声優・森久保祥太郎の“根っこ” 大先輩から言われた忘れられない言葉【伊藤遼の声優 一答遼談】
東京都出身。声優歴は約27年。『魔術士オーフェンはぐれ旅』のオーフェンや、『NARUTO-ナルト』シリーズの奈良シカマル、『メジャー』の茂野五郎などの声で知られる。ラジオやWEB番組でMCを行うなどマルチに活躍。さらに、アーティスト活動も行い、自ら作詞・作曲も担当。現在は声優事務所『アドナインス』の代表取締役も務める。
■森久保祥太郎の原点は先輩からの言葉“平均点を狙う芝居をするな”
――声優をやるきっかけは?
正直言うと僕は声優を目指してはいなかったんですね。高校を卒業して大学に入ったと同時に幼なじみの先輩たちと劇団を立ち上げて。今から30年くらい前なんですけど、当時は小劇場からどんどん劇団が大きくなるとメディアに注目されて、そこの役者がテレビとか映画に出ていくっていうイメージがあったんですよ。例えば、三谷幸喜さんの劇団とか、『大人計画』の宮藤官九郎さんとか、八嶋智人さんとか。俳優になりたいっていうのが漠然とあったんです。その中でたまたまタレント事務所に所属させてもらっていたんですけど、その事務所と後にお世話になる声優の大手事務所がつながっていて、たまたま舞台を見ていただいたのがきっかけで、アニメのオーディションをいただいたんですよ。それがデビュー作になって今に至るっていう感じです。声優を目指していなかったので、最初は大変でした。やったことがなかったから。
――先輩声優の動きを見て勉強したことは?
草尾毅さん(ドラゴンボール/トランクス役など)や矢尾一樹さん(ONE PIECE/フランキー役など)のアフレコを前から見て、舞台ではなかなかない気付き(の演技)「うん?」とか、殴られて「うわっ」とか、そういうのがよくわからなかったから。(先輩からは)「やりにくい!じっと見てんじゃねーよ」って(笑)。でも、そのあとにみんなで一緒にご飯食べに行くときに「一緒に来い」って、収録が終わった後の食事会で毎週いろんなことを教えてくれたんですよね。技術的なこと以外の、“役者っていうのはな、声優っていうのはな”みたいな話。その時間が一番僕にとっては勉強になったというか。
――先輩から言われて一番印象に残っている言葉は?
(デビューから)数年たって、主役のアニメをやらせていただけるようになって。24歳くらいの時に、大先輩の玉川砂記子さん(南の虹のルーシー/クララ・ポップル役など)から、「あなた、NG出さなきゃいいと思って芝居してない?だから、ダメなの。ちっちゃい芝居が」って言われて。“平均点を狙う芝居をするな”と。まずは、「自分が思ったことをドーンとやれ。あなたはまんべんない芝居をしているから、正解にかすっているから間違っちゃいないけど、まあいっかぐらいでOKもらっているんだよ」 って言われたときに雷に打たれたような。以降、その一言が今の自分を作ったといっても間違いではない。それが今でも僕の根っこですね。玉川砂記子さんのおかげで、今日があります。
■25年前と今の森久保祥太郎…オーフェンへのアプローチに変化も
――20代と40代で同じオーフェンを演じる上で変化は?
オーフェンは20歳くらいの設定なんですね。で、僕も平成版の当時は20代なので、ものすごく等身大でオーフェンの気持ちを感じていたんです。オーフェンってちょっと大人だなと。それまで結構、やんちゃな役とか元気な役が多かったので、オーフェンを演じるときはちょっと大人っぽい意識をもって演じていたんです。そこから20数年たって(自分が)50歳手前になって、もう一回原作を読み直したときに全然20年前と印象が違う。当時はすごく格好いい大人でいろいろなものをグッと我慢している男なんだなと思っていました。そういう部分もありつつ、実はまだ未熟なんだ、この人って。この年になって気付いたんですよね。でも、それを演技に入れ込むって違うと思うんですよ。余計な演技だと思うんで。一回かみ砕いてまっさらな気持ちでオーフェンに向かいました。
森久保さんは現在配信中の『魔術士オーフェンはぐれ旅アーバンラマ編』で、オープニング主題歌も担当。楽曲の作詞も森久保さんが行いました。
――主題歌を作る上でどんなことを意識しましたか?
オーフェンってすごくスタイリッシュな空気を持っているんですよ。おしゃれなニヒルさっていうか、そういった部分を曲にも出せたらなと思って。詞は僕が書かせていただいたんですけど、原作で感じ取ったこと。オーフェンの中で大きな心境の変化が僕はあるような気がしていて、歌詞に落とし込んだつもりなんですけど。オープニングから見逃さないでください。
■“全部宝になる” 森久保さんから未来の声優たちへアドバイス
――声優を目指す子供たちにアドバイスするとしたら、どんなことを伝えますか?
経験したものをどれだけ引き出しに入れているかで、後のお芝居の幅って変わってくると思います。楽しかったこともつらかったことも人を傷つけちゃったことも傷つけられたことも、全部宝になるので。無駄な時間過ごしちゃったなとか、ただつらかったなで、その時はしょうがないと思うんですけど、振り返ったときに一つの経験だと思って欲しいし、体験、経験が多ければ多いほど、面白い声優、役者になるんじゃないかなと思います。
【お話を聞いて一答遼談!(編集後記)】
『NARUTO-ナルト-』の奈良シカマルや、『メジャー』の茂野五郎など、私が子供の頃から聞き続けた森久保さんのお声。目の前でお聞きして耳が幸せでした。まさに私の憧れの方とのインタビュー。当然緊張でいっぱいでした。しかし森久保さんのフレンドリーさから、世間話をしたり、共通の知人の話をしたり…気付けばあっという間に終わってしまいました。ご一緒した声優の方々に「今度森久保さんにインタビューするんです」と話すと、必ず「いいね!楽しいだろうな」と返ってきました。森久保さんの、声優仲間から愛される人柄を感じられた時間でした。
声優の玉川さんの言葉、「NG出さなきゃいいと思って芝居してない?」はどんな職業の方にも通じるものだと思います。私も周りから怒られたくないという感情が先行し、伝える表現の幅を狭めてしまう時が過去あったと思います。平均点ではなく、失敗してもいいから全力を出す。その経験を次に生かし、人は成長するということを森久保さんは体現されているのだと感じました。私もアナウンサーの業務に、平均点ではなく常に進化を求めてぶつかっていこうと思います。シカマルの口癖「めんどくせぇ」という思いは心の底にしまいながら。
企画・取材:日本テレビ 伊藤遼