそむけたくなる課題を「やったー!」と思い潰していく。簡単ではないですが、どんな夢にも通ずる近道だと思いました。
企画・取材:日本テレビ 伊藤遼