声優・寺島拓篤の信念「自分なりの価値観を持って研究することがすごく大事」【伊藤遼の声優 一答遼談】
【寺島拓篤プロフィル】
『てらしー』の愛称で知られ、アニメ声優のほかゲームキャラクターの声やテレビのナレーションを務める。2012年からはアーティスト活動を行い、アニメ『転生したらスライムだった件』のテーマ曲なども担当している。
――声優になったきっかけは?
高校生の時に興味があったわけじゃないけど、人手不足の演劇部の手伝いをすることになって、気付いたら板の上に立つようになっていました。進路を決めるときに、他に得意なこととか、興味があることが何もなくて、“アニメ”と“お芝居”をかけたら「もう声優しかない」という、ほぼ消去法に近い感じで目指しました。だから、ずっと声優さんになりたかったとかではないです。僕、マンガが好きでもともと。絵を描く仕事に就けたら楽しいだろうなって思いがずっと昔からあったんだけど、普通に現実的ではないっていうのもあり、自分が必死で絵を描いていたかっていうとそうでもないので、また新しい方向性ってことで、より興味をもっていたお芝居の方にいきましたね。
■寺島拓篤が声優として大切にしていること
――声優としてぶつかった壁は?
アニメっていう自分の好きな世界とは一線を画している、役者としての表現の部分はずっと壁にぶつかっています、毎回毎回。最初にアニメに出させていただいた『創聖のアクエリオン』という作品で、第一話から居残りして、いろんなシーンを何テイクもやったっていうのはすごく思い出に残っています。何が悔しかったっていったら、そのキャラクターの表現ができなかったっていうこと。自分が役者として技術不足だったってことじゃなくて、一人の人間をもっと生かしてあげられなかったことが悔しくて。今でも画面の向こうにいる僕が演じているキャラクターっていうのは、画面の向こうに存在している人だから、その人の声とか生きている呼吸とか全てのものを、できるだけこっちにトランスレーションできたらいいなっていうのが、声優を始めて20年続けて思った命題かなって。なので、新しい人(キャラクター)に出会うたびに、表現、読み解き方っていうのはぶち当たっている壁ではありますね。
――声優として大切にしていることは?
お芝居的な意味でいうと、キャラクターと同じ視点になる視野っていうか、見えている景色をちゃんと持つっていうことは、お芝居の上ではすごく大事にしていますね。どうしても画面にアフレコするので、自分が立っているここ(の場所)と、画面に見えている情報でやるんだけど、そうじゃなくて、画面の中にいるキャラクターの目線で話すみたいな。それを1回想像するかどうかでだいぶリアリティーって変わってくるのかなって僕は思っていて、そういうのを大事にしていますね。
■寺島拓篤が語る アニメ『EDENS ZERO』の見どころ
寺島さんが主人公・シキの声を務めるのが人気アニメ『EDENS ZERO』です。週刊少年マガジンで連載中、真島ヒロさんの同名マンガが原作の作品で、4月から第2期が放送されています。夢の国・グランベルで機械と暮らす少年・シキたちの果てしない冒険が描かれます。
――アニメ『EDENS ZERO』、第2期の見どころは?
2期のメインになってくる敵のキャラクターがドラッケン・ジョー。1期も少し出てきたんですけど、(主人公のシキたちが)ドラッケン・ジョーとぶつかることで、だいぶ変わりますね。人との付き合い方というか、より社会を知るというか。ちょっとリアリティーがあるんですよね。僕らがいる世界と近いというか、ドラッケン・ジョーって社会派な部分も持ち合わせているキャラクターなので、そこの怖さっていうのが、2期の見どころの一つかなと思います。
■“華やかな部分を支えているのは…”未来の声優たちへ伝えたい思い
――声優を目指す人たちへアドバイスをするとしたら、どんな言葉をかけますか?
僕も声優の道まだ半ばですし、僕の妻(佐藤聡美さん)も声優で、よく家で仕事の話とかします。お互いの仕事には首を突っ込まないですけど、お互いに同じ研究をしている同僚みたいな感覚で。アニメを見ていたり、番組のナレーションを聞いていたりして、「今のすごいよね!」とかお互いに話しあったりして、常日頃から役者としての研究をしている感覚なんですよね。今、声優という職業ってすごく華やかで、憧れの対象になっているというのはすごく分かるんだけど、そうではない華の部分じゃなくて、もっと根っこの部分を見て研究してもらいたいなって。いつまでも研究できる仕事なので、僕もアフレコ現場に行ったら、先輩の背中、後輩の背中を見て「こういうふうにやるんだ」ってずっと研究しているし、家に帰っても研究しているし、ただただアニメを見ていても研究になるし。自分なりの価値観をもって研究をするっていうことがすごく大事になってくるんじゃないかなって僕は思いますね。
【お話を聞いて一答遼談!(編集後記)】
プライベートでも連絡を取り合う寺島さん。私のことを『いっとん』と呼び、友達と言ってくれる優しい方です。
寺島さんは声優であると同時に自身もアニメオタク…どのように声優という職業に向き合っているのか昔から興味がありました。好きすぎると、理想と現実のギャップに打ちのめされることが多いと思ったからです。しかし、寺島さんはアニメが好きだからこそ役者としてキャラクターを生かそうとし、では生かすためにどんな表現がいいのだろうと研究を今も続けていました。だからこそ声優として、役者として、進化し続けているのだと感じました。声優を“いつまでも研究できる仕事”と言ったときの寺島さんはどこかうれしそうでした。寺島さんは心の底から声優という職業に誇りを持っているのだと、そして何より声優という職業を愛しているのだと思います。
“華やかな部分を支えているのは根っこ”“自分なりの価値観をもって研究をする”これはどの職業の方にも共通する言葉ではないでしょうか。私も根っこの太いアナウンサーを目指し、自分なりの価値観をもって研究し続けます。
企画・取材:日本テレビ 伊藤遼